ルイ・アレクサンドリア【1】
ルイのお話
「ルイ殿下。ルーナ嬢より、お手紙が届いておりますよ。」
夕刻、友人たちを見送り部屋に一人になった後、今夜は父上と母上と3人で晩餐をいただくことになっていた為、僕は遊び用に着ていたラフな服装から、整った服装に着替えさせられていた。
すると一人のフットマンが僕の執事に手紙のようなものを渡し、内容を伝達してくれる。
「明日の登城は午前は夫人とともに騎士団へ伺われるそうなので、午後からとなるというような内容のものでございます。
お会いするのが楽しみです、とのお言葉が最後に添えられております。」
「そうですか・・・ありがとうございます。
僕のテーブルの上に置いておいてください。」
「承知いたしました。」
僕の執事、アンサーはそう行って僕の机にそっとルーナから届いたという手紙をおいてくれた。
「アンサー、このシャツ少し首元が苦しい・・・」
「承知いたしました。ただいま別のものをご用意いたしますのでこちらに脱いでお待ちください。
最近のルイ殿下は運動もされてご飯もよく召し上がられますのできっと身体の成長がお早いのでしょう。
明日のお時間のある際にでも再び採寸をいたしましょう。」
そう言ってアンサーは同じ部屋の中のクローゼットへメイドとともに向かう。
僕は苦しいシャツのボタンを外しながら、机に置かれた手紙を見た。
ルーナらしい、薄紫のベルフラワーの写し絵が描かれている便箋だ。
綺麗な字で、明日の予定について記されている。
持ち上げてみるとふんわりと、いつもルーナからする花の香りがして、彼女のことを思い出してしまう。
ルーナは初めて会った時から、コロコロと表情を変える面白いご令嬢だ。
初対面の時は緊張の中に、好奇心も見え隠れしていて笑ったり、固まったり、驚いたり。
一目で目を奪われたのは彼女が初めてだった。
それから一緒に過ごしていくうちに、初対面の印象のまま好奇心が旺盛な、ご令嬢にしておくには勿体無いほどに活気のある元気の有り余った女の子だということがわかった。
女の子なのに一緒に走って競争したり、木登りをしたのはきっとルーナが最初で最後だろう。
そう思うと少し笑えてくる。
それに比べて、一緒にやってきたアリアは大人しく、可愛らしい印象だ。
男としては守ってあげたくなるような・・・アンサー曰く庇護欲をそそられるようなご令嬢だ。
実際ユーリのあの嫌いなものを食べてあげるは無意識下のそれに当たるのだろう。
だが実際に話をしてみると、見た目以上に頭の回る切れ者だ。
ついでにあれは魔力が非常に強い。初めて会った時にまだまだ未熟な僕の直感で感じ取れたほどだ。
そしてなんとなく、彼女には近いうちに知力の能力が目覚めるような気がする。勘のようなものだが・・・。
そうなったら敵には絶対回したくないタイプになるな。
思わずフッと笑いが込み上げてきてしまう。
「殿下、その手紙に何か?」
新しくシャツを持ってきたアンサーは手紙を見ていた僕を見て、不思議そうに問いかける。
「いえ、ルーナやアリアのことを考えていただけです。」
「そうでございましたか。殿下はどちらかをご婚約者にされるのですか?」
「はぁ!?何言ってるんだ!?」
突然のアンサーの問いかけに僕はついつい自を出してしまう。
家族以外の前でたとえ家臣たちであれ敬語を使うように務めている。
その様子を見てクスクスとアンサーは笑う。
柔らかそうな黒髪が揺れ、漆黒の瞳が細められる。
「冗談ですよ。まさか何かお考えがおありでしたか?」
ないです!とアンサーから目をそらして言い、彼の手に会った先ほどとはちがった紺のブラウスを彼から奪う。
未来の国王たるもの、自分の身の回りのことぐらいは自分でやれ、というお父上の方針で4歳を迎えた僕は着替えや湯浴みなど全て自分で行うようにしている。
「余計なことは考えないでください。言わないでください。
明日2人に会う時に緊張してしまいます。」
僕の言葉にアンサーは笑って失礼いたしました反省する様子もなく言う。
実際、お父上からそのような話は出てはいる。が、もし婚約者に迎えるのであればルーナであると考えている。
理由としては簡単だ。お父上とセブンスフィール公爵が仲が良すぎるからだ。
お父上とセブンスフィール公爵は今の僕とユーリのような間柄で育った幼馴染だそうだ。
それ故に、お父上自身ももしもアリアと婚約するようなことになればなんだか変な気持ちになるからあんまりオススメはしたくない、と未来の王政に関わることであるのに私情丸出しの意見を述べていた。
とはいえ、本当にアリアに恋慕を抱いた場合は別だぞ、と言ってはいたが。
できれば僕は、婚約者だなんだと、父上や母上が用意してくる前に、自分の目でふさわしい人物をそばに置きたいと考えている。
これは僕に王政教育をしてくれている古株の爺の影響だ。
実際に自分の目で娶った妃と、両親に充てがわれた婚約者と政略結婚した妃とでは王政の良し悪しも180度ほど変わると言う。
現に僕のお父上は母上に一目惚れして、猛アタックの末ゲットしたのだと言っていた。
仲睦まじい僕の両親は僕の憧れの二人だ。二人のように僕もなりたいと思う。
「いつか、殿下の隣にふさわしいご令嬢が現れるといいですね。」
そんな僕の気持ちを知ってかしらずか、アンサーはそう言って僕の着終わった服の乱れを直していく。
「そうですね。」
僕は机の上にルーナからの手紙を綺麗に置き直す。
「では殿下。晩餐のお時間でございます。参りましょう。」
今は愛だの恋だのそんなことはどうでもいい。
4人でいるのが楽しいからだ。
今はこの時間を大切にしたい。
4人は一生の友人だ。