第17話
静寂が包む町は昼とは思えないもので寂しいものである。しかしそんな街の中で1人の少女は絶望に飲まれかけていた。
「う、嘘ですよね?またいつものイタズラですよね?そうなんですよねルーナ?」
その問いに答えるものは居ない。ただ静かな時がすぎるだけだった。それを見てクリスは自分の不甲斐なさに怒り強く拳を握りしめリオはただ唖然としていた。
(戯けが!何が守るだ!これでは何も変わらぬ。どうする?どうすれば良い?ん?あれは……)
すると突然静かなる壁を吹き飛ばしテレスは先程のルーナの取り込まれた場所へと向かおうとした。しかし直ぐにそれは駆け寄ってきたクリスによって止められることとなった。
「お待ちください!行ってはなりません」
「離して、話してください!ルーナが、ルーナがあそこにいるのですよ!」
「わかっております!ですが貴方まで連れさらわれるには行けないんです!」
そう言うクリスの言葉にテレスは振り向きはっと目を見開く。そこには怒りの形相に加えてテレスの手を掴んでいる手とは反対の方を血が出るほどに握っていたからだ。
「では、ではどうしろと言うのですか!」
「それは……」
テレスは涙を流す。それはそうだ。大切な1人だけの親友が自分を守るために敵に連れさらわれたのだから。しかも影の中という追えないという絶対付きで。
そんなことが3人を襲っている中で紫苑は先程のルーナが連れさらわれた場所に近づき観察していた。
「八重香よ。これはどう見ても罠だな?」
(そうみたいやね。どうしはります?)
「行くに決まっておろう。行けるのは俺だけだろうからな。お主はあの者達を守ってくれ」
(……主様と離れるんは不服やけど、承ってあげる)
「そうか。かたじけないな」
紫苑はそう言って影を見る。影は鏡のように虚像を写し、水面のように揺れている。おそらくこの先には入れるのだろう。中がどうなっている分からないが罠であるのは確実りわざわざ入口を開けて来させる理由を作るった理由の説明が出来る。だが、入るしかない。紫苑に。ここにいる全員にルーナを見捨てるという考えはないのだがら。
しかし紫苑は直ぐには入らない。テレス達に説明が必要だからだ。
だが、ここでタイミングを読むことすらしない面倒な客がやって来てしまった。
「そこのお前ら!何をしているんだ!」
声のするほうを向くと先程の帝国兵がまた居た。騒ぎを聞きつけてなのだろう。
(こんな時に邪魔しにきおって!)
紫苑はグイッと歯を噛んだ。ギシギシと音が成程に強く。
「何もなかったです。すみませんご迷惑をおかけして」
「ほう?何も無かったと、それにしてはそこの娘は泣いているようだが?」
悔しいはずのクリスは落ち着いているように見えた。しかし帝国兵はそんなのお構い無しにテレスの様子を問うた。
「少し転んでしまったんですよ。お気になさらずに大丈夫ですから」
「なるほど、しかし見たところエルフも一緒とぉ?しかも奴隷印もつけていないようですねぇ。違法奴隷の可能性あるから着いてこい」
「取り調べの後はぐふふ、可愛がってやるよ」
そう言って帝国兵はテレスとクリスを始めに連行しようとした。だがここで帝国兵を咎める者はいない。民衆はまずこんな裏通りまで来ることはほとんどない。しかも帝国兵が歩いているから余計だ。しかも帝国兵の目的は完全に連行ではない。テレス達が目的だ。先程から欲望を隠そうともしていない。
「おい、少し無理があるのではないか?貴様ら」
紫苑が怒気をはらんで言うがそれを気にしない1人の帝国兵の手がテレスに触れようとした時だった。クリスが小さく声を発した。
「………触れるな」
「あっ?なんだって?きこえねぇよ。てめぇら今日は可愛がってやるからちゃんと着いてきな…」
「その方に触れるな!」
クリスは怒鳴りながら怒りのまま剣を振り抜き帝国兵の腕を切った。どうやら怒りを爆発させたようだ。
切られた帝国兵は最初は何も理解できなかったようで何が起きたか分からないようだった。しかし次第に痛みが広がってきたのか遂には膝を着いて叫んだ。
「い、痛てぇよ!なんなんだよこれは!」
「き、貴様らぁ!こんなことしてどうなるかわかっているんだろうな?!…あっ!お前らよくよく見れば昨日の奴らじゃねぇか!」
「!?、確かに昨日俺らを殴って来た奴らだ!てめぇらやっちま…」
そう言って帝国兵が叫ぶがクリスはそれを気にせずに先程の店主に向けていたのとは比べられないほどの殺気を向けていた。それに気圧されたのか何か言おうとした人はその身に危険を感じ何も言うことはできずに飲み込んだ。
その中の1人である男が突然声を張り上げた。
「あァァァァ!」
クリスの殺気に耐えられなくなったのだろう。男は剣を振り上げる横から斬りかかった。
キンっと音が鳴り音が鳴った。気づくと剣は吹き飛ばされていた。全員が気づかない間に紫苑が剣を弾き飛ばしていた。
「立ち去れ!早くせねば何をするかわからぬぞ?」
帝国兵は恐怖のあまりいっせいに逃げ出した。傷を負った兵士も痛みを忘れたかのように走り去った。残ったの血溜と切られた腕だけだった。
「こうなっては致し方ない。早くこの街を出なければならん」
「そんな!ルーナは、ルーナはどうなるのですか!」
紫苑の無慈悲にも取れるその言葉にテレスは悲痛な声を上げて叫んだ。しかし紫苑の目には見捨てると言う字は何処にも浮かんでいない。
「テレス様、落ち着いてください。おそらくですが紫苑にも考えがあるんでしょう。ですよね?」
そう言ってクリスは期待するように見てきた。
「これを見ろ。おそらくだが誘われている」
そう言って紫苑はテレス達に影の水面を見せる。
「なら今すぐにでも助けに…」
「ああ、そのつもりをしておる。だが、行くのは俺だけだだ。お主らは先に行け」
元々3人は帝国兵に追われている。しかもその中でもテレスが狙われている。なら先にここから離れさせないといけない。それにリオまで巻き込むことはしてはならないと思うからである。
「ですが!私はルーナを置いていくなんて無理です」
2人は昔から仲が良くたった1人の親友だとテレス自身は話していた。そんな関係の人を置いて1人だけ逃げろと言われて果たして納得できるだろうか。答えは明白で否である。しかし今はそんなことを言っている暇はなかった。だが、ここで以外にも口を挟む者がいた。
「テレス様ここは行きましょう」
クリスは先程と違い落ち着いたようで紫苑に同意を示したのだ。
「けど!」
「私だって助けたいです!しかしあなたは奴らに追われている。こんな状況でこの街に留まっても全てが終わってしまうかもしれない。だからあなたは逃げてください」
クリスの叫びに一瞬固まったルーナは考えるように思い出すように押し黙った。
テレスは紫苑の方をむくと頭を下げた。
「…紫苑様取り乱してごめんなさい。そうですね私はあなたを信じると決めた。だから絶対にルーナを連れてきて!」
「約束する。そもそもは俺が連れてきたのが原因だ、必ず助ける。ところでリオ」
「は、はい!」
紫苑はリオの方を向くとリオは緊張したように声を張り上げた。それもそのはず先程まで血なまぐさい光景を見てたのだ。普通なら発狂している。テレスは慣れたのかそれとも余裕が無いのか分からないがそこに反応することは無かったのだか。それでもリオは見慣れていないそれを真正面から見れば恐れるはずだ。実際震えている。
「すまぬな怖かっただろう。だが街を出たらお主が案内をしてくれ」
「え?もしかして里まで?」
「そうだ。それ以外になかろう?。それとテレスに教えてやって欲しいことがある」
リオは一瞬考える素振りを見せた。紫苑が言っているのはエルフの隠れ里だ。なぜ紫苑が知っているのかはさておいてこの先では普通の人では決して中央まで行けない。理由はふたつでひとつは化け物が多いから。これはどうにかすればどうにかなるものだ。例えば隠れたりなど。
問題は迷いの森と言われる中央を円で囲むようにある森で何故か人を阻み決して奥へは行かせようともしない。運良く行けたとしても死ぬのが落ちだ。それがアルゴス大森林が危険と言われる最もな理由だ。しかしエルフの力にはそれをどうにかすることも出来る。
「やっぱりエルフの力を知ってる?」
「知っておるよ。今はどうでも良い事だがな」
リオはなんで知ってるの?と言いたそうにしているが紫苑が答えることは無い。何故なら時間が無いからだ。帝国兵も動き出すだろうから出来るだけ早くしないといけない。
「でも!街からはどうやってでるんですか?」
普通に考えたら出る疑問だ。街の出口でももう直ぐに封鎖されるだろう。そんな中でそのまま出るなんて馬鹿な考えを実行する訳には行かない。そんなことをすれば一瞬でおじゃんだ。
「それはそこにいるやつに聞くとしよう」
紫苑が建物の間にある通りを紫苑は視線を向けた。視線の先には1人の人間がいた。姿は昼ではあるのだが建物の影によってできる薄暗い世界に隠されていて女性ということしか分からない。
「そこに誰か居るのですか?」
「はぁ、なんでこんなとこに出くわしちゃったのかなぁ、私は」
「あなたは昨日の」
女性はゆっくりと影から光の元へと出てきた。出てきた女性はリオだけが知らないだけで他の人は知っている人物で昨日に助けた狩人だった。
「仲間はいいのか?」
「ええ、お陰様で元気にはしてますよ。それにしてもなんで私に聞くの?」
女性リアはやれやれと言った感じで気づかれたことにうんざりしているようで自身を見つけた紫苑に恨ましい目線を向けている。
「昔から古い街には抜け道があるものだ。それに何故、わざわざここに残っておる?そうだろ?」
「…ええ、そうね。この街には抜け道はあるわ。けどわざわざ教える必要はあるのかしら?貴方たちに合わせる必要は「そのような戯言に付き合ってる暇はない。俺はやることがあるのでな、頼むぞ」…最後まで聞きなさいよ」
そう言うと紫苑はそのまま体を重力に従いながら潜って行った。最後まで話を聞かずに強引に行った紫苑を恨めしく見ながら昨日の改造ゴブリンに襲われていた狩人の1人である女性、リアはこちらを疲れたように見る。
その視線には特に何か圧を掛けてるとかはなかったものの期待の眼差しを向けられたリアは何故か気恥ずかしくなりそっぽをむいてしまった。その間に癖なのか髪を指で巻いている。
「…あの教えてくれるってことで良いのでしょうか?」
「本当はもう少し何か言ってやろうかと思ったけど貴方たち急いでるみたいだし…昨日なんて一応は助けてもらったわけだから… うん、教えてあげるわ」
少し悩んだ風な感じを見せたリアは道案内の了承をしてくれた。
「本当にありがとうございます!」
そう言ってテレスは感謝を頭を下げて表しそれに続いてクリスとリオも頭を下げ礼を言う。それが心痒く感じたのか頬を赤らめてしまっているリアである。
「別にいいの。私も昨日は助けてもらったのに不快にさせてしまったと思うから」
テレス達は一瞬なんのことかと思うが昨日のことを思い出せばリアが緊張が解けたことで強く言っていた事を思い出す。しかし2人は特に気にしておらずそんなことかと思ってしまう。逆にそんなことで謝ってくれることに好感をもてた。リオに関してはなんの事か分からずどういうことか不思議に思っていた。
「じゃあ案内するから行きましょう」
そう言って通りの逆方向へ進んでいくリア。それを追ってテレス達は置いていかれまいと着いていく。紫苑もそうだがテレス達は簡単に人を信じすぎだと自身で感じてしまうぐらいにホイホイとついて行っている。しかしリアも紫苑も自身たちを裏切ると感じる事は一切なかった。それは勘なのか自身の力なのか分からないが不思議に思ってしまう。しかし帝国兵を見て決して信用出来ないと思うこともあるので見分けられていることに感謝をしないといけないと感じている。
(ルーナどうかご無事で)
心の中で思うことは誰にも届くことは無い。けれどこの思いが手紙のごとく届いて欲しいと思ってしまっていた。
それから30分ほどするとテレス達は城壁まで来ていた。そこは屯所と言われる場所で兵士達が数多くいる場所でもある?
「何故ここに?」
「裏切りですか」
兵士の屯所ということもあり警戒心をクリスは出していた。
「ここの兵士は根っからの王国兵だから愛国心が強いの。それに昔からここの人達はよく知ってるし抜け道を使わせてくれると思うわ。あとここには帝国兵は来ないわ。心配ならここにいてくれていいから」
「…いえ、一緒に行かしてもらいます」
「良いのですか?」
「ええ」
「私も信じれると思うよ」
「キュー」
クリスも警戒心はとかなかったものの2人の意見に一応従ってはくれたようで渋々リアについて行った。そういえばいつの間にか八重香はリオに抱かれている。本当にいつの間に?
屯所はあかりが着いていて少し騒がしい雰囲気だった。リアはそれを気にした様子もなくドアをノックした。 すると中から気だるそうな返事がありそのまますぐにドアは開かれた。
「まだ交代の時間には早くねぇか?ってリアじゃねぇか。1人なんて珍しいな。どうしたんだこんな昼間によ?」
「あらルーカスさんか、久しぶりね」
「おいおい、なんだその言い方は?」
出てきたのは無精髭を生やした、だらしげな男だった。その男、ルーカスはリアが居ることに気づくとだるそうな雰囲気から一変して嬉しそうに顔をパッと明るくした。そんなおりルーカスはテレスたちの存在に気づいたようでリアに質問をなげかけた。
「そちらのお嬢さん方はどちら様で?」
「私の命の恩人の仲間でそっちの茶髪な人は帝国兵の手を切った人」
「ほう?このお嬢さん方がか」
ルーカスは品定めをするように全員を見てきた。それに対してクリスは警戒をする。しかしテレスは何故か大丈夫だと思えて仕方がない。リオに至っては静観している。すると男はその鋭くなった目を緩めて笑い始めた。
「ブっはは、マジで?あのいけ好かねえ野郎共をか?伝令は来てたけどこんな綺麗なお嬢さんとは恐れ入ったぜ。ということは抜け道か?いいぜ来な!」
ルーカスは拍子抜けするぐらいに雰囲気が緩くなっていた。警戒していたクリスに関してほ目をぱちくりさせている。
「ほら行きましょ?」
そう言ってリアは固まっている3人に声をかけてルーカスの後に続いた。それを見たテレス達はとりあえず着いていく。
奥まで進むと行き止まりのようで全員が止まった。
「あれ?行き止まり?」
「そのようですね」
「ふふ、見て驚けよ!これが秘密の抜け道というやつだ」
ルーカスは壁のレンガのうちのひとつを押した。するとそのすぐ横の、壁が横へと動いて消えて行った。それは正しく秘密の扉である。扉の先は直ぐに森が見えていて直ぐに外に出られるようになっていた。
「一応は場内を占領された時用のものたんだがな。なかなか街から逃げる奴なんて、出てこないものでまずまず使うことがないんだよ。じゃあ、あのクソ野郎共が来る前にサッサっと行きな!」
ルーカスは腕を森に向けて早く行くように進める。そこで先にクリスが出て安全を確認するとテラスとリオが外に出た。
外に出たテレスは後ろを振り向いた。
「本当にありがとうございました!」
「お世話になりました。」
「リオ殿にルーカス殿この度は誠にありがとうございました。私の非礼をお許しください」
「大丈夫よ。、別に警戒するのは当たり前だから気にしないでね」
「おうおうそんなこと気にしないから気をつけてな!」
気前の言いその言葉に嬉しさが込み上げてくる。リア達は段々と閉まっていく扉の中で笑顔を向けてくれていた。そんなふたりに3人も笑みを返した。
別れを済ました3人は森の方を向く。ここから先はリオが道を知っているようでリオを先頭にして森を進んでいく。
「じゃあ行こっか」
行く先は悪名だかいアルゴス大森林その中でも一番危険な場所、本来なら紫苑が連れていってくれるはずだが不在のために頼れはしない。危険を先に恐怖を抱くがそんな暇はなかった。あるのはただ置いてきてしまった仲間の安全への祈りだけだった。
そんな思いを胸に閉まって3人はあゆみ始めた。
一方その頃。
紫苑は影の中を下に下へと潜って行った。暗い中で重力もない中、水のようなものを泳ぐというのは難しく正しく進めているかすら分からない。先も一切見えないので行先は特に考えずに紫苑は潜り続ける。
空気もないので呼吸が出来ないため、そろそろ苦しくなってきた紫苑は焦り出す。しかし一向に出口が見つからない。そんな折に、紫苑の目には一筋の光が指す。それはこの場に現れた希望、道標と言えるのだが、その色は希望と言うには無理があった。その光の色とは赤、血のような色をしながら輝く不吉な光だった。
そんな光に行けと言われても行きたくないのが普通なのだが、他にも行けるような場所はなく紫苑は仕方なくその光へと泳ぎ始める。
幾分か近づき光が触れられるぐらいに近くになると紫苑は目を細めながら触れる。すると先に水とは違う感覚が紫苑の手には行き渡った。その感覚は空気、何時間も居そうな影の中で見つけた完全なる出口。
紫苑は迷いなくその先へと飛び込んだ。




