従来の見方〜単純な足し引き〜
ガリレイの相対原理、と呼ばれる、
前回、光速度不変の原理で話を進めようと言いました。しかし、速度について考えたことのある人なら、違和感を感じます。道路脇に座っている人が時速60kmで走る自動車と、同じく時速40kmで追いかけているバイクがいたら、バイクからみた自動車は60-40=20、つまり時速20kmで遠ざかることになります。どこからみても、速度が一定なんてありえないじゃないか!
これが、相対性理論をわかりにくくする要因です。
今回お話したいのはここまでです。
以下、解決するためのトリックのあらましを説明する準備をします。数学を使います。述べたいことは済んだので、飛ばして構いません。
では、冒頭に述べたバイクと自動車の速度の話を数式にします。今回は相対性理論は考えません。従来の考え方、ガリレイの相対性原理を定式化します。
二つの系1(例えば道路脇)と2(例えばバイク)を考えます。系2は系1に対して、速度Vで移動しています。反対にみると系1は系2に対して逆向きの速度-Vで移動します。3次元空間x, y, zのうち、速度の向きはx方向とします。
系1を基準に測った座標と時間を(x1, y1, z1, t1)、系2を基準に測った座標を(x2, y2, z2, t2)とします。互いの関係は以下となります。
x1=x2+V×t2 (1)
y1=y2, z1=z2 (2)
t1=t2 (3)
系2は系1に対してx方向で速度Vで進んでいるので、系2で座標x2と測定された事象は、系1では、式(1)のような関係になります。式(2)はy, z方向には進んでいないというだけです。進んでいる場合には、y,z方向も式(1)のように変換すれば良いです。後の計算を楽にするために、xだけに進行させます。
式(3)はとても重要です。時間はどの座標系からみても同じに進む、という一見当たり前のことです。しかし、全宇宙に共通の絶対的な時間があることを私たちは認めていることになります。考えてみるとこれは自明なことではありません。
上の式で左辺を系1から系2に変更すると以下になります。
x2=x1-V×t1 (1b)
y2=y1, z2=z1 (2b)
t2=t1 (3b)
では、系1からみて速度Vaで進む物体(例えば自動車)を考えます。この物体はx1の座標では以下となります。
x1=Va×t1 (4)
これを、座標系2からみるとどうなるかは、式(1b)に代入します。
x2=x1-V×t1
=Va×t1-V×t1
=(Va-V)×t1 (5)
従って、系1からみて速度Vaの物体は、系2からみて、Va-Vです。
物体の速度Vaを光速とします。すると、系1からみて光速の物体の速度は、系2からみて光速からVを引いた速度になります。これでは、系1と2で光速が異なります。
こんがらないように纏めます。私たちは、光速度不変の原理を前提に決めたのでした。従って、直感的にわかりやすいガリレイの相対原理は、私たちの前提を満たす変換ではありません。私たちの前提が正しいのなら、ガリレイの相対原理は間違い、もしくは近似的にのみ正しい、となります。もちろん、近似的には正しいです。
式(3)のように、時間もt1とt2と添字を使いました。特殊相対性理論に限らず、ガリレイの相対原理においても、空間座標x1とx2は相対的に決まります。ガリレイ変換では、時間は相対的でなく、絶対的な時間が存在することを仮定していることを強調しました。