第13話嫌な予感
1回目2回目副作用なくて調子乗ってたら3回目だけワクチン苦しかったですね。まじで普通の風よりしんどかったから参りましたよ
「さっお前は部屋に戻りなさい。お父さんは大事な話があるからね」
「はーい」
リアムがそう言うとアルスは率直に部屋から出ていった。するとリアムは先程とは違いずっと真剣な表情を浮かべた。
「あの方達を守る貴方には言っておこうと思いましてね。ひとつ話をしようと思いました」
「…最初から気づいておったのか?」
「さて?なんのことか分かりませんね」
「ふっまぁ良い」
一切笑う様子もなく鼻で笑った後に紫苑はリアムの言葉を待つ。幻術は誰にも分かるようにはされていない。例え高度な魔術師や深い忠誠を誓うものでも見破ることは難しい。もし見破れたとしたらそれは相当な実力者かあるいは特別な目を持つものだろうが、リアムはどちらであるのだろうか。
紫苑が観察するに特には力の痕跡も無く、実力者であることは感じられない。だがそのようなことで油断は禁物だ。それを心に紫苑はリアムを伺うようにぬるい水のような瞳で見つめる。
そこでリアムは困ったように苦笑いを薄く浮かべた。
「あはは。おそらく実力者では無いかと思っておられるのでしょうが、私は何も力を持っていませんよ。あるとすればこの瞳に宿る真実を見る目と言うだけです」
「魔眼か…」
「ええ、ですがそこまで強いものではありませんよ?せいぜい相手の正体や嘘を見抜くぐらいです。ですがあの人たちにかけられた魔法は強すぎるのか私では完全に見ることが出来なかったですからね。相当な実力があるようで」
手に持ったハンカチでかいてもいない汗をリアムは拭く。それは焦りからなのか相手、つまりは紫苑に恐怖を抱いてなのかは明白だ。しかし紫苑は気にすることは無かった。
「それは俺ではない。俺の仲間がやってくれたことだ」
「そうですか。強い仲間のようですね。……すみません話が脱線してしまいましたね。本題は帝国のことです」
「帝国か。テレス達の話では前振りもなくいきなり襲われたそうだが…」
「ええ、その通りです。私が今把握出来ていることだけですがお話しましょう。あまり役に立つ程でもありませんがね」
謙遜しているのかそれとも事実なのか事実を聞くまでは分からない。そもそもこの国で何が起こったのかまだわかっていない。リアム自身苦笑いをしているがその表情は深刻なものだ。帝国の戦力がそれ程までなのか分からない。しかし警戒はしなくてはならない。
「おそらく王都が陥落したことしか聞いておられないでしょう?」
「そうだ」
「一切の進撃の情報すらなくいきなり王都は陥落しました。ですがそれだけではありません。王国中の街がほぼ同時に落とされたのです。この異常さ、分かりますよね?」
リアムは紫苑に問いかけた。冷静を装っているが手のひらは力みすぎて血の色がなくなりかけている。
リアムの言うように確かに異常だ。国は広い。そんな場所をバレないように移動して襲撃する。しかも相当な数の兵力が必要になるため、そのような動きがあればバレないこと自体おかしいことだ。大人数でバレない移動など不可能なのである。
紫苑はリアムの言葉に頷き返した。それを確認したリアムは話を続ける。
「不可能なことが実現された。あるとすれば…空間魔法か能力だけです。この2つの可能性以外に考えられない」
「だが空間魔法はありえぬな。人の力で扱える範囲で、国ひとつ落とせる程の人の数を遊ぶことは出来ん。できるとすれば人の力を超えた神に与えられし加護である能力だけだ」
「全くもってその通りです。空間魔法ですら神の加護に近いレベルですが人の力で制限されてしまう。空間魔法でそれほどの人を移動させようとしたらそれこそひとつの国が消えるほどの魔力が必要だ。ですが能力は、神の意志によって与えられた力は魔力を一切使わずにその力を行使できる、いや、できてしまう」
スキル、それは先程の説明通り神により与えられた力の加護。それは一切の魔力、霊力などの力を消費せずに力を行使できる特別な力である。魔法、魔眼などは全て魔力などを消費する。しかしスキルはそれがない。そのような力を持つだけで大国になれるとも言われる代物だ。その上の力も存在するがそれはまたの機会に。
リアムは先程の少し気持ちが出過ぎたのを抑えるために言葉を止めて一息つく。リアムが感じるのは悔しさ。なんの抵抗も準備も許されずこの国は一夜にして制圧された。それがどれほどのものか紫苑には想像もつかない。
「……貴方は帝国のある噂について知っていますか?」
「噂?そのようなことは一切聞いたことがないが…何かあるのか?」
「ええ、本来スキルとは持っているだけで、光聖院教会の本部のある聖国に連れていかなければならないのがこの大陸ではルールとなっております。中立を保つ国に預けることで国同士に戦力の差を出さないようにするためです。ですがそのような話すら聞いたことも無い」
「ならその噂とは能力持ちを隠しておったということか?」
「それなら何処まで良かったことか。……聞いた話ではどうやら帝国は勇者を召喚したようです」
「なに?」
その瞬間空気が変わった。それは紫苑が険しい顔をしだしたのと同じだった。
「まさか世界の危機でもなかろうに異世界から呼んだというのか?」
「ええ、私の情報が正しければですが」
「面倒なことになった」
「ええ、本当にですね」
(世界の法に触れるぞ。帝国は何をしておるのだ!全くもってけしからん)
紫苑は心の中で叫んだ。眉間を手でほぐしながらため息をつく。
この世界に全くの無関係な人々を呼ぶことは普通ならしてはならないことだ。それこそ世界の危機でもない限りは。異世界召喚などその世界に生きるもの達の人生を壊してしまう代物。それが簡単に許されるはずがないのだ。
「貴方があの方達を助ける上で前もって必要だろうと思い話させていただきましたが役に立ちましたか?」
「ああ、大いにな」
「それは良かったです。ところでですかお風呂はどう致しますか?」
「入りたいところだがテレス達も腹が減っておるだろうから先に飯を食わしてもらって良いか?それと金はあるから服を用意してくれぬか?」
「ええ、ならそうさせて頂きましょう。あの方たちの服は我々が用意するのでご安心を。もちろんお金は不要です」
「いや、流石に悪い。貰ってくれ」
「いえ、恩人なのですから貰えません」
「いやだが……」
この後2人は交渉を続けた末、本来の値段の4分の1の代金を払うことでお互い了承した。最後までどちらも納得はしていなかったのだが。