森の奥の家
どれくらい眠っていたのか分からないが、気が付いた時には傷の痛みは無くなっていた。
「気が付いた?」
その声に頷く。
「そう、喉はどうかな? 痛みが無いのなら食事を摂ろう、口を開けて」
言われるまま口を開けた、そのスープ? を飲み込む……これは、コーンポタージュスープ……その名前が頭に浮かぶ……
食事が終わり、声を出そうと深呼吸した後、ゆっくりと口を開けて話す、
「あ……あぁ……ありがとう……」
「うん、声も出るようになったね、目の方はどうかな?」
顔に巻かれた布を外す、薄暗い部屋は今の俺にはまだ少し眩しい、そこには、魔法使いが着るローブを羽織った美しい女性が居た。
「見えるかい?」
「はい、見えます」
「良かった、次は……手足はどうかな?」
動かしてみる……動く……指は、まだ少し動きが鈍い……でも……動く、嬉しい……
「指もそのうち上手く動かせるようになるだろう。私はローズ、魔法使いだ」
「貴方が俺を助けてくれたのですか、見ず知らずの俺を……」
「君は魔法を封印する術式がされていた。勝手に解除したが良かったかな? その方が傷の治りが早いからね」
「はい、何てお礼を言っていいのか……」
「君は記憶を消されている。それを戻すのはちょっと厄介だね、君自信がそれを望んでいない」
「……望んでいない理由はあるのでしょう。それなら、これから俺は新しい自分として生きて行きます」
「そう、では、名前は必要だ。ん~……レグルスなんてどうだい?」
「レグルス……いいですね。これから宜しくお願いします。ローズ、俺なんでもしますよ」
それからローズと言う魔法使いの家で住む事になった。そこは森の奥深い場所だった。薬草を採ったり、薬の材料になる物を探したりしていた。午後のお茶の時間、ハーブティーを飲みながら聞いてみた。
「ローズ、聞いてもいいかな」
「何でも答えよう」
「どうやって俺を見つけてここまで連れてきたんだ?」
「やだな、これでも魔法使いだよ。それ位簡単さ、見つけたのは……あの日勇者達の凱旋があってね、その凱旋パレードの後の歓迎パーティーに出ていたんだ。私はそういう場所が苦手で早々に退席させてもらったのさ、その帰りに君を見つけた」
‥‥‥勇者‥‥‥か‥‥‥頭の中で何か聞こえる……笑い声……それに何だこの感情は……悲しみ? 憎しみ?違う……絶望だ……頭を抱え苦しそうにしている俺を見て、
「何か思い出したのかな?」
「嫌、分からない……俺自身がそれを望んでいないようだ。思い出せそうになると霞がかかった様になる」
「そうか、ここに居ても構わないのだよ。私の弟子はもうここを旅立って行ったからね、今は1人だ」
「ローズ」
「ん? 何だね」
「寂しくはないのか」
「今は君が居る、寂しくないよ」
「……俺は……」
「いいよ、ここを出たいと思うまで居てくれ。止めないし、ここに縛るつもりもない。好きにしなさい」
そう言って変わらない笑顔を俺に向けてくれる。