Act3.出会い2
厳かに、静かに佇んでいた重そうな扉は、
音もなくゆっくりと開かれたのです。
一瞬、私の視界は白に染まり、眩しくて目を細めました。
まだ視界が白んでいるうちに、部屋の奥から少しうわずった、男の子の声が聞こえました。
「ようこそ。アレクサンドリア城へ。」
ようやく視界がクリアになって前が見えるようになったので、私は周りを見渡しました。
「きれい・・・」
隣に立つアリア様から、ため息交じりの感嘆のつぶやきが小さく聞こえました。
私たち3人は立ち尽くしていました。
そこは、初めて見る広さの大きな大きな広間。
天井にはキラキラと星空のように煌めくたくさんのシャンデリアが並んでおり、
この部屋に入る前と比べて部屋全体がとても明るく照らされています。
床は天井から放たれるシャンデリアの光を写すほど曇りのない、ガラスのような石でできており、
私たちの足元からまっすぐに、青い絨毯がひかれていました。
私はその青い絨毯の先を目で追い、その終着点を見ました。
「おうじ・・・さま・・・?」
先が遠く、まだ光に埋もれてその正体がはっきりと見えたわけではありませんが、
そこにいたのは、同じ年頃の子供のはずなのに、何かが私たちとは違う、
私でも一瞬で”特別”な存在だとわかってしまうほどの存在であることを私は一瞬で理解しました。
固まっていた私たちでしたが、一番早く我に返ったのはやはりこの中で唯一の男の子であるユーリ様でした。
ユーリ様が深く頭を下げ、最上のお辞儀をいたしました。
それをみて我に返ったアリア様と私も続いて、ドレスのスカートの裾をつまみ、深く頭を下げました。
頭を下げた時に見えましたが、お母様方は自然に深く頭を下げ、私たちも礼をするのを待ってくださっていたようです。
「面をあげてください。」
凛と、透き通った声が部屋を駆け抜けて私たちに届きました。
後ろにいるお母様方の衣擦れの音が聞こえたのを合図に、私も顔をあげました。
「どうぞ、中へお入りください。」
そして、その声に促されるまま、ゆっくりと私たちは部屋の内部へと足を進めました。
日々磨き上げられているだろうその床は、対して高いヒールの靴を履いているわけでもないのに、
コツコツと靴音をも反射させます。
みんなが無言で進んでいることもあって、私のドキドキと鳴る心臓の音が隣にいるアリア様たちにも聞こえてしまっているのではないかと心配になります。
そして歩みを進めるうちに、まるでその方が纏っていたかのような逆光の光が晴れていき、私はそのお姿に目を奪われました。
背もたれの高い大きな椅子に、不釣り合いな小さなその体をちょこんと座り預ける、この方がどなたであるのか、説明されずとも理解ができます。
今日、私たちをここに招いた張本人、この国の王太子。
「ユーリ・ドロワ様。アリア・セブンスフィール様。ルーナ・クレセントリア様。
本日は私の招待に応じてくださりありがとうございます。
手紙の差出人、この国の第一王子、ルイ・アレクサンドリア=17世でございます。」
交じり気の無い絹のような金の髪に、言葉では表すことのできないような澄んだ青の瞳。
その瞳はこの部屋のシャンデリアの光を幾十にも取り込み、虹色に光放っているようにも見えます。
少し目尻が釣っていらっしゃるので、その瞳だけで人を支配してしまうような、虜にされてしまいそうな印象です。
赤と白を基調としたシワひとつない燕尾服を不自然なく着こなしていて、誰もが頷くような、
それはそれは完璧な王子様が目の前にいました。
「お招きいただきまして光栄です。
ドロワ公爵家次男のユーリ・ドロワと申します。」
「王太子様、お会いできて光栄でございます。
セブンスフィール公爵家長女のアリア・セブンスフィールでございます。」
お二人が次々とご挨拶を済ませ、いよいよ私もご挨拶をする番です。
「本日は、このようにお招きくださいましてありがとうございます。
クレセントリア公爵家、長女のルーナ・クレセントリアと申します。
どうぞよろしくお願いいたします。」
私たちからの自己紹介を経て、王子様は微笑みを深くされました。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
今日御三方をお呼び立てしたのは、僕からちょっとしたお願いがあるからです。」
早速本題に入る王子様に少し体がこわばりました。
王子様からのお願い事ですか。何でしょうか。
それは私を含めた3人はもちろんのこと、後ろに控えるお母様方も同様のようでございました。
そして私たちの緊張虚しく、王子様は深く息を吸ってその先を告げられました。
「僕と友達になってください。」