5、追放神官
2月5日
教会が私を追放した。
理由は私が女神ティスカ様を信仰していた事だが、それは建前で実際は教会にとって不都合な私達を消し去る事が目的だろう。
実際にこの数日の間に多くの神官や司祭が行方不明になっていて、ティスカ様を信仰していたシーダ教が何者かに襲撃されて壊滅した。必ずその近くには教会の聖騎士や暗殺部隊が目撃されていて、外には私を監視する聖騎士達がいる。
私もただで死ぬつもりは無い。少しでも教会の後ろにいる何かについて調べそれを明かしてみせる。
4月20日
死ぬ間際に発動した不完全な転移魔法によって私はこの洞窟に飛ばされた。そこで息絶えた私はこの洞窟に充満する瘴気によってアンデッドになったが、その影響であの日の大部分の記憶を失ってしまった。
幸いに死ぬ数ヶ月前から日記を書いていた事で、私が誰でどんな人間だったのかを少しだけだが思い出す事が出来た。
当面はこの洞窟で過ごす事になるので、とりあえずは部屋を作り洞窟の調査をする事にした。
8月28日
調査を進めていると古い魔導書や希少な魔導具などが見付かり、部屋に運び込み確認していると当時の日記を見つけた。日記の保存状態が悪く書かれているのが古代文字で全てを読むことが出来なかったが、読めた部分を繋げていくとこの洞窟は大昔の魔術師達が不老不死になる為に使っていた研究施設だった事が分かった。
酷い儀式を繰り返ししていた事で怨みや怒りなどの良くない様々な物を呼び込んだ。そして儀式が失敗した影響でこの洞窟を中心に瘴気が拡散し汚染され不死達が産まれる原因になった。
洞窟の奥からは瘴気が強くなっている気配が感じられどうにかしなければいけない。
6月9日
あれから2年が経過した。
数千にも及ぶ実験によって瘴気の殆どを球に封印する事が出来たが、それによって危険な呪物が出来てしまった。普通の不死ならこれを取り込む事は出来ずに滅びる事になるが、もしもこれを取り込むことが可能な不死がいればその力を更に高める事になるだろう。
この呪物を作った事により私の体は本来なら何の影響も無い聖の魔力のせいで、魂がゆっくりと消えていくのがわかる。この身が滅びる前に呪物を洞窟の奥深くに私を楔として封印する事にしよう。
日記はそのページを最後に終わっている。
ここで過ごして1週間が経過した。この部屋にあった本は殆どがステータス上昇やスキルを獲得出来る物ばかりで、読むだけでは無く書かれている通りに練習しなければ獲得出来無い物もあった。
「ずっと部屋にいたし、洞窟の探索でもしようかな」
全ての本を読み終えた僕は部屋から出て最初に立っていた場所まで戻る。
「日記に書いてあった通りだ」
この洞窟には海と繋がっている場所が幾つか有り、その中で僕がいたこの場所だけに漂流物などが流れ着く。神官さんも毎日ここに来ては使える物を持って行ったと書いていた。
「色々あるね」
スキルの【鑑定】を発動しながら、流れ着いた物を調べて使えそうな物をどんどんしまっていく。
「使えそうな物がいっぱい見つかった」
「た、助けてくれ!」
突然、声がして振り返ると1体のスケルトンが走って逃げて来る。その背後には武装したスケルトンではなく、ボーンソルジャーという魔物が現れる。
「シンカン…………ハッケン………………」
ボーンソルジャーがスケルトンを見て神官と言った。
「タカラ……ホウジュ………シノホウジュ………」
「ヨコセ……ヨコセ…………」
「貴様等にこれは絶対に渡さんぞ!そんなに欲しければ、儂を倒して見ろ!」
「ハイジョ……ジャマ…………ハイジョ……………」
ボーンソルジャーの1体が斧を振り上げて神官さんに向けて飛び掛かる。僕は神官さんの前に立ち、盾で斧を受け止める。
「お、お主は誰じゃ!?」
「初めまして、僕はジョンといいます。あなたの部屋を借りている者です」
挨拶をしつつ攻撃しようとするボーンソルジャーを殴り、近くにいたもう一体の胴体に蹴りを放ち壁に叩き付ける。
最後の1体が逃げようとするので、拾っていた鉄鉱石を取り出しボーンソルジャーの頭に投げ粉砕する。
「神官さん、敵は倒しましたよ」
「助かった。若い頃はあんな奴等をお主の様に一撃で倒せたのじゃが、歳はとりたくないのう」
「神官さんは何でここにいるんですか?日記には洞窟の奥深くで呪物と一緒に封印するって書いてありましたけど」
「確かに儂はこの100年、洞窟の奥でこの死の宝珠と共に封印されていた。じゃが1ヶ月程前に宝珠を求めて儂の封印を解除する者が現れたのじゃ。儂は宝珠を守りながら何とかここまで逃げて来て、お主に助けて貰った所なのじゃ」
神官さんは首にかけていた袋から小さな玉を取り出す。玉は紫に輝きながら助けを求める数え切れない程の声が聞こえてくる。
「宝珠がお主に反応しておる。こんな事は今まで無かったのじゃが」
「ちょっとすみません」
「何をするんじゃ?」
【死炎】を発動して、両手を白い炎が纏う。
驚く神官さんから宝珠を受け取り、優しく両手で包み込む。
大量の魂が宝珠から解放されて喜びの声をあげながら周囲を飛び回り消えていく。
『助けてくれてありがとう』
最後の魂が消えていく。
宝珠はまだ紫に輝いているが、声は聞こえなくなり澄んだ光を放っている。
「い、今のは………!?そうか、そういう事なのじゃな!お主がティスカ様の眷属か!」
「返しますね」
「いや、それはお主が持っていなさい。それよりもお主に頼みがある。この洞窟で暴れている不死を倒して欲しいのじゃ」