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消えた人

作者: よぞら

 日差しの温かいお昼間の事でした。

 散歩がてら近くの広場へ赴いたのです。

 そこには大きな池があり赤い橋がかかっております。池には多くの鯉がおりまして昔は餌箱が設置してありましたが鳥害の為、撤去されたとお年を召したご近所の方に語られたことがございます。

 池の周りには緑化目的で多くの植木があり、適度な木陰がございました。

 少し休もうと自動販売機にて清涼飲料水を購入し木陰の中のベンチへ腰を降ろすことにいたしました。

 平日の昼過ぎとなりますと閑散としておりまして、遊具のない広場には子供の姿もなく静かな時間でございます。

 程よい気温と風にこんな休日も悪くないと、鞄に入れておいた文庫本を開きました。

 どのくらい時間が経過した頃でしょう。

 読書で凝固まる首を回し、視線を上げた時でした。作業着のような紺色の服装の男性が橋の真ん中で池を覗いておりました。短髪をオールバックにセットし還暦前後の背の高い男性です。

 水質検査などの業者の方でしょうか。時々見かける為、気になりまして本を閉じて男性を眺めておりますと目の前を犬の散歩をしている壮年の女性が通り過ぎました。


バサッ。


 目に映る事象が信じがたく、思わず立ち上がり本を落としてしまいました。

 犬の散歩をする女性が通り過ぎた直後、橋の真ん中にいらした男性が忽然と姿を消したのです。

 2秒にも満たない短い時間に向こう岸へ渡ることなど不可能でしょう。落下の可能性も考えましたが水音もなく池には波紋もございません。

 白昼夢か幻でも見たのでしょうか。

 恐怖も背筋を這い上がる様な気持ち悪さも感じず、気のせいだと考え落とした本を拾うとそのまま読書を続けました。



 そんなことがあった翌週、自治体のボランティア活動でゴミ拾いを致しました。平日の日中という事もあり参加者は御年を召した方が多く目立ちます。2時間程ゴミを拾い休憩することになりました。皆様も滝のように汗を流し地べたに腰を下ろして各自用意したもので水分補給をしながら世間話に花を咲かせます。

 通院やお薬の話題が多くお裾分けされた御煎餅を齧りながら聞いておりました。


「ちょっと聞いてくれる?」


 前歯に嵌る銀歯を光らせながら東海林のお爺さんが注目を集めました。


「荒井さんがおかしなこと言ってたんだよ。先週の朝4時くらいに広場の池で堀田さんに会ったっていうんだよ。」


 何人かが驚愕しておりました。荒井さんはお弁当屋を経営しておりますので存じておりますが堀田さんという方は聞き覚えがございません。会うだけで驚かれる方なのでしょうか。


「俺は絶対に堀田さんに会ったなんてありえないって言うんだけど、荒井さんは譲らなくてな?一緒に橋の真ん中で鯉見ながら今度ゴルフ行きましょうって握手までしたって言うんだよ。だから俺は教えてやったんだ。堀田さんは2週間前に死んじまったって。そしたら真っ青になってひっくりかえっちまった。」

「堀田さん自分が死んだこと解ってないのかねぇ。」

「そもそも荒井さんは朝の4時に広場で何してたんだか。」


 御高齢になると気構えがどっしりとしているのか怖がる方はおらず笑いながら談笑するなか私は肝を冷やしました。


「あの東海林さん。」

「おお、どうした?尻が痛ぇなら俺の膝に座っていいぞ。」


 向かいに座る女性が「コラッ」と言いながら肩に手を置く東海林さんを軽くたたきました。


「いえ、その堀田さんという方は背が高くて髪をオールバックにセットした紺色のツナギを着ていたりします?」

「知ってたのか?板金だか修理だったか車屋だからいつも紺色のツナギだったな。」

「私、先週それっぽい人が広場の橋の真ん中で池を覗いているの見たんですけど。目の前を人が横切ったら消えましたが。」


 重苦しい沈黙が流れました。それからは誰も会話することなく休憩が終わり、話題が戻ることもなくボランティア活動を終えました。

 後日、東海林さんと荒井さんに付き添われ堀田さんの仏壇にお線香を上げに行きました。それから広場で堀田さんを見る事はありませんでしたし誰かが見たという話を聞くこともございませんでした。

 私が見た消えた男性が堀田さんかどうかは定かではございませんが真実は知らない方が良いのでしょう。


体験談をもとに脚色したお話です。

世の中は不思議なことで溢れております。



(◉ω◉)ご覧いただきまして、ありがたく存じます。

お気に召していただけた方は、恐れ入りますが下記にてご評価いただけると幸甚にございます。

励みになりますので宜しくお願い申し上げます。

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