空間と時間の伸び縮み
ローレンツ変換を「自分で」つくろう!
概念だけでも。
前回、従来の変換を考えました。そこでは、異なる二つの速度の系から見た光の速度は異なるはずという結果でした。
私たちは、光速度不変の原理を前提としているので、従来のガリレイの相対原理は正しくないと考えることになります。さりとて、バイクや自動車の速度の変換には問題ないように思います。ガリレイの相対原理は全くのデタラメという訳ではなさそうです。これを光速度不変の原理を満たすように修正することはできるでしょうか。
修正するとなると何をすれば良いでしょう。速度の異なる二つの系から光速度が同じであるためにはどうしたらよいか。
一つは、互いの時間の進み方が違うことが考えられます。系1よりも系2の時間の進ま方がゆっくりであれば、系1の時間で光が進む距離と、系2の時間で進む距離を一致させて、どちらからみても光速度を一定にできるかもしれません。
もう一つは、互いの空間が伸び縮みしていることが考えられます。系1よりも系2の空間の縮んでいれば、系1の時間で光が進む距離と、系2の時間で進む距離を一致させて、どちらからみても光速度を一定にできるかもしれません。
実際には、両方が起こっています。
止まっている系からみて動いている系の時間はゆっくりとなり、空間は縮みます。
どちらが止まっているとは言えないので、互いにに自分の系が止まっていて、相手が動いています。
今回の話はこれまでです。以上のシチュエーションを数式にすると以下になります。飛ばして構いませんが、ガリレイの相対原理で系1から2に変換するときに、光速度不変となるように、座標と時間を伸び縮みさせるやり方で数式モデルをたてるのだ、ということだけご理解ください。お読みくださる方は、数式の変形をやろうとしたら、面倒なはずです。高校数学でゴリゴリ計算すればできますが、詳細は飛ばしました。光速度不変にするガリレイ変換の改良版の数式の立て方と、それを解くことができることだけ理解ください。
ガリレイ変換は以下でした。
x1=x2+V×t2 (01)
y1=y2, z1=z2 (02)
t1=t2 (03)
これでは、x1とx2, t1とt2は伸び縮みしません。x2=γx1、t2=αt1のようにすれば、空間がγ倍、時間がα倍のように、伸び縮みします。
そこで、空間と時間の伸び縮みγ、αを、光速がどこからみても一定となるように決定してみましょう。
x1=γ(x2+V×t2) (1)
y1=y2, z1=z2 (2)
t1=βx2+αt2 (3)
式(1)で、γが全体にかかっています。t2=0のときに、x2=x1=0にいる、というように、どこかの場所と時刻で、一瞬だけ、x1、t1とx2、t2を同期できることを想定しています。同期する場所と時刻は任意でも、式(1)となります。
式(2)は、系1, 2はx方向のみに進むためです。
式(3)は、時刻t1は、系2の空間と時間の伸び縮みによる可能性があるので、αとβの両方を考慮します。
光は光速で移動します。系1において、移動距離の二乗は三平方の定理より以下で与えられます。
x1^2+y1^2+z1^2
光の光速をcとして、光が時間tで進む距離はct1です。よって、光の移動距離の二乗は以下となります。
(ct1)^2=x1^2+y1^2+z1^2 (4)
なぜ、二乗にするかというと、平方根をとるのが面倒だからです。
系2に当てはめます。
[c(βx2+αt2 )]^2=γ^2(x2+V×t2)^2
+y2^2+z2^2
展開すると、以下になります。
[(cβ)^2-(γV)^2]×t2^2
=[γ^2-(cβ)^2]×x2^2
+y2^2+z2^2
+[2vγ^2+2c^2αβ]×t2x2
(5)
系2でも光速度は同じなので、式(4)と同様に、以下が成り立つ必要があります。
(ct2)^2=x2^2+y2^2+z2^2 (6)
式(6)が成り立つためには、式(5)において、鉤括弧[]内が、式(6)になるようにすれば良いです。
[(cβ)^2-(γV)^2]=1 (7)
[γ^2-(cβ)^2]=1 (8)
[2vγ^2+2c^2αβ]=0 (9)
求めたいのは、α、β、γの3つの数で、等式が3つあるので、解けます。高校数学で解けます。が、面倒なので、結果だけ書きます。
γ=α=1/√(1-(V/c)^2) (10)
β=γV/c^2 (11)
です。
式(1)〜(3)、ただしα、β、γが式(10)(11)の変換が特殊相対性理論です。ローレンツ変換とよばれています。
この式を使うと光速が系1, 2どちらからみても同じになることが示せます。そのようつくったのでそうなるはずですが、数式が多いので今回はパスします。いつか速度の合成則というのを定義して説明したいです。
速度Vが光速度cよりも小さなとき、例えば、自動車はV時速60km/h=秒速=16m/sです。光速度は、3×10^8m/sです。V/c=0.000000055≒0なので、γ=1、β=0でガリレイ変換に近づきます。よくできた変換です。
また、細かい話ながら、意外とこんがらがる話をします。式(3)のβがゼロにならずに残りました。これは、系2の時間t2において「同時の事象」がx2aとx2bの異なる二つの場所で起こると、2箇所で起こった事象は、系1の時間t1では同時ではないことを示します。つまり、式(3)に異なるx2aとx2bを代入すると、t1の値は違う時間になるのです。本当のところ、時間や空間が伸び縮みするだけならまだよかったのです。時間の変換が座標に依存するこの項が地味に、しかし、確実にあなたを混乱させます(させています)。なぜこんな項があるのかというと、光速度は距離と時間で決まります。時間の変換が系2の座標によらない(距離によらない)と、光速度を一定にできないのです。「ガレージのパラドックス」に実感がわかないあなたと私に言っています。座標変換したときに時空が斜めになり混乱するあなたと私に言っています。私のこんな説明で分かるとは思いません。私たちを悩ますのは、数式上は、「これ」です。
最後に、振り返ります。系1と2の座標変換において、最初から、空間と時間が伸び縮みすることを認めました。伸び縮みの変数をどちらの系からみても光速が同じになるように決めました。
他の導き方として、電車の中の二つの鏡を往復する光を電車の中でみた人と電車の外で止まっている人とを比べて導く方法があります。このやり方だと、一見、従来の見方を変更せずに相対性理論が導かれる錯覚に陥る気がします。トリックが隠れてしまいます。
今回のやり方は、最初から空間と時間の伸び縮みを前提として導きました。数式が面倒ですが、光速度がどこからみても一定になるのが当たり前としてではなくて、そうなるように決めたのです。
光速よりも十分に小さな速度では、従来のガリレイの相対原理に近づきます。筋は良さそうです。
特殊相対性理論は、本物の自然、しかも身近な概念でありかし、時空に関することなので、どうしても、「実感」が伴わないと先に進めない人が多いかも知れません。
この項では、「光速度不変の原理」を前提として、ガリレイ変換を拡張するには、空間と時間が伸び縮みすれば良い、という「アイデア」で、ローレンツ変換を導きました。あとは、この結果が実験と矛盾しないか、新しい概念を生み出さないかをチェックすることになります。
特殊相対性理論の理解を図で助ける方法があります。ミンコフスキー図といいます。系1に関して、横軸をx1、縦軸をt1に取ります。二次元の図面に書くので、y1, z1はかきません。このとき、系1に対して、系2は斜行します。系2のt2軸はt1と平行ではなく、x2もx1に平行ではありません。
ミンコフスキー図で、相対性理論を「実感的にわかる」ということはないでしょう。ただ、理解の助けになります。
特殊相対性理論がよくわかる、ことをうたう書籍があります。しかし、空間が縮んだり、時間が伸びたり、これが「わかる」には、日常的な実感では難しい、と筆者は考えます。