0.3
震える声を絞り出し必死の思いでの問いかけに、それの笑ってる口元が更に歪んだ。
「ええ嫌だなあもう知ってるでしょう」
この声だ。男か女か、人間がAIか大人か子供かも分からない声。
全身の震えがとまらない。
逃げろという体からの最上級の警告に
身体が動かない。
「うーん」
考える素振りはまるで人間だ。
パッと顔を上げ無いはずの目が合う。
「あ、宇宙人でーすっ」
その瞬間
喉が焼けるような乾きを覚え頭が暑くなった。ジンジンと脈をうち頭の中に声だけが響く。
「あははははやっぱり!」
何がだ?
笑い声だけが頭の中に木霊する。
同時に激しい頭痛が襲う。
ジンジンずきずき、、、
「なるほどなるほどあはははははは」
「あははははははははは」
「うるせぇっ」
その瞬間ぐらついた視界の中で見たのは
スーツを着た男。
あの人は、、
目が覚めるとベッドの上に居ることに気付き体を起こした葉はぼんやりと辺りを見渡した。
最後に見たあれは誰だ?
知っている様な。
寝ぼけた頭の中にはっきりと覚えている笑い声が体を瞬時に覚醒させ飛び起き
リビングへ向かう。
そこには静まり返ったいつも通りの光景が広がっていた。
「夢か」
そう呟いた後にひどく安堵し体から力が抜けていく。
「腹減ったな」
時計を見ると20:45分をまわっていた。
幼い頃両親を事故で亡くし、
義務教育までは父方の親戚が面倒を見てくれていた。
母方側の親戚で、莫大な資産を持ち大金持ちだという事くらいしか知らない叔父は
義務教育が終了したと同時に葉に立派なマンションを買い与えた。父方の親戚が複雑な顔をしていたのを今でも覚えている。
葉に対して異常な程の過保護は、
叔父と両親の過去が関係していた。
両親の事故は、叔父が進めた外出の日にそれは起きたからだ。普段忙しく旅行も行けない2人への叔父からのサプライズだった。
母方の親戚が話していたのを聞いてしまった葉は、叔父の行動1つひとつが罪滅ぼしなのだと考えるようになった。
残された2人の息子としてせめてその1つひとつを叶えてあげようと思うようになっていた。叔父が悪いのでは無いことくらいわかりきっている事だ。
高校は通うものだと思っていたが、
通信校で済ませ、服は欲しいものを連絡すれば翌日には玄関先に届く。
食料品や生活に必要なもの全てが常に充実していた。
高校を卒業してからは働こうと思っていた葉に叔父は自社への入社を進め、
今では次世代コンピュータの研究員として雇ってくれている。
いつまでも面倒を見て貰う年齢でもない為、1度違う所へ行きたいと相談した事があったが、頑なに止められてしまった。
食事も言えばシェフを雇ってくれると言っていたが自炊ぐらいは出来るようになりたいう理由で断った。
叔父にいつまでもおんぶにだっこは葉自身申し訳なさ過ぎて
出来る事はやりたいと思っていた所への叔父からの提案を利用させて貰う事にしたのだ。
最初は苦戦し何度も指を切っては絆創膏を巻いての繰り返しだった料理も家庭料理くらいは簡単に出来るようになっていった。
台所から盛り付けた料理を運びリビングのテーブルへ置いたその時、
「美味しそうですね」
品の良い声がリビングに響いた。
体がびくりと跳ね上がり振り返ると
そこにいたのは
仕立ての良いスーツに身を包み、
品のある佇まい
年齢は50半ばだが
その所作全てが美しく静かに人の目を引く。
そんな人だ。
「聖さん、、」
立科 聖 は葉がまだ幼い時よく面倒を見てくれていた叔父の秘書だ。
年は取っていたが穏やかな笑みは相変わらずこちらを安心させる。
月に1度、こうして叔父の代わりに葉の様子を見に来るのだ。
「聖さんっ、さっき俺っ、」
倒れる前に見た姿を思い出し
咄嗟に駆け寄り、聖に問い詰めようとしたが説明する言葉が見つからない。
そんな葉の様子を見透かした様に、
聖はそっと葉の肩に手を置いた。
「さっき来たら倒れる瞬間で肝を冷やしたよ。熱はないようだったし呼吸も安定していたからベッドに運んだんだよ。」
葉が顔を上げると心配そうにこっちを見ている聖と目が合った。
「とりあえず、座りましょうかせっかくの料理が冷めてしまう」
二人でテーブルにつき、葉は食事を
聖はコーヒーとクッキーを口にしながら
日々の事や体調の事などを話す。
両親を亡くした葉にとって幼ない頃から知っている聖は叔父より近く、まるで父親の様な存在だ。
葉が外出する際は必ず何処かしらから見守る護衛の様な事もしている。
少し気になるが、親族が大資産家なのだから仕方ないのだろう。