第24話不思議な声
何とか間に合ったー
でも急ぎすぎて変じゃないか心配ですね
「だめ、あのままではクリスが…!」
バジリスクに飛ばされたクリスを見てこのままではどうなるかを悟ってしまい声を荒らげる。
バジリスクの様子は遠目から見てもおかしかった。頭に刺さった剣にルクスが放つ複数の矢、最大の盾であった鱗を失ってもう死んでもいい程の傷を与えたにもかかわらずバジリスクはただ獲物と見据えたクリスを見続けていた。ドロっとした鱗はもはやバジリスクが生き物とすら認識できるかすら怪しい。
そんな蛇が迫ってもなかなかに動けないクリス。そんな彼女を助けたいと思いながらもテレスは足が動かないでいた。
「なんでなのですか!動いて下さい。このままではクリスが死んでしまう。言うことを聞いてくださいよ!」
思考と全く違い、全くの言うことを聞かない足をテレスは握りながら叫ぶ。石のように動かない足に叫びながテレスは涙を流した。
「あレほど役に立ちたいと言っていたのに、あれ程力を望んだのに、このようなときになぜ動けないのですか。私は私に忠義を下さった方を助けるよりも、バジリスクに恐怖を抱いているのですか。あはは、これでは本当に役立たずではないですか。私はこのまま見殺しにしてしまうのですか?」
そうして自分への恨みを心に抱きながらテレスは俯いてしまう。この先の出来事を見たくないから。それほどに見たくない未来がこの先にあったからだ。
『わ しの ちから つかって』
「……えっ?誰?誰かいるのですか?」
テレスの耳に不思議な声が聞こえた。男性のようでもあるがどちらかと言えば声質は高く女性とも言える。なんとも言い難いが耳にすっと入ってくる不思議な声だった。
そんな声に思わず顔を上げて振り返るも周りには誰もいない。けれどもテレスの耳には確かに聞こえたのだからいないということはないはずだった。
「私の聞き間違い?そんなはずは…」
『わたし な よんで』
「?!やっぱりいるのですね!」
聞き間違えかと思ったら今度ははっきりと聞こえてきた。
「一体、何を言っているのですか?」
『わたしのなをよんで』
「貴方の名前?」
『ふふ、やっと聞こえた。初めましてだね』
先程と違いはっきりと相手の声が聞こえた。姿は見えなくてもそこにいるのは確かだった。
「えっと、貴方は一体…何か目的があるのですか?」
『自己紹介したいけど時間が無いからそれはまた今度ね。でもどっちにしろ名前は教えるから。目的?そんなものはないよ。ただ貴方を助けたいだけ。ずっと見守って来た。私達の大切な娘だからね』
「それはどういうことですか?ずっと見守ってきた?小さい頃から?それに」
『はいはい、一旦落ち着いて。言ったでしょう?時間が無い。貴方に力を貸してあげる。貴方に宿る霊気を使えば私の力を扱える。だから貴方に貸してあげる。』
不思議な声はそう言って明るく言う。しかしテレスは突然の事で頭がついて行っていない。そんなもの姿を見せない相手から言われても信じることはできない。
「力を?そのようなこと信じられません!」
『そうだね。でも信じてもらうしかないし。貴方はそれしか方法がない。大丈夫、私は悪魔見たいに酷い対価なんていらないから。貴方の役に立てればそれでいい。今は声だけだけど近いうちに貴方は私達を見れるようになる。その時が来れば貴方は特別な力を授かる。けど今は少しだけしか貸せない。あの蛇を倒すのに力を貸すだけだからね』
「例え力を私が貴方から借りたとしてもこのように臆病では助けられない。私は大切な人が危険な時にも動けないのですよ!」
『ふふ、それはそうだよ。私達が貴方の邪魔をしていたんだから。あのまま言っていたら貴方は無駄に死んでしまうだけだった。だから貴方が気に病む必要は無い。ほら今は動くでしょう?』
そう言われて今初めて先程まで動かなかった足が動くのに気づいた。確かにあのまま行っていたら死んでいただろう。だからその事には何も言えなかった。
『…そろそろ時間みたい。じゃあしっかり助けてきて。貴方の、貴方様の大切な人を。私の名前は――――――。私の力が使えるのは一瞬だからタイミングはしっかりね。信じて、貴方ならできるから。』
「まって!まだ聞きたいことが!」
テレスが呼び止めようとするも声はもうしなかった。それに何故かテレスは何かが途切れたような感覚があった。まるでロウソクが燃え尽きたように。
「…助けられるなら、信じます。例え悪魔にこの身を捧げることになっても」
テレスは自身の頬につく涙を拭い、クリスの方を向く。そこにはいつの間にかバジリスクが近づいていて今にもクリスに襲い掛かりそうだった。
「は、早く行かないと!」
テレスは駆け出した。クリスを守るために。
同じくルクスも掛けていたがどうしてもギリギリ追いつかない距離だ。テレスの方が近い。例え死んでも助けられるようにと思いまっすぐと進んだ。
テレスは王族であまり運動をすることは無かった。学園で最低限のことをするぐらいだった。
そんな訳だがテレスは運動が得意ではない。だからそこまで速い訳では無いはずなのだが何かに押されるように速く進めた。でも違和感は無かった。それが何故かしっくり来て当たり前のように感じた。あるべきものが自身へと帰って来たような感覚がテレスを包んでいた。
バジリスクがクリスに襲いかかろうとその大きな口を開いた。そしてバジリスクはそのままクリスに襲いかかる。
そこでテレスはそこに着くまでの最後の1歩を力強く踏み込んだ。地面は沈み体は宙に浮くように飛び出した。
「危ない!」
誰かの声が聞こえる。しかしテレスはそのままバジリスクとクリスの狭い間に入った。テレスの頭にはどうすれば良いか自然と理解出来てそのまま無意識に手を前に出した。
「シルフィード!」
刹那、バジリスクの口に飲み込まれそうになりながらもテレスの手は光って、大きな風の本流がバシリスクへと襲いかかった。口の中へと真っ向から受けたバジリスクはその風によって口の中の歯が全て折れ、それが口の中で刺さりまた、裂けて血を流す。口から盛れる風は周りの木々を押し倒しそうに強い。風の猛威に何とか耐えるがその抵抗は虚しく終わりその巨体が風の力だけで吹き飛ばされてしまった。
辺りに轟音が響き肉と骨の嫌な音が響く。
「これは…一体どうなってるんだ?それは精霊術だろ。何故人間が使える?」
少し遅れて駆けつけたルクスが弓をバジリスクを警戒しながら疑問を口にした。しかし目線は離さない。
ルクスの疑問は最もだがテレス自身にもいきなりのことで理解は出来ていないし答えられなかった。
「おいおい。あれ程の威力のものを食らってまだ立ち上がるのか。これではまるでゾンビだぞ」
ルクスの視線を辿るとそこには信じ難い光景があった。死にそうになりながらもこちらをまだ見ているバジリスクがいた。その傷の多さは最早生きているとは言い難い。なのに立ち上がりこちらを獲物としてみている。普通の動物ならこんなことはありえない。
「くっ、不死身なのか?」
「そんなはずは…先程まで普通の生き物だったはずです!」
「なら何故なんだ!くそ。だがこのまま逃げる訳には…」
絶望しそうになりながらルクスの目は負けていなかった。どこまでも闘志を燃やそうとしていて強い意志があった。負けず嫌いなのだろう。
テレスはそれを見て自身にも勇気が湧き上がった。
(そうです。諦めてはダメなのですね)
そんな風に思っていると不意にそう横から何か白い影が飛び出してきた。
(ふふ、あんたらようやった。あとはうちにまかせなはれ!)
「八重香様!いままでどこに?」
「今さら狐が来たとこで何も変わらないぞ」
(悪いなぁ。ちょっと色々あってな。それよりもそこのあんた。少し黙っとき)
「えっはい…」
(こえぇぇ)
八重香の言葉に押されたのか先程のような闘志が目から失せていたルクス。エルフの尖った耳を震わせていた。
八重香はゆっくりとバジリスクへと近づくと先程のルクスと違って今度は驚異と見なしたのか八重香の方を見て警戒した。そして八重香がバジリスクの攻撃範囲に入ると迷わず攻撃を放った。それも毒液を。
しかし八重香はそれを結界によって守り毒液を防ぎそこで止まった。
「シュー」
(そんなんじゃうちは傷つけられんよ?ふふ、さてと。死を奪われし呪われた者よ。もうここはあんたの生きる世界ちゃうんやよ。だから天寿全うした者の世界へとお行き)
八重香は口の周りに霊力を集めるとそれには神聖な光を放っていた。それに恐怖を見せたのかバジリスクは方向を変えて逃げようとする。しかしその足は遅かった。そのために逃げることは不可能であった。
「シュー!」
(ふふ、逃がさへんよ。霊術・浄化葬霊魂)
そうして放たれた霊力の塊は簡単にそのでかい的へと当たった。
「ぎぃやア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
バジリスクの断末魔が辺りに響き渡る。今日何度目かは分からないが今度はそれが終わりのゴングとなった。
霊力の塊は強い光を放つと次第に弱まっていく。するとそこに残ったのはボロボロになって干からびたバジリスクの死体だけが留まっていて先程のことが嘘のようであった。
「終わったのですか?」
不意にテレスが口を開く。
(終わったんよ。それよりも速くその人手当しんと死ぬで?)
八重香の言葉にはっとした2人は直ぐに木にもたれ掛かるクリスを見て近づいた。それを八重香大人しく見る。その顔は少し申し訳なさそうにしていた。
この後隠れていたリオが加わりクリスに簡単な手当をした後3人は野営の準備を始めた。




