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6. 羽衣

六条院に新たな姫・玉鬘が迎えられてから二週間ほど経った霜月下旬の夜。

六条院の主人である光源氏は、年始に向けての準備を進めていた。


光源氏は、春の御殿に設置された御匣殿(みくしげどの)にて、新調したという衣裳を見せてもらっていた。御匣殿は簡単に言うと、主人たちの衣服の裁縫などを行う施設だ。



「これが私たちがご用意した物です」

「かなりあるな」

「ええ、折角の歳暮ですから、と」

光源氏は、女房の話を頷きながら聞く。二人の前には、緋、紅梅、柳など色鮮やかな衣裳が所狭しと並べられている。


「他の方もお作りされるとお聞きしたので、それほど多くは作っていませんが、ぜひ持っていってください」

女房はそう言うと、二回りも大きい光源氏に向かって、にかっと笑いかける。


その笑顔を見た光源氏の心の隅には、若かりし頃の本妻・紫の上がちらついていた。

彼女との関係は、光源氏がまだ十八の頃に、十つほどだった彼女を偶然垣間見(かいまみ)、初恋の人であった藤壺の生き写しであり、心惹かれたことが始まりであった。


それもそのはず、この六条院の御匣殿の司令塔である女房・羽衣(はごろも)は、まだ齢十三である。

しかし彼女は一級よりも上の階級【特別一級女房】であり、序列だけで言えば、この六条院に勤める女房たちの中で四番手だ。



彼女が光源氏一行と出会ったのは、七年前。彼女が当時六つであった頃だ。

平安京のあたりは権力者も労働者もどちらも渦巻く街であり、貧富の差が激しい。羽衣はそのうちの()()()()であると言われる貴族の家系出身だ。


しかし、貴族の中でもまたヒエラルキーがある。

天皇・上皇・皇太子や、一位から三位までが公卿(くぎょう)と呼ばれる上流貴族。次に四位、五位は中流貴族、それ以下の六位は下流貴族とされた。


もちろんそのヒエラルキーは妻にも適応される。

身分の高い妻から生まれた子は優遇されるが、側室や恋人・愛人などから生まれた子供は冷遇されるのが常だ。


羽衣の父は、大納言(正三位)という地位に就いている上流貴族だが、母は身分の低いただの恋人であった。しかも、母は出産の際に亡くなってしまったため、羽衣は父と顔を合わせることもなく、引き取られることもなく捨てられてしまったのである。


羽衣は六歳で、特技であった裁縫を活かし、孤児が多く住んでいた地区で仕立て屋を開く。するとその噂は都にも伝わり、「霞羽衣(かすみはごろも)」という名の店として知れていた。

そこを訪れた光源氏、紫の上によって六歳の頃に引き取られ、一緒に過ごして成熟していったのだ。



衣裳を預かって御匣殿を後にした光源氏は、久々にそのことを思い出した。

「…羽衣ももう十三なんだよなぁ」

光源氏は廊を渡りながら一人そう呟き、自分の老いを感じてしまったのか少し悲しくなる。しかし、娘同然の少女が大人になったことを感じて嬉しくも思えて、次第に笑顔になっていった。

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