一話
「そんなのは知らない!」
「知らないはずないだろう?」
「いいから、関わらないで!」
「ちょっ、ちょっと! 待って!やっぱお前なんだろ日向!」
「っ!!! しつこいわね!いいから関わらないで!」
とあるバス停の中から聞こえてくる喧騒は殺伐とした雰囲気だ。
「あんたが黙って、大人しくバス待ってればいいのよ!」
「はあぁ? おいおいそりゃないぜ!お前が勝手に弁当食っちまったのが事の発端だろ!」
「はぁ?知りませんけど?それにあんたの弁当、肉ばっかで、大雑把過ぎでしょ。超重いんだけど」
「……っ!!! てめぇやっぱ食ってたじゃないか!!!」
「ぷはは、しょうがないじゃん、雄介だって、この前私の揚げパン盗み食いしてたし、お相子だよ、お相子。」
「それとこれは全然違うだろ!」
「はぁ?しつこいよ?家に帰ってから食えばいいじゃん、そんな食い意地張ってるとモテないよ」
「……お前が人の事言いえた義理かよ。」
「うるさいわね、あんた、どっかバス停から離れたとこいなさいよ!マジ暑苦しんいんだけど」
「こっちのセリフだよ。たまったもんじゃないぜ、お前と一緒なんて。」
ちょうど二時を回ったところか、日向は、残り少ない充電を知らせるスマホで時刻を確認しながら、悪態をつく。
あちこちから聞いてると痛くなりそうな蝉の鳴き声にイラつき、空を見上げる。
見上げた先は雲が空を覆い所々、光が差し込む様に、雲の間を縫って、地面を照らし出してはいる、その光景は少し神秘的な物を感じるが、隣にこいつが居るとなると、感動も半減だ。
八月の昼、二人は家も近い事もあって昔からの仲だ。
なので勿論、学校への通学路も同じというわけだ。
だが最近喧嘩も絶えない。
思春期なのかそれともイラつく季節だからか、高校に進学するやいなや、毎日のように言い争いを繰り返し、既にその学年の名物になっている。
学年といっても田舎の学校なので、ひと学年に数十人しかいない。
「あぁ もう! あんたに付き合ってたらバス乗り遅れちゃったじゃない!」
「俺のせいかよ!日向が俺の弁当盗んで校舎裏で、食ってたからだろ!」
「ったく、男の癖にぐちぐちと、それよりどうすんのよ!つぎのバスは三時間後なんだけど! テレビ見れないじゃない!」
「……どうしようもないだろ、待つしかないよ。」
「はぁー、最悪」
「っ!なんだよそれ!俺のせいかよ!」
「雄介のせいよ」
「うるせえよ!」
「三時間か……あっ 充電が、」
「あーあ こりゃ長くなるな 学校戻るにはちょっとばかし遠いし、家までは、今から歩いたら日が暮れちゃうだろうし大人しく待つしか無いのかよ?]
「……携帯、切れたわ」
「……」
話が静まり暫くすると、蒸し暑い中、小さな雨音が聞こえてきた。
「……降ってきたな」
「……最悪」
喋るのに疲れたのかお互いの口数も少なくなった気がする。
「おー強くなってきたなー」
「なっ! もうーボロいバス停ね!」
雄介が次第に強くなくなる雨に感想を述べていると、
日向の肩に雨粒が垂れ落ちる。
バス停には屋根がついているが老朽化が進み、今にも朽ちて無くなりそうなほどだ。
屋根は所々穴が開いてたり、大きく破けていてりと、好き放題だ。
するとその隙間から屋根では防げなかった雨水がちょろちょろと流れ落ちてくる。
二人して顔をしかめながら、仕方なく雨の当たらない中心に、肩を寄せ合う様にして椅子に座る。
「もっとあっちいって!」
「押すなよ!雨にあたるだろ!」
「あんたなんか、雨に打たれてばいいのよ!」
「酷い言いようだな。」
「ああーー もう! 雨が弾いて靴が!」
「クソ! 俺も!」
「ちょっ! 押さないでよ!」
「いや!じゃないと靴下脱げないんだけど!」
「ちょっ!濡れるんだけど!」
「……よし!うあびちょびちょだな。」
「汚いわね。どいてよ!私も脱ぎたいんだけど」
そう言い、雄介が脱ぎ終わったのを片目に、日向も靴下を脱ごうとする。
既に濡れ切った靴から、足を取り出し、靴下を脱ごうとするが、濡れているせいか思う様に脱げない。
苛立つのを抑え、ゆっくりと足を引き抜く。
「ほんとびしょびしょね、」
「お、おう」
チラッと雄介に眼を目をやると、すぐに視線を逸らされる。
日向はそれを気にも留めず、濡れた髪を、纏めにかかる。
「……」
「……」
お互いに黙りこくってしまったが、日向が不意に口を開く。
「……ねぇ 雄介」
「……」
「学校楽し?」
「……なんでそんな事聞くんだよ」
「……別に]
「普通だよ、中学とそうたいして変わらないよ」
「そう……」
「なんだよそれ?」
「なにが?」
「なんで急にそんな事聞くんだよ。」
「何でもないよ。」
「……そうかよ」
雄介が眉を顰め、日向を見つめる、日向はそんな雄介をよそに、椅子の上で膝を抱える様に座り、目を細め、明後日の方角を見つめている。
雄介はそんな、どこか儚げな日向の姿が一瞬、”綺麗”だと思った。
触れば壊れてしまいそうな姿に思わず固唾を飲む。
そんな考えを悟られまいと、頭から消そうとする。
だが、消そうとすればするほど、その姿が鮮明に頭の裏に写しだされる。
心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「ねえ?」
「え?」
「どうした?」
「な、なにが?」
「……別に」
動揺していたのだろうか。
何かを訝しむような視線が、胸中を見透かすように向けられる。
「……ねぇ 雄介ぇ」
「……」
気のせいだろうか、日向の口から紡がれる声は。どことなくいつもとは違う、どこか上ずった喋り方だった。
「なんだよ……」
雨が降っているはずなのに、辺りは妙な静けさに包まれていた。
「キスし、なぃ。」
「……」
冗談を言ってるとは思えない面目でまっすぐに雄介を見る。
お互いの息の音が聞こえそうな程の距離で会話する。
日向は動揺してるのか、普段はどんなに走りまわっても、息一つ切らさないのだが、今は肩で息をしながら、顔を赤らめ、眦に涙が溜まっていく。
「あっ、あのね、何でもない、いやっ、その、む、昔みたいに、ふざけてしてたの、思い出しちゃって、」
日向が勢い良く捲し立てようとするが、喋れば喋る程ボロが出てるかの如く、動揺が目に見えるようだ。
「……」
「……い、いいよ」
普段はどっちもこんな気恥ずかしい会話は絶対しない。
もう、喋るのに疲れてしっまたような日向に代わり、雄介がそっと口を開く。
「……え?」
「いいよ、したいんだろ、キス……」
自分でも何を言っているのかと、雄介は自問自答する。
二人の顔がこれ以上にないくらい、赤くなるのがわかる。
日向に至っては、口をパクパクさせながら、額から、暑さからか、それともこの気恥ずかしい会話のせいか、汗が流れ落ちる。
二人は黙ったまま互いを見つめ、ゆっくりと顔を近づける。
互いの吐息が肌を触るのを感じる。
雄介は日向の汗と柔軟剤が混じりあった甘酸っぱい匂いに頭がクラクラするのが分かる。
「ん……」
お互いに唇が触れ合い、溶けるような柔らかさを楽しみ、
確かめ合う様に何度も離しては、再びキスをする。
お互いを求めあうかの様に何度も何度も。
繰り返してる内に雄介は、日向の眦から涙が零れ落ちるのを見ると、
そっと髪をかき上げるついでに、親指で涙をすくってやる。
それを見かねた日向は少しだけ、いたずらっぽく微笑む。
雄介の肩を掴んだまま、腰を上げ、向かい合う形で、雄介の膝の上に乗っかるように座る。
すると身長は立っていると雄介の方が普段は高いのだが、膝の上に乗っかると日向の方が、幾分か高くなる。
「……生意気」
日向は両の手を雄介の首に回しこみ、上から見下すような、薄く微笑む様に、雄介に耳元で呟く。
雄介は一瞬、頭を殴らたような衝撃に似た物を感じた。
「日向……」
「ん?」
「日向のおっぱい見せて」
「……」
日向の顔が少しだけ引きつるように見えたのは気のせいか、すぐに悪戯っぽい笑顔を取り戻すと、顔を赤らめながらだが、「いいよ」とわざわざ耳元まで近づき囁く。
するとゆっくり一つずつ、掛けられたボタンを丁寧に外していく。
その光景たるや普段は絶対に見れないような出来事に思わず息を呑む。
いつも怒っているか、雄介のことを嘲笑っているか、ぶすっとした無表情な顔しかしてこなかった、愛想の欠片もない日向が、今日は一段と可愛く見えるのは何故だろう。
不意に視線を日向に向けるとびっくりしたような顔になりすぐさま顔を逸らそうとする。
そんな仕草が妙に可愛げがあり、思わず悪戯してしまいたくなり、
右手で日向の頬をさすってやる。
日向は驚いたのか、雄介のほうを向き直ると、唇がわなわなと震えている。
雄介は面白い物を見たとばかり、すこし笑った顔を向けてやると、日向は嫌なものを見たとばかり顔を顰める。
雄介は脱ぎ掛けにになった制服のボタンにてを伸ばす。
中に運動着を着ていてのかインナーと一緒に脱がそうとする。
すると小さくもなくさほど大きくもない発育の良い豊満な胸が飛び出す。
日向は思わず両手で顔を覆ってしまう。
「恥ずかしいんだけど」
消え入れそうな声で己の感情を雄介に訴えかける。
もうお嫁にはいけないと。
雄介はそんな日向と日向の胸を食い入るように見つめる。
「綺麗な乳首だね。」
「……しね」
もう声にもならない声で日向は悪態をつく。
雄介も声には出さずにはいるがその緊張具合と言ったら図り知れない。
雄介は意を決し日向の右胸に口づけをする。
それと同時に日向の身体がほんの少し跳ねたのがわかる。
雄介はしたで穂先を舌で転がし、甘く噛み、吸い出そうとする。
「まっ!」
くすぐったさと快感が混ざり合い、思わず雄介の頭を抱き寄せる。