記憶を亡くした勇者
ドサッと地面に倒れて誰かにボコボコに蹴られている、あちこち痛い……何故こうなった……
俺は何者なんだ……
「ふん! いいざまだ、これまでお前には散々こき使われてきたんだ」
と言いながら俺の腹を蹴る。ゴボッと口から何かが出る……むせる俺は蹴った男を見る。
「あらやだ、まだ、意識があるなんて何てしぶといんでしょう、な~にその顔、嫌らしい……」
胸元の開いた戦闘服を纏った女性がこっちを見る。
「頑丈さは相変わらずだな、これ位では、何とも無いってか!」
と、今度は両腕を切り落とす、
「うわー!!」
余りに痛さに声を上げる、
「ああ? まだたりねえよ!」
と、今度は両足を切り落とす。流石に俺は意識が遠くなる……遠くなって行く中笑い声だけが頭の中で木霊する……
「これで、お前も終わりだな、心配するな魔王の首は俺達が持って行ってやる」
もうこれで終わりなのか……もう目も開けらていられない……ドクドクと血が流れている出血も酷い……
「さあ行こうぜ、俺達は魔王を倒した英雄だ!」
足音が去っていく……魔王? 英雄? ……なんの事を言っている……
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ぱちぱちと木がはぜる音がする、
「気が付いた?」
「喉も潰されているから声は出せないよ、目も暫くは見えないだろう……よく生きていたよね」
立ち上がろうとしても起き上がれない……そうか……あの時……腕も足もないのだっけ……不思議と痛みはあるのだな、無くなっても……
「今は傷を治して、それまでここで私が君の看病をする」
「何故そんな事をするのかって言いたそうだな」
「目の前に倒れている人が居た、息があったので連れてきた……それだけだよ」
「手足は近くにあったから繋いであるがまだ動かせないよ、傷が開く」
……そうか…‥手足は繋がっているんだ……嬉しい、見ず知らずの俺を手当てしてくれたのか……
「何か食べた方がいい、その方が傷の治りも早いからな、口を開けて」
そう言われて口を開ける、甘い……果物のようだ、
「内臓も随分痛めているようだから、軟かい物しか暫くは食べられないよ」
その言葉に頷く。
「耳は良くなったんだね、聞こえる?」
頷いて答える、
「そう、良かった。もう少し良くなったら話そう、もう暫く寝るといい」
その言葉の後意識がストンと落ちた。
俺は夢を見ていた。戦っている……誰だ……何と戦っている……
どれだけ眠っていたのか、どれ位ここにいるのか分からない……暗闇の中にずっと居た。