ほうきに乗る
森の家へ帰る途中に聞いた、
「何故、城で話す事を禁じた?」
「あの城の結界は私の知らない者がしている。私の傍に居ればお前の言霊は効果を果たさないが、念の為だ。封印は解いたが痕跡までは消せない、ここに残っている」
そう言って俺の胸に指先を当てる。
「お前に封印をした者はかなり強い魔法を使うようだ、調べたが誰か分からなかった。今は私の弟子しかこの国にはいない多分他国に逃げたか」
それを調べる為にここまで動いてくれていたのか……
俺は何かの陰謀に巻き込まれて、始末されそうになったって事か? それだけなら、それこそローズが言っていた様に心臓を一突きにすればいい何故俺はこうなった?
‥‥‥考えるのはよそう、俺は今はレグルスなのだ。
「そんなに難しく考えるな。お前がもっと強い魔法使いになれば痕跡も上書きされ分からなく、だから修行に励め」
翌日からほうきに乗る練習をする。これがこんなに難しいとは思わなかった。ほうきに乗れなんて……
魔法使いじゃないよな……飛べない鳥の気分だ……乗れないと言うより、乗せて貰えない……
「ほうきに乗せて貰えない魔法使いなど初めて見たわ」
ローズは腹を抱えて笑う、ほうきはどうして俺を拒絶する? 持っている分には問題はない、ただ、乗ろうとすると……逃げる……逃げられるって‥‥こんな事あっていいのか……
困っていると、ローズが俺のほうきと話している?
「レグルスお前は剣士だったようだ。それで、ほうきが嫌がっているみたいだ」
それだけの理由かよ、お前を切ったりなんかしないぞ……涙目になりながらほうきに訴えてみる。
「剣士が、ほうきには乗ってはいけないなんて決まってはいないよ。それに今は魔法使いの修行中だ」
ローズが俺のほうきに言う。……なんだ……これは……ほうきからか……
「乗せてくれるのか……」
俺はほうきに跨る。あっと、乗れた!
「良かったな、これでお前もやっと魔法使いらしくなった」
それから、ローズと一緒に空を飛んだ。身体が軽いほうきの能力ってやつか、魔道具は他にもある。教えて貰う事は多い。それらを使いまた、魔道具を作る。楽しみだ。
街では噂が流れる。『勇者は生きている。魔王になり果てた』と。なんの根拠はない。ただ魔族が増えた。その事で怯える民がそう言っているのだと、ローズはそう思っていた。
ここは酒場、2人の男が酒を呑んでいる。
「エルナトはどうしている」
「あいつは何処ぞの貴族に囲われている」
「良い身分だ。ビッチが!」
「そうでもないらしい……その貴族は変わっていてな、拷問好きらしい。だから、魔法で傷を治せるエルナトに目をつけたみたいだ」
「治癒魔法しか使えない奴だったからな。剣はそれなりに強かったが、色目を使う相手を間違えたってとこか」
「終わったな。俺達もハダルみたいに国外へ行くか、今のメンバーの奴ら雑用ばかり押し付けやがる。これでもガーディアンだぞ、勇者の仲間だったのに」
「……そういえば、お前アイツの死体見たか?」
「お前が後始末してくれたんじゃないのか……あの後行ってみたが無かったぞ」
「まさか……な……アレで生きている訳ないよな。ハダルに封印して貰っているから何かあれば分かるはずだ。明日ハダルの所に行こうぜ」
「そうだな。勇者のパーティーメンバーだったと言えば、優遇して貰えるかも知れないしな」
翌日、その2人の乗った馬車が魔族の襲来によって谷底に落とされた事は誰も知らない。2人が言っていたハダルは隣の国で魔族に肩入れしたとして処刑(火刑)されていた。
俺は不思議な感覚を覚えローズに話した。俺をじっと見た後。
「お前に封印した魔法使いは死んだぞ、お前に残っていた痕跡が消えている」