7. 唐草
「大荷物ですね」
西の対にある御匣殿の女房から預かった桐箱を抱えながら、東の対へ歩いてきた源氏に、女房を二人ほどつけた紫の上が声をかけた。
「歳暮だからね、皆に配れたらなと」
光源氏は持っていた桐箱を足元に置いて、紫の上に近づいてそう言った。紫の上は、ひとつ聞いてからその箱を開けてみる。桐箱の中には、色彩豊かな衣裳が丁寧に畳んで入れられている。
また、紫の上の後ろにも、新調したのであろうか沢山の衣裳が畳まれていた。
「まだ随分あるんだね、それぞれに恨みなく分けてあげてください」
光源氏がそう言えば、年輩の女房二人がこちらで作ったものも取り出した。そして擣殿から集まったという絹織物も見て、二人の女房が取り揃えて御衣櫃なり衣箱なりに入れていく。
「どれも優劣のつけ難いものですが、着る方の容貌を考えながら選んでくださいね。折角着ているのに似合わないのではみっともないです」
二人の女房のその様子を見た紫の上は、笑ってそう言う。
「さりげなく玉鬘の容貌を推し量る気かい」
「いいえ、そんな気はありませんわ」
紫の上は戯けたようにそう返した。
紫の上に選ばれたのは、紅梅の襲で薄紫の小袿と、鮮やかな紅梅色の袿。
桜襲の細長に、艶のあるピンクの袿を添えたのは、明石の姫君に。
美しくも派手すぎない縹色の織物に、臙脂色の掻練の袿を添えたのは、花散里に。
鮮やかな赤い袿と山吹色の細長は、西の対の玉鬘にあげるのだろうと、紫の上は見ぬようにしながらも想像していた。
「明石の御方の分でしょうか?」
「ああ、そうだね。あの人なら、そうだな…」
次に選ばれていたのは、梅の折枝に、蝶や鳥が飛び交う白い小袿に、艶のある濃紺を重ねた明石の御方の衣裳である。その優美で唐風な衣裳に、紫の上は自分の衣裳に誇りを持ちながらも、嫉妬心を燃やしていた。
選別が一区切り付き、四人は一時休憩を挟むことに。
しかし、光源氏だけはまだ熱心に衣裳選びを続行していた。
「休憩はよろしいのですか」
気になった紫の上が横に座ると、そこには朱色の派手な重ねが置かれていて、光源氏は悩んだ様子で他の織物を眺めていた。
「この見立ては機嫌を損ねてしまうのでは…。良いとしても色には限りがある、人の容貌はよく無くとも、格別の深みがあるものだ」
彼が選んでいたのは、以前引き取った姫君・末摘花の分の衣裳であった。
彼女は正直いえば、容姿は良くない。良くないが、その分内面が優れており、一途で素直な女性であった。
光源氏は呟くと、柳の重ねに古風な唐草模様を織り込んだ衣裳を選べば、一人微笑んでいた。
衣選びが遂に終わった頃、外の日は落ちようとしていた。
疲れ切った紫の上と光源氏は、その疲れを顔に見せながらも、心のうちには達成感を秘めていた。
「新年が楽しみですね」
「ああ、この機会だ。盛大に祝おう」
二人は少し先の話を膨らませながら、笑い合い、夜を過ごした。




