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月桃館503号室の男2 ~密林に消えた貴公子~  作者: 山極 由磨
第五章 死闘
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9

なれよ、散々にやられたな」


 クッラを下げたまま周囲を視線を飛ばしつつシスル。


「ああ、お前さんが来なきゃ、今頃俺の男前は台無しになってたぜ」

「男前とは、自分で言う言葉じゃないと本で読んだぞ」


 要らんことばっかり覚えやがって。何か言い返そうと思ったがしんどいので止めて。


「勝負がついたみてぇだな、近くで教授がヤバイい具合に成ってる。急いで回収して病院に入れないとマズイ」


 虫の息のチョル教授を見つけ、出血に構わず背負って塹壕の中を走って川岸を目指す。

 生きてる索敵隊員の姿は無いが、白鷺十五号が機関銃を撃ち続けている様子からまだ陣地のどこかに残存兵力が有ることが解る。

 塹壕を飛び出すとすでに川岸にはウルグゥ戦士。ざっと数えたが百人ほどに成っていた。損耗率三分の一。

 俺的には指揮官失格だ。

 白鷺十五号はまだ川の中ほどに居て、小舟を出して戦士たちを回収していた。機関銃の射撃は陣地から小舟を狙う狙撃を防ぐための牽制だろう。

 俺たちの姿を認めたバオボォウとドゥジュゥは砂を蹴立てて駆け寄り俺の背中に居る教授を心配そうにぞの着込む。


「まだ生きてるが正直危ない。はやく叢林の病院に入れないと手遅れになる」


 俺の背中から教授を受け取ったドゥジュゥはものすごい勢いで掛けてゆき、岸に上がった小舟に彼を載せる。

 何とか付いて行き、小舟に乗っていた衛生兵に教授の容態と手当の状況を伝える。一応、輸血の機材は持ってきているとの事で何とか命は繋げそうだが・・・・・・。

 何回かの小舟を見送り、最後の便で俺とシスル、バオボォウも白鷺十五号に向かう。

 甲板の上は戦士たちで立錐の余地も無く、砲塔の上にも人が乗っている有様、よく転覆しないもんだ。

 何とか場所を開けてもらい乗り込むと発動機が始動したのか艇が震え始めた。

 俺は近くにいたバオボォウを捕まえ頭を下げ。


「済まない、結局北方人種の都合にアンタらを巻き込み、大事な男達を死なせてしまった」


 バオボォウは何も言わず、俺の肩を叩く。

 戦士の群れをかき分けかき分け、出発前で忙しいはずの艇長が俺の元に来て、ニッコリ笑いながら「ご苦労様でした」と紙片を一枚渡してまた戻ってゆく。

 見ると『仔馬は立った』の一文。


「女子供年寄りたちは全員無事に船に乗り込んだようだ。今頃ソガル島に到着してるだろう」


 その言葉にバオボォウは俺の肩に手を置いて。


「これこそが希望ですじゃ。戦士たちは希望をつなぐために戦った。無駄に死んだわけではありませんて」


 これが俺の賭けの正体だ。

 まず、裏切者のソノガミが居る前でバオボォウに亡命の計画を持ち掛け、奴に聞かせる。

 その後、奴の正体を暴きたてふん縛るのだが、ここであえて緩く縛り逃げられるようにする。逃げられると気づいたソノガミは、戒めと解き逃亡し自分の飼い主の元に戻る。

 そこで得意げに亡命のたくらみを飼い主に報告すれば、奴らは一番渡河しやすい場所に待ち伏せの陣を張るだろう。

 そこがねらい目だ。

 俺はウルグゥ族を精強な戦士たちのと、女子供年寄りの隊に分け、先発隊として足の遅い女子供年寄りの隊を出発させる。

 目的地は対岸との距離が離れたおよそ渡河には向かず、敵が網を張りそうにない場所で、あらかじめその地点をシスルを介して出迎え部隊に教えておく。

 その次に戦士隊を出発させ、まっすぐ奴らが手ぐすね引いて待ち構える場所に向かわせ、派手な立ち回りをやらせれば、明後日の場所で粛々と船に乗り込む女子供年寄り隊の存在は上手く隠ぺいできる。と言う訳だ。

 実に博打じみた作戦だ、いま俺の足元で艇の縁に座り両足をブラブラさせているこの子がしくじらないことが成功の大前提だった訳だ。

 バオボォウに詫びた後は、コイツに礼を言わなきゃならない。


「ホントよくやってくれた。今回のお前の働きは勲章もんだ」


 それに対しシスルは


「礼ならこの鏡をくれたおばあさんに言うほうが良いぞ」


 と、腰の袋から旅行用の折り畳み鏡を取り出した。

 純銀製で笹の文様が金象嵌されたあれ、そう、シスルが外務卿フルベ公爵夫人のユキエ様から拝領賜った品。


なれが行ってつなぎを付けろと言った駐屯所に行って、少将さんに連絡してもらったが中々話が進まなくてな、それであの鏡のおばあさんが『旅先で困ったことがあったら、この鏡を政府のお役人に見せて『十二公家が一家門、フルベ家の所縁の者です、今すぐお家に取り次いでください』と仰いなさい。そうすればあなたがどこに居ても、きっと助けてあげるわ』って言ってたのを思い出して、言われたままに言ってみたら、おばあさんと電話できて訳を話したら『それは大変!すぐに主人に動くよう言うわね』て、それでこうなった」


 俺が知らねぇ内に、とんでもないコネをこさえてやがったぜコイツ。

 あとで、少将閣下にどう説明したら良いやら・・・・・・。

 後始末の面倒事に一個ご新規が加わったことに頭を抱えていると、艇が動き出した。

 艇尾に白い波を蹴立てて対岸目指し川面を滑り出す。

 ふと首筋に鋭い視線を感じた。

 辺りを見ても俺を睨んでくる奴は居ない。

 まさかと思い、川岸を見ると探照灯に照らされた陣地の一隅に人影が見えた。

 遠目でもよくわかる見事な金髪に、血塗れの黒い野戦服の下から風に吹かれる度に覗く白く豊かな胸元。きりっとした面持ちの美しいご婦人だが、その青い瞳は俺を渾身の力を込めて睨んでいる。

 この目、この姿、あのポルト・ジ・ドナール空港で、俺目掛け銃弾を叩き折んできたあの女。

 俺は彼女から俺が見えなくなる前に、帽子を脱いで深々と頭を下げて見せた。

 すると、彼女は良く通る声の、実に流暢なまほらま語で叫んだ。


「少佐!オタケベ少佐!絶対に!絶対に貴方の事は忘れない!必ず!この屈辱を晴らす!」 

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