彼女のカケラ
この物語は『バレンタインデーには“N°5 ロー”は居ない ミスディオさんの“毒吐く” <期間限定公開>』の後日談となります。
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出来ましたらこちらをお読みいただければ<m(__)m>
あれから俺は風俗狂いになった。
そしてそれは思わぬ波紋を呼んだ。
カノジョ…紗英のお母さんから電話で泣かれた。
『私達のせいで本当にごめんなさい』と
多分、香苗から漏れたのだろう…
まあ仕方ない。会社では『風俗キング』呼ばわりされているのは同僚の香苗も知るところだし、何かの折に紗英のお母さんの耳に入ったのだろう…紗英と香苗は家族ぐるみの付き合いだったし…俺の自業自得だ。
亡くなった紗英やお母さんには悪い悪いと思いながらも
風俗通いを止められなくなってしまった。
あんなにも紗英の事を愛していたのに…
切なくなったら…『自分で慰める』方が、まだよほどマシだろうに…
俺は『自分で慰める』事すらできなくなってしまった。
もちろん何度も試みた。
不謹慎とそしられようとも…故人を思い浮かべて…
でも途中で頭の中の“対象“が
バレンタインデーのあの日…
俺を抱き留めてくれたのに
夜中、忽然と姿を消した
あの“風俗のオンナ”にすり替わってしまうのだ。
あのオンナの源氏名も…もちろん“店”の名前も知らない。
また逢いたくなっても
あのオンナを手配したのは紗英のお母さんだ…
聞く訳にもいかない。
レアアイテムを求めてガチャを回し続けるように…色んな店の女の子を呼んだ…
だけど
あのオンナや紗英の事を忘れていられるのは、ほんの数分で…
ぽっかりと空いた腕と心の中の喪失感に苛まれて
また、新たな店を…
女の子を物色している。
しかし今日は12月24日! しかも土曜だ!!
今さら空き室などあるものか!
でもまあ…ラブホなら空いているかも…
でも“宿泊”は無理だろう…
でも、もしホテルの予約が取れたら…
このお店に電話してみよう。
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予約はネットじゃなく電話。
色々と情報を引き出せるから…
『ハイ!ステラです』
「今日、ALL予約できますか?」
『お客様、初めてですか?』
俺はあえて“常連”を装う。
「いや! 誰ならいけます?」
『ええと…リナちゃん、アキナちゃん、サエちゃん、マミちゃん…』
「あっ!サエちゃんって!どんなコでしたっけ?」
『金髪ロングのゆるふわソバージュで胸がツン!ってしてるコですよ。顔出しNGなんでネットには上げてませんが…』
「そのコでお願いします」
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部屋のドアを開けると…“カノジョ”が立っていた。
俺の顔を見て軽くため息をついた。
言わずもがなの反応だが…ようやく見つけた人だ。
逃げないで欲しい。
「中、入ってくれないかな」
カノジョは無言で頷き、入って来る。
「この源氏名にした時…いつかはこんな事になるかもと思ったけど…また“イベントの日”に出くわしたね。 あなたの様子から…偶然ではないって分かる…顔出しNGにしていたのに、どうやって調べたの?」
「ガチャ引くようにしてとっ替えひっ替え呼んでた。最後は勘だったけど」
「そうなんだ…改めてお詫び申し上げます。 あなたの亡くなった恋人の名前を使ってしまい申し訳ございません。あと、この前は逃げ出してすみませんでした。」
「いや、それは…あなたはあの時、お金を持って行かなかったでしょ? きちんとお支払いはしないと…きっと、お店からは徴収されたのだろうから」
この人…『さえさん』はアハハと笑った。
「座ってもいいかしら?」
「もちろん」
「正直なところ、あの店のマネージャー酷いやつでさ! 紗英さんのお母さんに法外な値段をふっかけていたの。」
「ひょっとして、その水増し分もあなたが自腹で?」
さえさんは頷いた。
「それも覚悟の上…ううん、そんな“かっこいい”物じゃなかったね。あの時、私は夢中であなたと紗英さんから逃げ出したの。自分が消えてしまいそうで…だからこの不正な請求を肩代わりできて良かったと思う。どうせ消費されるカラダで稼ぎ出したあぶく銭なんだから…」
「そんな事は無い! 俺、今、『風俗狂い』って揶揄されるくらいに色々と通い詰めているけど、決して楽な仕事とは思えない! だから…」
「そっか!あなたはそんな優しい事が言える人なんだね…でもね、やっぱあぶく銭だよ。それに…どんな仕事だって楽あれば苦あり、苦あれば楽ありでしょ?! ところでココのお店のシステム知ってる?ヤりたければお小遣い欲しいんだけど…って!! プッ! アハハハハ」
いったいどうしたんだろう? さえさんはベッドに身を投げて笑い転げた。
「クククク、イヤ、ゴメン! なんかセリフがバカ臭くてさ!『お小遣い』だって!! アハハハ、イタタタ笑い過ぎてお腹痛い!」
「えっ?! 大丈夫?」
思わず覗き込んだ俺の首をさえさんは腕を絡めて引き寄せ、キスをくれた。
「する?」
頷く俺のシャツのボタンを外していくさえさんの額に、シャツの合わせの間から滑り落ちた“紗英”のメモリアルペンダントがコツン!と当たった。.
「これは?」
「…メモリアルペンダント。紗英の…カケラが入っている…」
「ダメでしょ!! オンナ抱くのに、これ付けてちゃ!」
「うん…いつもはちゃんと外していくんだけど…どうしたんだろう…」
さえさんはペンダントヘッドをそっと自分のくちびるに押し当てた。
「もう逃げたりしないから…明日の朝、お別れするまで、このペンダントを私に貸してくれないかな…」
ふたりでお風呂に入って身を清めた後、俺はさえさんの首にメモリアルペンダントを付けてあげた。
そしてカノジョはバスローブを脱いだ。
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カチャカチャとカップとソーサーの擦れ合う音で俺は目を覚ました。
電気ケトルがシュンシュン湯気を吹いている。
「お、いいタイミングで起きたね! コーヒー?紅茶?緑茶?」
「コーヒーかな…」
「よしよし」
背中を向けているさえさんのポニーテールが可愛らしく色っぽくバスローブの上で踊る。
やがて芳しいコーヒーの香りが立ち込めてオレはさえさんを飽くことなく眺めている自分に気が付く。
「さえさん!オレと結婚して!」
“前”とまったく同じプロポーズの言葉があまりにもサラリと出ると
さえさんの背中がピクン!揺れた。
カタン!ため息をつくようにケトルが電源プレートに置かれた。
「ほぼタダで私の上に乗っかろうとするのはどうかな?…」
「違う!! そんな意味じゃない!!」
「そうだね…」
さえさんはコーヒーのドリッパーをカップから引き上げた。
「お子様にはブラックは向かないかな?」
「何を」と言い掛けた俺にさえさんは笑顔で振り返った。
更に、言葉を継ごうとする俺の口をキスで塞ぎ、ダメ押しでそのツン!とした胸に俺の顔を抱き込んだ。
さえさんは指にオレの髪を絡めながら頭を撫でてくれる。
「やっぱり匠は…私達の子供だね…仕方ない、教えてあげるね…
紗英さんはね、私のカラダを使って匠を産み直したの。
匠が自分との繋がりを持ち続けながら新しい伴侶と新しい人生を歩んでいく事を心から願いながら…
匠の聞き分けが余りにも良くないから…私はもう一度この身を紗英さんに重ねてあなたを抱き、産み直したの
私の“好き”は親だから…
あなたの“好き”は子供だから
親子のつながりでは結婚はできないでしょ?」
さえさんの胸から顔を上げ俺は呻く。
「そんな事!勝手に!…」
さえさんの手は俺の頬を優しく包むけれど言葉は決然と俺を突き放す。
「匠! あなたにとって本当の人は必ず居るから! その人が見つかるまでは…おっぱい飲みたくなったらママのところへいらっしゃい」
本当にそんな人が居るものなのか?? 俺にこんなにも心を遺してくれた紗英と…その想いを受けてこんなに心を傾けてくれるさえさんより素敵な人が…
あとどのくらいこうして居られるのか…
男は女々しい(と言う字も女性には失礼だが)
だから女の胸を涙で濡らすんだ。
明日から12月。もう我慢できずに勇み足でクリスマス関連のお話をUPいたしました。(#^.^#)
でもね
やっぱり泣きながら書いてしまったのですよ。
もし私に
心から愛する人がいて
その人を遺して死んでしまったら
このように想っていて欲しいと願ってしまうのだろうか…
それとも流れのままに忘却の彼方へ押しやって欲しいと願ってしまうのだろうか…
あ、ヤバい また…(/_;)
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