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鬼神剣客伝【改訂版】  作者: 春好 優
第2章隠れ里
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幕外?八重香様の喋った日

テレス達が帝国兵に占領された街から出て数日、ときに現れる魔物をクリスが退治しているのだが噂よりも強い魔物がなかなか現れずにいて拍子抜けしていた。リオの話でも相当な魔物が出るようなのだがそれが現れることはなかった。運が良いのだろうかと言うことを考えながら、もしかしたら何か恐ろしい魔物がいるのではないかということが3人の頭に過る。

 魔物はどこにでもいる存在だが彼らは自身よりも強いものには近づかないし、相当な実力差なら縄張りにすら入らない。つまりは弱肉強食の世界。強いものには出だしすらしない。だがこれにも個体差があったりして、気性が荒い魔物だったり、死にものぐるいの魔物はそれを無視したりする。それがクリスの戦った魔物がそういうものに該当するから余計でもあった。

 そういうこともあり一行はいつその魔物が襲ってこないか警戒し、気が休まらないでいた。だが、1匹、なんてこともないように過ごしている者がいた。


(主様のために殺気まで出して追い払ってたんやけど…なんも知らん人らからしたらこうなるんは仕方あらへんねぇ。んー最初はあかん言うてはったけどそろそろいいやろか?)


 1匹の黒い狐の姿をとる狐月八重香。彼女は森に入ってからずっと寝ることもせずに、主のためずっとテレスたちを守っていたのだ。基本は殺気を出したり、術で魔物をとおざけているが、時々それも無視して来るものがいた。例えば気性の荒いオーガ、大きな体格にその気の荒さから他の生き物を見つけたらすぐに襲う。しかも仲間は作るので独りで居ることはなく、また厄介である。

 他にもワイバーンだったりトロール、大蜘蛛や弱いトロールでも普通ならそこまで気性が荒い訳では無いので襲うことはないのだが傷を負っていたりして死にものぐるいになっているものは失うものがないのかわざわざ見え見えの罠にかかるように八重香の放つ殺気にわざわざ近づいてくるのである。ほとんどは八重香が倒すものの時々、知らない間にテレス達に迫っていたり、彼女自身がテレスだったりリオだったりに抱かれていて身動きが取れない時に来るのでその時はクリスが相手をしている。

 そんなわけなのだが意思疎通はした方がいいと思って居る。なぜならこのままでは面倒臭いからだ。必要以上に警戒していることを考えてもこのまま喋らないでいるのはいいことではない。主人である紫苑からは当分姿を狐にしとくという条件をつけられていたから余り話さないようにしている。


 (あの娘に話したんは仕方ないやんね。主様のためやし…)


 例外的にテレスには念話で話したが紫苑からのお咎めはなかったので大丈夫だろう。それにテレス自身は何も言っては来ないものの八重香のことは気づいているだろう。それでも話してこないのは紫苑が何も言ってこず、八重も話さないからだろう。それに話すなとは1度も言われていないのだから。

 だが、1番の理由は最近、クリスが夜にほとんど見張りをしているために寝不足な部分がある。ほとんど野営をした事の無いテラス達は気づいていないのだろうが夜はほとんど彼女は寝ていない。このままでは倒れてしまうだろう。

 八重香的には、主である紫苑からの頼まれ事なので一応は気にかけている。

 そうこう悩んでいるうちに日は暮れて野営が始まる。リオが木々を操り、隠れ家を作る。そしてここ数日の通りにクリスは警戒に当たる。

 そこに心配そうな顔をしながらテレスが近づいてきた。彼女はクリスに近づくと声をかけた。


「クリス?大丈夫ですか」


「ん?あれ、テレス様力の修練はよろしいのですか?」


「…クリス最近眠っていますか?」


「え?それは…」


 テレスが少し言いにくそうに顔を合わせずに言うとクリスは言葉に詰まってしまった。それを見てテレスは予想が当たったようにバツが悪そうに唇を噛んだ。

 それを傍から見ているリオと八重香の2人は静観して様子を伺う。


「やはりその様子では…ごめんなさい。気づかなくて。ずっと貴方が警戒をしていたのですよね?次からは私も夜は」


「なりません!テレス様は修練をなされています。今はそれに集中してください」


「ですがそれではクリスの身が持ちません」


「気にする必要などないんですよ?あなたは私の主です。護るのは当然の義務なんですから。大丈夫です。私は…」


(あーもうごちゃごちゃうるさいな。あんたら少し落ち着いたらどうや?)


 このままでは拉致があかないと思い八重香が話を遮った。耳からではなく頭から聞こえた声に3人はビクッとして周りを見渡す。しかし辺りには誰もいることはなく、クリスはすこし混乱して首を傾げていたが予想が着いていたテレスとリオはすぐに八重香の方を見た。それにつられて遅れてクリスは八重香を見る。


「もしかして今話したのは…」


 (そうや。うちやよ。他に誰かおるん?)


 八重香の方を見て答えたのだから分かって言ったのだろうが、心の半分は疑ってしまっていたようで狐姿の彼女が返答したことに口を開けて驚いている。

 八重香はクリスの様子に嬉しそうにしている。それはいたずらに成功した子供のように。彼女は狐。だから人を騙せたりすると嬉しくなるのは性なのだ。


「シオン殿は知ってるんですよね?」


(知ってはるで。そら、うちの主様なんやから当たり前やん!)


「そ、そうですか」


 八重香の勢いに引き気味の様子なクリスだが、八重香はその様子にふんっとしている。


(そこにいる娘も知ってはったけどな)


 八重香がそう言うと、クリスはばっとテレスの方に振り向いた。それに対してテレスは顔を背けた。


「テレス様!どういうことですか!」


「いえあの、違うのですよ?別に隠し事をしていたのではなくて、ただ確信がなかっただけで隠し事をしていたわけではないのですよ?」


「なぜ疑問形なのですか?…ですが声を荒らげてすみません。私がとやかく言うことでは無いですね」


 2人のやり取りに心の中で楽しみながらも狐の姿でも優美に笑う。しかしすぐに落ち着いてしまったクリスにその笑みもなくなりムスッとしてしまう。

 いたずらに失敗してしまった八重香はぶっきらぼうに話しかけた。


 (……そろそらええか?)


「あっ、ごめんなさい。いつでも大丈夫です」


「あれは貴方のせい」


(うちには知らん話やな)


 リオに指摘されるが素知らぬ顔をして返答する。それでもリオは八重香の方を睨んでいる。少し居心地が悪い。

 紫苑と話した時に神獣に近いものと言われていたはずだ。神獣とは神聖なものとして扱われることが多いので、普通ならそんな態度撮ることは無いはずなのだがリオ はそれをしている。神獣でなければ良いのだろうか。それか、文化が違うのだろうか。


(コホン。それじゃあ少し話そか)


「ええ、頼みます」


 八重香はそれから紫苑が黙っていた理由や自分のことを話した。自分のことについては出来ることを少しだけ話した。全部を言う理由はない。主である紫苑以外に信じることは今は無いのだらか。そんなことを考えながら八重香は説明を終えた。


「つまりは私達のために貴方を読んだということですか?」


(そやな。そう思とき。それよりも本題や。あんたあの娘も言うてたけど最近まともに寝てんやろ?)


「それは…そうですね。私は最近眠れていないです。ですが主のためなら頑張れます」


 言い訳をしようとしたのか言い返そうとするも八重香の圧により本当のことをクリスは言った。


「クリス、やはり無理をしていたのですね…気づけなかった私が申し上げるのもあれですが無理をしては行けません」


「大丈夫ですよ。テレス様。貴方は力をつけることに集中してください」


 テレスの言葉にも柔らかく返す。テレス自身も気づけなかったのもあり強くは言えないだろう。


 (まあ、あの二人は疲れてすぐに寝てしまうし、しゃーないけどそのままやったらあんた倒れよ?)


「ですがテレス様達にやらせる訳にはいきません!」


(気持ちは分かるけど、そのままやったら護衛なんて務まらんよ?)


 クリスは八重香の言葉に黙ってしまった。自覚があるようなので言い返せないのだろう。


(まあ長くなったけどここからが本番よ。修行時間は移動のためにも夜しか出来ひん。それに修行には体力も使うようやし見張りを任せることは出来ひんな).


 テレスとリオは俯く。八重香のことを聞いて足でまといでは無いかと心配してしまっていた。テレスは確かに今はダメだが強くなろうとしている。リオは自分たちが泊まるための野営地を作ってくれている。責める理由などない。


 (ああ、別に攻めてるんとちゃうんよ?あんたらはこのまま続けなあかんわ。力をつけるには必要やからね。そこでうちが夜の見張りを代わってあげる)


「えっ?貴方がですか?」


 (なんや不満でもあるん?これでもずっと獣共を追い払ってたんやけど)


「いいえ、こんなことはありません!手伝ってくれるんでしたら助かります」


 八重香の圧を感じてすぐさまクリスは言葉を返す。少し身震いが起きていた。八重香はイジメ過ぎたかとちょっとだけ心の隅で感じた。


「本当に良いのですか?」

 

(何が言いたいかは分かるよ。でもあんた、やらなあかんことがあるときは仲間に手伝ってもらうのも大切なんよ。あんたが強なったらそんときはお願いよ?)


「そうですね。はい、もっと速く強くなってすぐにでもお手伝いできるように頑張ります!」

 

「その意気ですよ!テレス様」


 テレスの意気込みにすこしだけ関心を示す。しかしそこでクリスがハッとする。


「あれ?八重香殿が魔物を追い払っていたんですか?」


(そうよ。ずっと殺気を出して警告出てたんよ)


「ということはこの森の強い魔物が現れないのは貴方のせいだったんですか!」


 いきなり大きな声を出したビクッとして固まる3人。


 (それがどないしたん?それよりもせいってなんや?追い払ってたうちが悪いみたいに)


「それはそうですよ!ずっと危険な魔物を警戒していた私がバカみたいじゃないですか!」


(みたいじゃなくてそのまんまやないの?)


「貴方が速く言ってくれていればこんなことには!?」


 そこから八重香とクリスの喧嘩を残された2人はポカーンとしながら見ていた。普通ならこれでは魔物が襲ってこいと言っているようなものだがこの雰囲気に近づく魔物は少なかった。あったとしても2人の攻撃に一瞬にしてやられてしまっていた。


「八重香様、打ち解けていますね」

 

「喋ってから軽くなった?」


 2人は楽しそうに2人の喧嘩を現実逃避するように見ていた。

 

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