第15話心配事
先程シオンに聞きたいことがあるとリオは部屋に入る直前にそう言って走って行った。それを追いかけるべきかテレス達は考えたが結局は追いかけることを辞めることにした。
「確かに気にはなりますが詮索は余り良くはないと思われます」
全くの正論であった。しかし気になるものは気になるもので余計にリオのことを考えてしまう。
「んーこのままじゃ気になってしょうがないしわだいかえちゃおうよ?」
確かにこのまま気になっていても答えはわかることは無いので話題を帰ることはいい事だと思う。だからテレスはそれに乗ることにした。
「例えば?」
「じゃあ、明日の予定とかどうするんだろうね」
「明日までに私達に合う服を見繕ってもらってそれから少し街を回るそうです」
「それだけなのですか?」
「えぇ、後はまだ聞いておりません」
「…私達こんなに任せてて大丈夫?」
ルーナの言う通りほとんどのことをテレス達はシオンに任していた。そんな状態で良いのかと考えはするが信じると言った以上彼を信じるしかない。それに彼に任せた以上口出しもする事は躊躇われた。
「それにしてもシオン殿は何者なのでしょうか?あの服装は東方の着物というものでしょうからそこの出身のようですが」
「確かに色々と知っているようですしね。彼の言う力の属性は彼から初めて聞かされたものですし」
「他にも私たちの知らないことをいっぱい知ってるんじゃないかな?旅をしているみたいだし他の大陸も旅したことあると思うよ」
シオンに対しての話をテレス達が弾ませる中で時間は次第に過ぎていった。時間帯が夜のこともあり次第に3人は眠くなっていった。
時間もいい頃合になりそろそろ寝ようかと考えていた時にリオが帰ってきた。
「おかえり。シオンさんとはしっかり話せた?」
「うん、ちゃんと話は聞けたよ」
「良かったね」
「うん」
少し眠そうにするリオを見てテレス達は眠ることにした。それぞれが自分のベッドで眠りにつこうと毛布を被っている。テレスも他と同じで毛布を被った。毛布を被った後にテレスは横が気になり寝返りを打って横を見た。横にはルーナが居てテレスと同じく横を向いていた。
ルーナの青い瞳と目が合ってお互いに見つめあった後に小さく笑った。こうしていると安心感がテレスを包んでいるようでほっとする気分になる。
すると目が合ったルーナはテレスに優しく話しけてきた。
「ねぇテレス」
「なんですか?」
「悩みがあったらいつでも言ってね。私は、ううん、僕はずっとテレスの味方だからね」
ルーナが僕と言う一人称を使うのは久しぶりだった。昔使っていたもののいつしか使わなくなって久しいものだった。それを使ったルーナに驚いたテレスは目を見開いていたと思う。
(ルーナはまだ覚えてくれていたんですね)
思い出すのは幼い頃にした大切な約束、友達がルーナしか居なかった子供の頃の思い出だった。
嬉しい気持ちをテレスが憶えているといつの間にかルーナの目は閉じていて既に眠ってしまったようだった。それに少し寂しさを感じながらテレスは眠気に抗えず少しずつ瞼を閉じていった。最後に目を閉じる瞬間に美しい銀髪に覆い被さるようになにか黒いものを見た気がした。
深夜、世界が寝静まる夜の世界で紫苑は一人部屋で1匹の帰りを待つ。待っている相手は白い狐になっている狐月八重香だ。彼女はこの深夜に闇に包まれた屋敷の中を1人で捜索している。
理由は簡単で先程リオから感じた黒い気配に着いて手がかりを探すためだ。黒い気配はまだ新鮮なものだった。それほど遠くへは行くことはまず出来ないだろう。しかもわざわざリオに着いていたのにここからそうそう逃げるようなことをする確率は低い。そのために八重香はわざわざ紫苑のために屋敷の中を見てもらっているのである。
すると紫苑の後ろでギィと音が鳴る。気配を感じた紫苑が後ろを振り向く。振り向いた先には1匹の白い狐、八重香が帰って来ていた。
「お主か。どうであった?」
「ごめんなさいね。期待に応えられるようなものは無かったわ」
「そうか。わざわざすまんかったな。礼を言う」
「ええんよ。気にせんといて〜。主様のお願い、やしね」
考え事をしている紫苑を八重香はううん深い笑みを浮かべてみる。それ自体に意味がある訳では無いがただ見つめてしまっていた。そんなことを気にすることをなく、気づくことも無く紫苑は指で顔の下半分を覆う。
(リオに着いておった気配は分かりやすかった。だが、屋敷には何も痕跡は残されておらなんだ。…とすればわざとか。あの小鬼の件もある。警戒は必要か)
紫苑がそう思うのにも理由があった。
リオに着いていた気配自体は普通なら気づかないがそれなりの実力者なら分かるだろう。だがリアムのような目で取り憑かれていることがわかっても痕跡までは分からない。
なら何処で取り憑かれ、離れられたかはある程度限られてくる。だが、屋敷の何処にもそれらしい痕跡は八重香は見つけられなかった。
八重香自身実力者ではあるので痕跡を探せないということはない。そこは紫苑も信じている。紫苑たちが簡単に気づくぐらいのレベルの敵ならば既に屋敷のどこかで既に見つかっている。それ自体が無いということはわざと紫苑たちに気づかれるように痕跡を残したということになる。
そこまで気配を隠すのが上手いのにわざわざそこだけおそまつにしたのがわざとだと言う証拠になる。しかしなぜそのようなことをする必要があったのか。
挑発、警告それとも紫苑たちを試したのか。答えは出ることは無い。
紫苑が深く考えているとふと足にポンという優しい衝撃が走った。何かと思い考えることを中断して足元に顔を向けると狐姿の八重香の瞳が心配そうに見ていた。
(心配がありますの?なんやったら言うてくださいね。主様は色々と溜め込むお人やさかい心配になりますから)
頭の中に聞こえてくる声に微笑みが漏れてしまった。自身を心配してくれる人は久しぶりで基本は1人で旅をする紫苑には新鮮なものだった。
心配をしてくれる八重香には申し訳がないと思うも結局は紫苑の心配事を彼女に伝えることは無かった。
紫苑は八重香から目を離すと紫苑は目を閉じた。それは彼自身が集中をするためであり気持ちを切り替えるためだった。
紫苑は深呼吸をするとゆっくり目を開けた。そこには先程の悩みを持った目では無かった。
「すまぬな。心配をかけたようだ。とりあえずは寝よう。。考え込みすぎてもらちがあかぬ」
「きゅー」
そう言って紫苑が横になると八重香はどうどうと彼の腹の上に居座った。