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夢見がちな日常で。  作者: あ。
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法螺貝


「今年はいつもとは違う夏になるでしょう。続いてのニュースです・・・」


テレビの中で美人が話している。その隣にはこれまた立っているだけで爽やかな男性アナウンサーがいる。


顔面偏差値とは、何故こうも差が出るものだろうか。

人類みな平等とは嘘だ。

テレビ画面をぼんやり眺めていた前島 葉 は

1リットルのパックジュースをストローで啜りながら、モニター画面をアニメに切り替えた。


何回目かわからないこのアニメ映画は、もう片手間に観るようになってしまった。スマホの画面越しにたまに観る程度だ。


それでも今この世界からの現実逃避にはかかせない。


推理物に異世界転生

ハーレム系にスポコン系

どの漫画の主人公もキラキラしている。


自分だったら、ああは行かない。

それに、モブだって当て馬だって、敵ですら大事なポジションだろう。


もし次元を超えられた所で、出番すらない。どこにいても。


「あーー」


こんな世の中だろうか、どうにも後ろ向きだ。


世間が変わってからもうどれくらいの時がたっただろうか。

外では蝉が忙しなく鳴いている。空は高く青い。

自然界は子供の頃のまま、我々人類の世界だけが変わってしまった。


「何でこんな事になったかねぇ。」



あれが地球上にいきなり現れたのは、まだ寒さが厳しい冬の日だった。

ニュースは騒ぎ立て、世界中で報道された。


あの日は朝から雪が降っていて

数年に一度の大雪になるかもしれないと気象予報士が注意勧告をしていた。


起きたばかりの頭には、そんなテレビの言葉すら響かない。

何年経っても朝は苦手だ。


それでもまだ止めてないいくつかのアラームを止めようとスマホに手を伸ばしたその時、突如としてそれは起こった。


爆音のサイレンがいきなり街中に響き渡ったのだ。アラームどころじゃないその音は、人を一瞬でパニックにするには充分だった。

地震か何だと右往左往しているうちに音は鳴りやみ何事もなかったように静かになった。


「えっ。。」

椅子から立ち上がったまま動けない。


程なくして今度はテレビの中が騒がしくなり始めた。

「速報です。たった今入ってきたニュースです」

キャスターが原稿を渡されカメラと向き合った瞬間画面が切り替わった。

さっきのサイレンで目はとっくに覚めている。

それでもつぶやくしか無かった。


「なんだあれ」


あの手前にあるのは某タワー

そのもっと奧、タワーの後ろにそれはあった。


あれは、


「・・・城?」


それは余りにも大きく、パッと見何かわからない。

ただ、街が大きな影に飲み込まれていた。


「何で城?」


いつの間にかドラマになったのか?

それよりさっきの爆音は何だ?


寝起きの脳みそをフル回転させて考える。

その時、


画面にノイズが走り、城らしきものをバックに音声と字幕が同時に流れ始めた。男か女か機械なのかよくわからない声だ。


「みなさん、おはようございます。この国の都市はここだと聞いたので、まずはここから始める事にしました。おめでとうございます。都市にお住いの方々。」


なにが?


なにを?


たったまま画面を観ながらフル回転させていた脳みそが徐々に落ち着きを取り戻していく。心臓の脈が正常に戻ると共に少しずつ冷静さも取り戻す。


「ああ、本題から言わないとわからないですね。申し訳ない。えーっと、、

ああ、そうだそうだ。たった今からここは人類無差別分類計画の基地となりました!宜しくどうぞ」


「人類無差別分類計画・・・」


ああ、そうか。



やはり変なドラマが始まったと思いチャンネルを変えても変えてもどのテレビ局でも同じ画面しか映らない。

とりあえず爆音のサイレンは避難訓練ということにしておこう。

「電波ジャックか?」

が、そうじゃないことはすぐにわかった。

電源が切れない。

コンセントを抜いても画面は映ったまま音声と字幕は流れ続けていた。

「名前だけ聞くと大層な物にきこえますが、簡単なことです。みなさんにはこのとっても立派なお城の頂点、殿 を目指していただきたい。見えてますか?立派でしょう 」

その声は自慢げに楽しそうに、まるで小さな子供のように話している。


「あ。ちなみに殿というと男性というイメージですが、そんなちっぽけな事一々気にしないでくださいね?

男女共に、頂点に立ったものが 殿 と呼ばれるのです。違和感あるかもしれませんが、この形の城だとそれがまあ、妥当だと決まったもので。

姫って案も出たんですけど、男だから女だからなんてどうでもいい事でしょう。優れた力持つものが頂点。わかりやすいのが1番です。

そもそもこの星は遅れすぎているんですよ。やれ性別だやれ国だ・・・」


何かを言いかけた後少しの沈黙がありまた話し出した。



「いけないいけない話がそれましたね。戻しましょう」


「これ作るのお金かかったんですよ?まぁ、そんな事もどうでもいいか。とりあえず、1つの殿の席を巡って皆さんで椅子取りゲームしてください。ルールは皆さんお手持ちのスマートフォン、タブレット、パソコン、後はポストに送付されているので各自確認して下さいね。殿になった暁には、地位も名誉も思いのまま。小さなこの星の全ての権限が託されます。大統領だって貴方に傅く!死ぬまでの期間限定ですけど。さぁ、今から開始しますよ!5.4.・・・」



人間不思議なもので、カウンドダウンが始まると状況が全く理解出来ていなくても焦りながら動こうとする。

咄嗟にスマホに手を伸ばす。

「1」


「スタート」

同時に無数の花火が空一面に打ち上がった。





まだ空は明るかったのに異様な程はっきり綺麗に見えた花火を思い出しながらため息がでた。

あれから、城らしき建造物はずっとそこにあり、殿になるべく輩が日々色々とやっているらしい。


元々そこにあった家や店は不思議なことに綺麗に避けて並んでいた。

まるで昔からそこに城があったかのように。


あの日スマホに届いたルールから選んだのは一択だった。


城下町の一般住民


つまりは殿争いからの棄権だ

棄権すれば生活はさほど変わらず送れるようだ。殿争いが過激にならない限り。

これにより分類枠は謎の数桁の数字に決まった。村人Aみたいなものか。

棄権した人数はすぐにモニター出来るが、数字からしてかなりの数が棄権していた。

もし、殿争いが一般住民に危険が伴うものになったとしても、勝手に妙な城を設置した奴らがすぐに助けてくれるわけではなく、こちらの責任で全て動かなければいけないらしい。

一般住民は普段通りの生活を送れる代わりに、殿志願者を監視する役割も担っている。

その為志願者が過激に行動さえしなければ、住民は特にする事もなく普通に暮らせるが、何かあればすぐに通報をあげなければならない。


通報された志願者がどうなるかは詳しく教えて貰っていないが、姿と存在全てが抹殺されるらしい。嘘の通報をした住民も同じだ。


すぐに逃げる様にこの街を出た者も大勢いるが、元々のこの街の人口だ。問題無いのだろう。

それに、正直この街がこんな状態になってもまだ愛着があるのは昔から色々と鈍いからだろうか。

何だかんだ言いつつ自分に直に害が無ければ腰が重いのが人間だ。

「城から少しは遠いしな」

スマホのスクリーンショットしたルールを今一度開いてみた。


殿志願者のルールは

1城下町の一般住民に過度な危険や恐怖を与えない事。

2志願者同士だけなら大体の事は許される事。

3戦で破れ死んだ物は親族のみの弔いとなる事。

4途中で棄権は出来るが、あまりオススメしないよ。生半可な気持ちで志願者になっちゃダメだよ。(重要)

5指定地域以外での争いは禁ずる。

※詳細はここから もしくは朝刊・フリーペーパー・配布用紙から。


これだけだった。


3の戦とは、要は志願者同士で現在行われている椅子取りゲームの事だろう。

4だけ含みがある書き方だ。何だなんだよ。

毎朝10時に現在の志願者数が公表される。

減っているのを見ると、死んだのか棄権したのか、はたまた通報されたのか

最初はザワついていた住民や世界中の人も徐々に話題にも上げなくなっていった。

そして減ってもまた人数は増えている。それだけ志願者が耐えないのだろう。


城は特に誰かが中に入れる風でも、中に誰かがいる感じもない。

今では外観を見る為にちょっとした観光スポット化している。

人間の適応能力とは時にすごいと思う。

いきなり出現してあの放送が流れ終わった当初はあんなに大騒ぎしていたのに今となっては日陰で洗濯物が乾かないとか、そんなちょっとした愚痴くらいしか聞こえてこない。



「とっとと誰か早く殿様になってくれればいいのに。」

どうにも慣れないのは、適応能力が微弱なのだろうか。

まぁ、一般住民である自分には関係ないし、今の所志願者が表立って暴れ回っていない。何かあれば誰か通報するだろうなどと他人事丸出しで寝転がった。流しっぱなしの映画は中盤に入っていた。

扇風機の風が心地よく、微睡む瞼を閉じた。


どれくらい時間が経ったのか。

いつの間にか寝落ちしていたらしい。

観ていた映画は終わっていて動画配信サービスのトップ画面が表示されていた。


リモコンで画面を戻すと夕方のニュースの中で志願者が映し出された。


ここではただ穏やかな夏の夕方が流れているのに、

画面の向こうでは真逆の光景が流れていた。

ぼんやりニュースを観ながら

椅子取りゲームが始まってから、ずっと感じていた違和感がある事に気づく。

誰も触れないけれど、気になっていたこと。


人って空とべたっけ?


爽やかなイケメンが空中でくるりと回転し方向転換をしている。


スーツを着たサラリーマンが汗を拭きながらふわりと着地する。


女の子が配信をしながら空中で愛想を振りまいている。


当たり前の光景。


僕はとべない。

志願者のみの当たり前。

そういうものなのか?

志願者だから。

そして志願者は皆赤く汚れている。

イケメンも、サラリーマンも、女の子も。

あれは血だろうか。

何故だろう。ここにもずっと違和感がある。

誰かの血なのか。

でも、志願者だから当たり前か。


違和感の後必ずたどり着く答え。

「彼らは志願者だから当たり前だよ」


アナウンサーも誰も触れない当たり前に

、何故僕は違和感を覚えるのだろう。

志願者は特殊能力を授けられますなんて、書いてあっただろうか。

やはり僕は疎いらしい。


「血まみれの姿を夕方のニュースでながすとかどうなの」


いきなりの事だった。


真後ろで声がした。

家に他に人はいない。


この声は、確かあの冬の、あの時の声


咄嗟に振り返り距離をとるが後ろには誰もいない。


今度は真隣から声がする。

「人間は生物学的に単体で空飛ぶなんて有り得ないんだよ。」


身体が動かない。

何だ。

声は続ける

「各国人間同士で殺し合いさせて結果乗っ取るつもりだろ?宇宙人」

「何で誰も何も言わないんだ?」


未知の領域への恐怖が込み上げてくる。

この声が言っていることは


「僕の違和感の正体だ」


そう言い終わると目の前にそれは現れた。


手と足はある。顔は口だけで全身は暗闇の中電飾が輝いてるように全身チカチカと光っている。


「こんにちは。」

恐怖に支配され身体が震え言葉が出ない。

「あれ?この国はこんにちはで合ってるはずだけど、違ったかな?」

悩む様な素振りで口元は笑っている。

「おーいそんなに怖がらないで危害は加えないよ今は」

落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。

逃げ出したいのに身体が動かない。

落ち着け落ち着け。

「落ち着いて、ね?」

汗が吹き出して止まらない手を握りしめ

震える声を絞り出した。

「何なんだ、お前」


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