殺人犯はポーカーフェイスを崩さない
くそっ。
最悪の目覚めだ。
金槌で殴られるような頭痛。
飲みすぎて効果が薄れた痛み止めをミネラルウォーターで流し込み、着替えを済ませて車に乗る。
今日もクソったれな職場で、クソ上司の叱責に耐えつつ、顧客のクソな要求を聞き流し、いつも通り適当に仕事を済ませる。
退屈な日常にフラストレーションがたまる一方。
たまにはガス抜きが必要だ。
仕事を終えた俺は以前から目を付けていた一軒屋へと向かった。
薬中のクソ野郎が住んでいる家だ。
少し離れた場所に車を止め、手袋をつけて、使い捨ての靴に履き替える。
ひと気がないのを確認したら忍び足でその家へ近づいて行く。
懐のナイフも忘れずに。
裏口をそっと開いて中へ入ると……妙な気配。
もしかしたら――
「おじさん?」
そこには一人の少年がいた。
足元には血だまりができている。
「フリック……まさか……お前……」
その少年には見覚えがあった。
近所に住む悪戯好きの忌々しクソガキだ。
「ちっ、違うよ! 僕じゃない!」
慌てて否定するフリックだが、ただのガキがこんなところにいるはずがない。
家主を殺したのはコイツだろう。
「おい、貴様ら何をしている?」
そこへ一人の男が現れた。
トレンチコートを着た中年の男。
警官のアンカーソンだ。
「おい、ジミー。それにフリック。
ここを紹介したつもりはないが?」
アンカーソンは苛立ったようすで眉を寄せる。
奴は俺に獲物を紹介してくれる。
少しばかりの手数料を支払えば、殺してもいいヤツを紹介してくれるのだ。
彼の指示に従いさえすれば安全に殺しが楽しめる。
「すまない……魔が差したんだ。
でも俺はやってねぇぞ、まだ」
「ぼっ、僕もだよ!」
「ふむ、二人とも嘘をついているようには見えないな。
久しぶりに私も楽しもうと思ったのだが……まぁいい」
アンカーソンは悩まし気に顎をさすりながら言う。
「それにしても、この人を殺したのは誰なの?」
「さぁなぁ。俺たちの知らない誰か、だろ」
「ああ、私の顧客名簿に載っていない、
よそから来たご新規さんの犯行かもしれない」
ご新規と聞いて、フリックは口元を釣り上げる。
「つまりは新しい仲間ってことだね」
その言葉を聞いて、俺も少しばかり口元が緩んだ。
ここは殺人犯が住む地獄のような街。
住んでみたら意外と快適。
誰もがポーカーフェイスで日常をやり過ごし、闇夜に紛れて牙をむく。
最高にクールでエキサイティング。
どうだい?
アンタも俺たちの仲間にならないか?