Act13.再開と不穏
ガラガラと走る馬車に揺られ、私は久しぶりに王城の門を潜りました。
「毎日通っていましたから、なんだかすごく久しぶりに感じます!」
はしゃいで一緒に馬車に乗っているジゼルにいうと、ジゼルもそうですね、と返してくれます。
「ルイ様の容体がよくなっているといいのですが・・・」
「そういえば、余談かもしれませんが本日は国王様も王妃様も地方へご訪問でいらっしゃらないそうですよ。」
「そうなのですか・・・シャーレ王妃様にはお会いできるかなと思っていたのでちょっと残念ですね。」
久しぶりにルイ殿下に会うということで、気合の入ったメイドたちに今日は一段と可愛く仕上げられました。
左右にお団子にした髪型は可愛くてちょっとお気に入りです。
お見舞いの品として、今回は私の好きなお花、ベルフラワーと色々な種類のフルーツを持ってきました。
シェフに聞いた、体にいいフルーツは全部詰め込んだのです!!
少しでもお身体が楽になってくれればいいのですが。
見慣れた塔の前に馬車が到着すると、そこにはすでにユーリ様とアリアが到着して私を待ってくれていました。
馬車の扉が開けられると、そこにはいつものようにユーリ様がいて、今日はおしゃれして来たの?と話しかけながら今日もエスコートして馬車から降ろしてくださいます。
そして今日は絶対に呪いを解いてやるんだからと息巻いているアリアがちょっと面白くて、ふふっと笑いが溢れて今います。
3人仲良く並んで、案内の騎士の方について行くと、いつもにもまして厳重に警備されているルイ様のお部屋の前に到着しました。
そして、中からルイ様の執事アンサーさんがやってきて、いつもと同じ笑顔で私たちを部屋の中へ招き入れてくれました。
先日来た時の様に、いつも遊んでいる部屋を通り奥にある寝室の扉を開くと、ちょっと甘い匂いの漂った空間が広がっていました。
相変わらず、ルイ様のベッドの天蓋のカーテンは閉じたままです。
カーテンの外からアンサーさんが中のルイ様に声をかけ、ルイ様はカーテンを開けてくださいます。
そして、久しぶりだね、と言って顔を出してくれました。
3人でルイ様の元へ駆け寄ります。
この間お会いした時よりもさらに痩せ細っていて、笑顔でいらっしゃるのも少々辛そうです。
いつものように3人で話を始めたところで、アリアが侍女のシシーに合図をして大人連中には寝室から立ち去っていただきました。
去り際に、アンサーさんがニッコリと笑顔で言いました。
「どうぞ、心いくまでごゆっくりなさってください。」
いつも言ってくれるお言葉ですが、私はその言葉と笑顔になんだか背中が冷えるような感覚がしました。気のせいでしょうけど。
大人たちがいなくなったところで私たちは、考えていたことや今日はルイ様を助けたいということをルイ様に細かく説明しました。
嬉しいよ、とルイ様は弱々しく言ってくださいました。
大人たちが入れ替わり立ち替わりきて、この熱の原因はなんなのか、最近の行動の事情聴取などがひっきりなしで、疲れていたのだという。
おまけになぜか、私たちが絶えず出していたという手紙もルイ様の手元には届いておらず、面会にも中々来れなかったためとても寂しい思いをしていたという話もしてくれた。
「ルイ様、ごめんなさい・・・私、もっと会いにくればよかったですわ・・・」
「僕も・・・」
「私もです・・・それに、お手紙を出していたのルイ様からお返事が届かないなんておかしいと思っていたのですが、まさか届いていなかったのですね・・・。」
4人して、どうしてだろう?と不思議に思いました。
もしかしたら、こんな情勢なので守衛さんの方で私たちの手紙はストップしていたのかもと伝えると、それはないのだとルイ様は否定しました。
「それ以外のくだらない大人たちからの手紙や見舞いの品は届いているんだよ」
「なんてこと!それじゃあ私たちからの手紙だけが届いていないということでございますわね・・・」
「そんなことする必要あるかな・・・?」
私たちと、ルイ殿下を合わせたくないと思っている人がいたのでしょうか。
ですが考えても分からないことは分かりません。
蟠りも溶けたことですし、私たちは早速ルイ殿下の呪いを解く方法を探し始めることにしました。
ベッドから出て、窓から外を眺めてみたり、1人ずつ手を繋いでみたり全員で手を繋いでみたり、スキップしてみたり、水を一気飲みしてみたり・・・
いつものように笑って、楽しい時間がただ過ぎて行きました。
でもどうしてでしょうか。少しルイ様のお顔色がよくなったようには見えますが、熱は下がらず、体調は優れないままのようでございました。
「色々試してみたけれど、まだ解けていないようだね・・・」
ユーリ様は真剣な表情で言いました。
その言葉に私はうつむき、アリアも着ているドレスをぎゅっと握りました。
試しに、アリアの魔法で光魔法を発動させ、ルイ殿下を回復してみたりもしましたが、効果は無し。
刻一刻と時は迫っています。陽は傾きかけてきました。
「どうしよう、時間が・・・」
「まだですわ!!まだいけますのよ!まだ試していないことはたくさんあります!続けますわよ!」
アリアは私たちに喝を入れるように、眉をひそめて言いました。
そうですね、諦めてはいけません!
ユーリ様も頷きます。
そのあとも、ユーリ様がルイ様をくすぐってみたり、ベッドの上でジャンプしてみたりと、色々試しました。
ですがーーーーー
「お嬢様方、お時間でございます。」
結局、ルイ様の呪いは解くことができず時間が来てしまいました。
申し訳なさが勝ってしまい、私もユーリ様も俯いてしまい、ルイ様の顔を見ることができませんでした。
しかし、アリアは違っていました。
「ルイ様、明日、また来ますわ!」
アリアは明るい声でスパンと言いました。
その言葉にユーリ様も私も顔をあげ、使用人たちは困惑した表情をしています。
殿下は体調が優れないというのに、また騒ぎに来るつもりか、と。
「お嬢様!何を言っていらっしゃるのですか・・・!」
場の雰囲気を読んでアリアの侍女シシーは止めに入ります。
「いいえ!明日もまた伺います!ね?ルーナ、ユーリ様!」
そして私たちの顔を見ます。アリアの顔は挑戦的に笑っていました。
あ、これはあれですね。アリアの負けず嫌いが発動してしまったやつですね。
アリアの気迫に押されたのか、ユーリ様も縦に首を振っていました。
私は心配になり、後ろにいたジゼルの顔色を伺いました。
「お嬢様の仰せのままに。」
ジゼルは顔色一つ変えず、堂々とそう言ってくれました。
「じゃあ、私も明日くる!!ルイ様は、迷惑ですか・・・?」
一応ルイ様も意見も聞いておかねばと思い、私はルイ様にも尋ねました。
もちろん答えは。
「そんなことないですよ!明日も楽しみに待っています!」
とびっきりの笑顔でそう答えてくれました。
でも、そこで黙っていない人が一人。
「お言葉ですがルイ殿下。遊んでいられるようなお体ではないはずです。」
ルイ殿下の執事アンサーさんだ。
普段冷静なアンサーさんからはあまり想像のできないように顔を歪めていらっしゃいます。
なんだか今日はいつもと雰囲気が違う様な気がします。いえ、外見などは何も変わっていないのですが。
「今日もたくさん騒ぎ遊ばれたようでございますね。
お身体の方はだいぶお疲れなのではないでしょうか?
あなた方も、療養中のルイ殿下を1日振り回した挙句、明日もまた来るとは、名門家の令息令嬢の行動としていかがなものかと思われます。」
アンサーさんの言葉に、ルイ様は眉を寄せました。
ルイ様だけでなく、私たちにもアンサーさんの矛先が向けられ、私たちは怯え、控えの使用人達の空気は張り詰めました。
「アンサーお前・・・どなた達に口聞いてるのか分かってんのか・・・・」
使用人達の中で最初に口を開いたのはユーリ様の執事、トーマスさんでした。
トーマスさんとアンサーさん、ジゼルは同じ学校の同級生(使用人の学校らしい?)で、面識があったと言います。
「えぇ。あなた方の躾のなっていないご子息方に。」
トーマスさんの怒りを向けられているにもかかわらず、アンサーさんはさらりと交わします。
しかもさらに怒らせるような言葉で。
「な、なんですかその言い方は・・・!!うちのアリアお嬢様はとっても頭のいい常識のあるお嬢様でいらっしゃいます!そのお言葉は撤回なさってください!!!」
その言葉に次に反応したのは、アリアの侍女シシーさんでした。
トーマスさんもシシーさんも、我慢ならないとばかりにアンサーさんにつっかかります。
そしてまさに張り詰めた空間が出来上がり、私は思わず息を潜めました。
そんな空気を一転させたのは、うちのジゼルでした。
「お辞めになってはいかがですか。主人達の目の前です。
それに、主人達も怯えているのがお分かりになりませんか。」
その言葉にトーマスさんもシシーさんもハッとして、警戒を解きます。
アンサーさんは変わらず涼しい顔のままです。
「ルイ殿下、私のような下級の民の発言をお許しいただけますでしょうか。」
そしてジゼルはベッドの上に座るルイ様に対してカーテシーをして、発言の許可を求めました。
ルイ様は許す、と短く返事をされ、ジゼルは言葉を続けます。
「お許しいただきまして感謝いたします。
殿下は、明日の訪問も楽しみにされると先ほどおっしゃいました。
それに恐れながら、先ほど主人達の会話の中で、殿下と我が主人様達の接触が絶たれていて不安だというお声を耳にいたしました。
そのような限界な状態でいらっしゃいますと、殿下の精神にも今後影響が出てきてしまい余計に体調に悪影響を及ぼしてしまうと思います。
よって、殿下が本当に、心から我が主人達との面会をお望みになるのであれば私は明日も主人達と共に参上致したく存じますが、いかがでございますでしょうか。」
ジゼルはいつものように冷静に、顔色一つ変えずルイ様に言いました。
「もちろん、僕は心から親友達に明日も会いたいと思っています。
なので明日の訪問も、是非お待ちしております。」
ジゼルの言葉に優しくルイ様は言葉を返します。
そしてルイ様の発言により私たちは明日の訪問も許されました。
アンサーさんの顔は俯いていて、よく見えません。
「ルイ様!ありがとうございます!明日もお見舞いの品をお持ちして参りますわね!」
明日も呪いを解く方法を探せると顔に書いてあるようなアリアが喜び、ユーリ様も私もハイタッチをして喜び合います。
「じゃあルイ、また明日。しっかり寝てくれよな・・・」
明日の訪問もこじつけられたので、今日は解散!とばかりに私たしは部屋から退散し始めます。
ユーリ様はルイ様の寝台へ再び近づき、ルイ様と拳と拳を付き合わせて男の約束をしていました。
私も、しっかり休んでくださいね、と声をかけみんなと一緒に部屋を後にしました。