第26話
空は青く明るいのに木々に囲まれ、覆い尽くされているこの森は少しだけ薄暗い。周りはまだ見れるし、葉の間から流れる光は綺麗だった。しかし森の土は柔らかく、歩きにくい。歩くだけで体力を奪われる。騎士であり、毎日訓練をしているクリスですら歩き慣れない土地で疲れを見せている。怪我もしているのもあると思うが。ほとんど運動をすることもなかったテレスは尚更だ。しかしこの森を歩きなれているであろうルクスとリオは一切疲れを見せておらずときおり、ルクスがクリスをチラッと見て様子を伺っていた。
(はあ、はあ、足が痛いですね。昔はよく森に来ていたはずなのですが、もう体は忘れているようですね。ですが、クリスは怪我をしているのにルクスの提案を断って自分で歩いています。私が弱音を吐く訳には…いきませんね!)
そんなことを思っているた突然テレスの足場が硬くなった。突然の事で柔らかいと思って踏み入れた足は硬い土に驚き、足を踏み外しそうになる。けれど風がそれを助けて、倒れることは無かった。一体何が起こっているのか分からずに前にいる3人を見るが特に何も無かった。周りの人達は特に変わったことがないので自分だけだとわかる。考えれば昨日の精霊が助けてくれたのだろうか?風は昨日助けてくれた風の精霊・シルフィード・だと思う。けれど土は分からない。思わず先のリオに抱かれている八重香ではないかと思って見るが相変わらず抱かれている。夜通し見張っていてくれているのだから仕方がない。今は寝ている。
(そういえば、シルフィードは私達って言っていたような気が…もしかしたら他にも私の周りに精霊様がおられるのでしょうか?)
色んなことを考えてしまう。そのせいか無意識に足を止めてしまっていた。そのせいかどんどんと離れる皆に気づかずにいた。すると近くにいたクリスが気づいて声をかけた。
「テレス様ァー!どうかなされましたかー!」
その声にハッとしてテレスはすぐに動き出した。走れば慣れない土で転けてしまいそうだが急ごうとした彼女にはそれを考える暇はない。しかし先程と同じように足で踏む土は硬く、走りやすかった。数十日前の着飾る様の靴ではここまで走りやすくはなかっただろう。実際帝国兵に追いかけられている時は何度も転けそうになった。
しかし、今テレスは3人にあっという間に追いつき、自分自身でその事に驚いている。それだけではなく、走っている時、クリスを助ける時に走った時のように押されるように走っていた。それのせいで余計に精霊のことが頭から離れなくなる。昨日、助けるのは少しだけ、見えるまでは特別な力は使えないと言っていた。それに見えたら特別な力を使えるとも言っていた。今は見えるどころか声すらテレスの耳には聞こえないのだ。
(ならこれは…一体どういうことなのでしょうか?助けてくれているだけなのですか?)
「はっ!テレス様今のは一体…?」
そんことを思っていると、テレスのいきなりの様子にポカーンとしていた3人だがクリスが最初に現実を理解して戻ってきて、テレスに話しかける。当たり前だ、先程まで着いてくるのにも一苦労して最後尾にいた人間が離れていたのにも関わらず一瞬にして距離を縮めて戻って来たのだ。驚くのにも無理はない。というかいた仕方ない。
「えっと…私にもよくわからないのです…もしかしたら精霊様のおかげなのかもしれないのですが…すみません。」
「もしかしたらだが、多分無意識に精霊術でも使ってるんじゃないか?」
そのルクスの言葉にクリスは納得したようだが、テレスと、リオも顔を凝らして納得できていなかった。まだ色々と考えることはあるが、このままではまた立ち止まってしまいそうだったの動き出した一行について行く。
しかし前を向けば今度は辛そうなクリスに目がいって頭がいっぱいになってしまう。テレス達を守るために傷ついたのだ。それなのに何も無い自分が楽をしてしまっていることが恥ずかしく、自分だけがこのようなことでいいのかと思ってしまっていた。
(もし、精霊様が聞いておられるのなら、クリスをお助けください)
心の中でそう祈った。手を組んで、一瞬目をつぶり先程心で考えたように。伝わるかは分からないが何もしないよりはマシだろう。
伝わったかは分からないが何かあったと思い、クリスの方へ向けばクリスが先程のテレスのようになって転けかけていた。そのために咄嗟に支えてそれを防ぐ。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます、テレス様。どうにか転けずに済みました。…これはテレス様のおかげですか?」
「なら良かったです。分かりませんがおそらくは?」
「ふふ、なら仕方ありませんね」
クリスは何をとは問わなかったがなんのことかはわかる。こちらを見て不思議そうにしていた。しかしそれだけで他に何も無かった。自分自身でも何も分かっていないのでそれが嬉しかった。
その様子で疲れはするものの森の土を踏んでいた時よりは幾分か楽であった。ちなみに前の2人は疲れた様子が一切なく、土が硬く無くても疲れた様子を見せない姿に普通にすごいと思った。
それから数時間すると森を抜けた。抜けたと言ってもそこは木々に囲われているので抜けたとは言えないかもしれない。
そこは滝つぼと言われるところで岩が多く、木々は生えていないが苔や草が生えている。滝つぼに落ちる水によって大きな音が鳴り響き、水しぶきがテレスたちの方まで小さいながらも飛んできていた。けれども、そんなことが気にならないぐらいにその場所の美しさに目がいき、感動する。森に入ったことがあってもこのような景色は見たことが無く、目を見開いて驚く。そのあとはその綺麗さに自然と笑みを浮かべる。
(ルーナとこの景色を見れたら良かったのに…)
そんなことを考えてしまい感傷に浸る。手を思わず力強く握ってしまうが今は紫苑を信じるしかない。
(大丈夫、紫苑様を信じなければ行けませんね。きっと2人とも無事なはず)
隣を見ればクリスも同じ様子でこの光景に目を奪われていた。しかしそんな光景が見慣れているのか前の2人はそのまま進んでいく。
「2人とも、速く」
リオがテレス達が止まって居るのに気づいて早くするように諭す。それで我に帰った2人は急いで進む。先頭のルクスがいるところは滝よりも少し離れたくさんの苔が生えている岩崖に居た。ルクスはそこの少しだけ盛り上がっている部分に触れた。次の瞬間そこから道が現れた。道は滝の裏へと続いていた。
「すごい」
たった一言けれどもそれ以外にどう表現しようか分からない。疲れているのもあるかもしれないがこの幻想的なものに心奪われているのだ。
(本当に…ルーナがいたら喜んだはずですのに)
先程から彼女のことが頭から離れなかった。昨日まではどうにか考えないようにしていた。しかし今は頭から離れない。今までずっと一緒にいた存在、姉妹のような存在が消えて、最初ら新たなことがありそれに目を向けて気にしないようにしていても、それももう爆発すんぜん。この不安がいつまで続くのかと傷心する。
考えてても皆が止まってくれる訳でもない。自分のわがままで皆を止める訳にも行かないので我慢をしてついて行く。道を通って、滝の裏へと行く。先程よりも強い水しぶきが飛び、大きな音が耳へと通る。それでも気にした様子もなく進む2人にそのまま黙ってついて行き、滝の裏へと入る。少しだけ期待していた昔読んだことのある滝の裏にある洞窟を勝手に想像して期待していたのだが、特にあるということも無く、そこからまた滝の裏を通って上へと続く道を進む。
上に登れば案外に滝は高かったようで、森を見渡せた。しかし久しぶりの太陽まで浴びて、ほんのりと気持ちよく風が吹く。それがこの景色を肌で感じられているようだった。
またも景色に見惚れていると少しだけ休息を取ろうとルクスが言って各々が近くの岩などに座る。近くにはすぐに森が存在していてまた入ることは確定事項だった。
座ると疲れがどっと流れてきて、体がだるく感じる。まるで重力が何倍にもされたようだった。
テレス達が座って休息している間に川から水を組んできてくれたルクスが皆にそれを配った。その際にクリスだけを心配したようで、何か聞いていたがすぐに離れた。
「あと少ししたらもう入ろう。あと1時間歩けば着くぞ」
ルクスはそういうと自身の分の水を飲んだ。
(あと1時間…)
1時間、今まで歩いてきた分を考えれば一瞬かもしれない。そう思ってテレスは最後の踏ん張りを見せようとした。それに早くクリスを休ませないと行けなかった。
クリスは水を飲み、辛そうにしている。包帯は血が滲んでいて、早くしないといけないとわかる。ルクスは攻撃用の術しか使えない。リオは今は色々あって使えないということでエルフの里に急ぐしかないのだ。テレスはまだ属性変換ができない。バジリスクとの後に確認してみたものの何も出来なかった。何も出来ない、それは何よりも悔しい事だった。
だからこそテレスはより力を望むのだ。そんな決意を1人でひながらも一行はまたも森に入っていった。




