第34話 ざわつく心
「行っちゃったね」
「行きましたね」
紫苑とラティスが2人で家の中に入ったあと、残されたクリスとルーナは扉の前で呆然としていた。展開が急すぎて固まってしまったのもある。
「えっと何かあったの?」
「ええ。ヤエカ殿が呪いにかかってしまわれて。」
「呪い?」
「はい。体中が炎で焼かれたかのような怪我をされていて。どうやら紫苑殿が原因のようだったのですが…」
「えっ?嘘、炎で?」
その時、ルーナの頭には自身が今持つ卵が頭にチラついた。嫌な想像をして途端に体が震え始める。
「ルーナ?どうかなさいましたか?」
横で信頼出来る騎士が自身の安否を心配している。しかしそんなことも分からないぐらいに不安が頭をいっぱいにされる。
私が?私のせいで?あれで終わりじゃなかったの?
そんな不安がルーナの頭の中をグルグルとまわる。自身が容易に卵を渡したから誰かが苦しんでいた。
そんな事実がただルーナの肩にのしかかる。自分のせいで、紫苑と過ごす間、ずっと頭に過ぎった言葉。そんな不安を口に出す度に紫苑は否定してくれていた。けれどそんな相手は今はいない。
ルーナ自身、いつも明るい女の子である。けれどその実、色々と貯めやすい。それに加えて経験のない森を進む。初めて見るものが楽しいと思う反面、ストレスが溜まってしまっていた。いつもなら直ぐに負の空気は心のチューブから直ぐに抜ける。けれど今回はずっとそれが溜まり続けていた。
「ルーナ様!しっかりしてください!」
クリスがルーナの肩を強く揺する。それでハッとなりクリスの方に顔がむく。その目からは涙が溢れていた。
「くりすぅ。私の、私のせいだ!私のせいでヤエちゃんが!」
「い、1度落ち着いてください。どういうことですか?」
それからルーナは1度落ち着こうと深呼吸をしたりして落ち着こうとした。その間クリスは何も言わずにルーナの言葉を待ち続けた。
そこから落ち着いたルーナはこの前のことを説明した。突然卵が現れたこと。それが何かわからず隠していたら紫苑にバレたこと。それを渡したら突然卵が燃え出したこと。消えない炎で包まれていた紫苑から突然消えたことなどを1から話した。クリスは何も話さず静かに聞いていた。
「それでね。やえちゃん。多分私のせいで」
「それは違いますよ。ルーナ様」
「なんで?」
「ヤエカ殿はシオン殿を守るためにやったことです。そこに私達の感情は関係ありません。私が命をかけて貴女方を守るように。卵だってあなたに害を及ぼしてなかったのですから気づきようがありませんよ。それに私達は守るためにいるのです。迷惑をかけられてなんぼなんですよ?だから安心してください。あなたは迷惑なんて思われていません。そんなこと思っている奴がいるなら私がこの拳で…ですね」
「そうかな?」
「そうです。それにもしあなたがそれでも心が辛いと言うなら一緒にヤエカ殿やシオン殿に謝りにに行きましょう」
「うん。うん。ありがとうクリス」
「どういたしましてルーナ様」
何かが吹っ切れたように涙を流しながらいい笑顔をしたルーナにクリスは満足そうにうなづいた。
「あー話は終わったか?」
「ひえっ」
突然後ろから聞こえた声にクリスは飛び上がる。後ろを確認すればフードを脱いでその黄緑の髪を見せるルクスがいた。
「なんだお前か。驚かすな」
「勝手に驚いたのはお前だろ。…相変わらず俺にはきついな。まあいいけど。ラティスの方長引きそうだからお前ら俺ん家に来るか聞きに来たんだけど来るか?」
考えるようにして首を捻ったあと、その考えに賛成しながらルーナに問う。
「そうだな。ルーナ様を休ませたいしな。いかが致しますか?」
「迷惑じゃないならお願いしたいかな」
「だそうだ」
「迷惑なんかじゃねぇから来いよ。それにあんた。疲れてんだろ?魔法で体の汚れはしっかりしてたみたいだが顔酷いぞ」
呆れたように言いながらルクスは後ろを向くと木の道を歩く。着いてこいと言うことだろう。
「ねえねえクリス、彼は?」
「彼はそうですね。……この里に案内してくれた方です」
「それにしては親しそうじゃない?」
「そんな事ないですよ。あいつに遠慮はいらないですので早く行きましょう」
ルーナの手を引いてクリスはそのままルクスの後を追う。しかしその横顔は何事もないと言うよりかはトマトのようになっていたとだけ言っておこう。




