6、継承
封印で眠っていた100年間と宝珠を抑えるのに力を放出していた事で、儂の記憶や使えた技などの大半が失ってしまった。
それでも儂は基本的な武器の使い方や魔術の知識は覚えていた。
特訓をすぐに開始したがジョンの才能は凄まじかった。
教えた武器の使い方をすぐに覚え、数時間で完璧に使いこなした。それどころか異なる武器を使った二刀流をしてみせた。
「次は魔力のコントロールじゃ」
魔法は体内の魔力を使う為、魔力が少ない者や持たない者には使う事が出来ない。
魔術は誰でも使う事が出来るが、外の魔力を体内に取り入れ扱わなければならない。外の魔力は環境や濃度がその土地によって違い、扱いを間違えれば内から破壊され二度と魔力を扱う事は出来ない。
儂が教えるのは荒れ狂う魔力の精密なコントロールとどんな状況でも乱すこと無く扱う事の出来る集中力。
「どんどん行くぞ!」
儂はジョンに魔力のコントロールをさせながら攻撃を仕掛けて行く。 ジョンは避け時にはわざと攻撃をその身で受けながらも魔力をコントロールしていく。
ジョンは休む事無く魔力をコントロールし続けて、儂も応える為に残り僅かな命を燃え上がらせ魔術を行使する。
鉱物を溶かす程の炎や全てを削り取る嵐、その場にいる者を押し潰す重力など多種多様な魔術をジョンは耐える。
「成功じゃ」
ジョンは遂に魔力を完璧にコントロールする事に成功する。大量の魔力がジョンの体の隅々にまで行き渡り満たして行く。
「それでは最後の仕上げじゃな」
儂は自分が覚えている魔術の全てを時間が来る前にジョンに教える事が出来た。
「気を付けて行くのじゃぞ」
塵になり始めた左手を隠しながら、あの不死の元へ行くジョンを見送る。
「疲れたの…………」
儂は壁にもたれ掛かり塵に変わる体を静かに眺める。2度目の死という経験に不思議と恐怖などは感じず、寧ろ心地よく満ち足りた気持ちで儂はいた。
「お迎えが来たようじゃな…………」
「初めましてだ。100年という長い時を宝珠の封印に使った優しい人」
儂は目の前で微笑む女神ティスカを見る。
その姿を見て儂は人間だった頃に生と陸を司る女神セクアスを見た事を思い出す。あれはセイガ教に入信してすぐの頃で聖堂で祝福を与える為に姿を見せた。伝承の通りに美しい姿をしていたが我儘な女神で気に入らない者には祝福を与える事が無かった。
「伝承という物はやはりあてには出来ないようじゃな」
「私を恐ろしい女神だと思ったか?」
「伝承のあなたは周囲に死を振り撒く恐ろしい女神として描かれていたが、実際にこうやって見てみるとあなたはあの子の様に優しい女神様じゃ」
身に纏うその力は冷たく相対する者に死を感じさせるが、その奥には優しく包み込む様な暖かい光が儂には見える。
「嬉しい事を言ってくれる」
「女神様、最後に儂の願いを聞いて貰えないじゃろうか?」
「あの子に渡すんだろ?」
「お見通しのようじゃの」
ジョンは確かに強いが、今のままではまだ勝つ事が出来ない。
魔法は使用する時に魔力が必要な以外にも属性の適性が必要で、火魔法なら火の適性が光魔法なら光の適性が無ければ扱う事が出来ない。魔力が多ければ無理矢理発動する事も出来るが、その場合は体力を消耗し激痛に襲われる。
そして魔法は魔法でしか防ぐ事が出来ない。これは単純に魔力の質が影響していて、外の魔力よりも自分で生み出す魔力の方が扱いやすく純度が高い為だ。
儂には6つの属性全てに適正が有り、どうせこのまま消えてしまうのならジョンに渡して仕舞うのがいいと考えての事だ。
「分かった。最後の望みを叶えよう」
「ありがとうございます」
体は塵となり儂の意識は無くなって行く。
暖かな光が近付いて来ると、目の前に微笑む女性とこちらに手を振る元気な少女が立っていた。
その2人を見た瞬間、流れる筈の無い涙が零れ落ちた。俺は急いで駆け出して2人を強く抱き締めていた。
「すまない、200年も待たせてしまった」
「いいのよ。私達はあなたが人々の為に頑張って戦っていたのを見ていたわ」
「お父さん、ずっと一緒にいようね」
俺は女神ティスカに頭を下げ、妻と娘と一緒に光の向こうへと足を進めた。
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「神官さん、死んじゃったんですね」
順調に洞窟の奥へと進んでいるとスキル獲得の表示が現れステータスを確認する。
名前:ジョン
種族:スケルトン(ミノタウロス) Lv13
職業:漁師 Lv13
HP 354/354 MP107/107
STR:96(+5)
VIT:58(+11)
AGI:67(+2)
DEX:74
INT:102
《装備》
【漁師の銛】【木製の大盾】【ボロ皮のローブ】【皮のズボン】【サンダル】
《スキル》
【槍術Lv6】【大剣術Lv4】【剣術Lv2】【短剣術Lv2】【斧術Lv1】【棒術Lv1】【二刀流Lv4】【大盾Lv5】【六大魔法Lv1】【月魔法Lv1】【魔導Lv1】【魔力操作Lv7】【魔力感知Lv4】【魔力回復Lv2】【怪力Lv6】【疾走Lv5】【頑丈Lv2】【投擲Lv6】【水上格闘Lv1】【格闘Lv4】【漁Lv1】【死炎Lv2】【不死族製作Lv1】【看破Lv3】【冷静Lv7】【集中Lv8】【回避Lv3】【挑発Lv1】【威圧Lv2】【解体Lv1】【舞踏Lv1】【歌唱Lv1】【幸運Lv2】【不死族支配Lv1】【言語学Lv4】【打撃半減Lv8】【状態異常半減Lv8】
《称号》
【王都脱出】【騎士殺し】【魂の救済者】【聖教の神敵】【魔導師】【継承者】
【魔法脆弱】が消え去り新しく【魔導】というスキルが発現していた。そして最後の称号の欄には【継承者】という称号が有り、それが何を意味するのかを僕は自然と分かった。
神官さんの部屋にあった本に魔法は魔法でしか防げず適性が無いと使えず、【魔導】というスキルは魔術と魔法の両方が使える人が一定の確率で獲得するスキルだと書いてあったのを思い出す。
魔法スキルは一つも持っていなかったのに【魔導】を獲得したのは神官さんが僕に託した物なのだと理解した。
「カカカカ」
目の前に1体のボーンソルジャーが現れ、僕は試しに魔法を使う。頭の中に自分が使える魔法の名前が浮かび、ボーンソルジャーに向けた右手に体内の魔力が集まって行くのを感じる。
「ライトボール」
魔法の名前を言うと白い光の玉がボーンソルジャーに向かって飛んでいき、命中すると一瞬でボーンソルジャーのHPを消し飛ばす。
「凄いな。これが魔法なんだ………」
僕はしばらく右手を眺め、静かに後ろに振り返りお辞儀をした。
そして再び奥に向かって歩き出す。