2. 嫉妬
翌朝、春の御殿に帰ってきた光源氏に、紫の上は口を利かなかった。
「紫、怒ってるよな…?」
「激おこですね」
光源氏が気まずそうに女房に聞くと、その女房は耳打ちで答えた。
どうしようかと悩む光源氏に、もうひとりの女房が提案をした。
「紫の上さまが喜ぶ何かをするのはどうでしょう」
「といってもなぁ…」
紫の上は完璧を目指すゆえに本妻であることへのプライドも持ち合わせている。
何より、後見のない彼女と光源氏とのつながりは二人の愛情だ。
それが揺るがされることがあれば、それは彼女にとって最悪のことに繋がりかねないため、敏感になってしまうのだ。
光源氏はアドバイスをくれた女房たちに礼を言ってから、紫の上を探し始めた。
出会った明石の姫君や、女房たちに見ていないか聞いたりしてみたが、なかなか見つからない。
諦めかけたその時、花が咲き始めている庭が見えた。
光源氏は外の空気を吸おうと庭に出ると、寝殿から御簾を開け、紫の上がひとり座っているのが見えた。
「昨晩は、すまなかった…」
光源氏は申し訳無さそうな顔をしながら、そう言う。
「最初はそんなつもりではなかったのだが…」
「…」
紫の上は何も言わず黙っていた。まだ怒っているのか、目を合わせようとしない紫の上の横に、彼は座った。
「君が一番だよ」
光源氏は彼女の肩を自分の肩に引き寄せた。
紫の上はここで許す気はなかった。だが、いつもあまりしてこない近付き方に、つい頬が緩んでしまう。
「ずるいですよ」
紫の上は光源氏の手を握れば、小さくそう言った。
その後、二日目の行事が行われた。
六条院には臨時客の儀に大量の公達が訪れた。そしてそのうちの若者の中では、玉鬘の美貌が話題になり、彼女への求婚が相次いだという。
そして今年は男踏歌が披露された。
光源氏の息子である夕霧に加え、ライバルである頭中将の息子・柏木なども参加した。
「紫の上様!お待たせいたしました!」
光源氏に頼まれ、玉鬘は紫の上のもとを訪ねていた。
庭では男踏歌が披露されており、紫の上は明石の姫君とともに見物をしていた。
少し遅れて参加した玉鬘は紫の上の右後ろに座れば、興味津々に身を乗り出しながらそれを見ていた。
光源氏も遅れて見物しており、紫の上とともに玉鬘の若々しさを感じて微笑みをこぼした。




