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私が選んだ婚約者  作者: 平彩まり
第1章−幼少期
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ユーリ・ドロワ【2】

ユーリ視点です。


「悔しい・・・悔しいよ・・・!

何の為に毎日訓練をしているのか、何の為に毎日勉強をしているのか、わからないよ!

ただルイ様を、友達を助けたいだけなのに、何にもできないなんて!

どうして私の力はこんなに弱いんだろう!!!」


ーーーーーーー


ルーナとアリアと3人でルイを助ける作戦を考えていた日。

最終的に僕たちでは何もすることができないという事実にたどり着いた僕たちに、ルーナは涙を溢した。


あれからというもの、ルーナのあの言葉が引っかかって僕の気持ちも晴れないでいた。


「ユーリ坊っちゃま、これから剣の訓練をされるのですか?」


何となくじっとしていられなくて、僕は毎日剣や武術の訓練に励んでいた。

今日も僕がクレセントリア公爵夫人に頂いた木の剣を持ち、庭横にある小さな訓練場所へ向かおうとしていたところ、執事のトーマスに声をかけられた。


「そうだよ。体を動かしたいんだ。」


僕は適当に答える。

トーマスのことだから、訓練に付き合いますよと言ってくれそうだけれど、僕は一人で何も考えずに剣を振りたいのだ。だからついて来られない方が今はいい。


「そうでしたか。ご一緒いたしましょうか?」


ほら、やっぱり。

きっと最近僕が何かに悩んでいることにトーマスは気づいている。

その原因が何なのかに気づいているかは分からないが、ちょっとやそっとの悩みではないということに気づいているようだ。


「いい。大丈夫だ。」


僕はトーマスの目を見ることなく言った。

横目に、トーマスが少し困ったように微笑んでいるのが見えた。


「では、お時間が経ちました頃合いに、お飲み物でもお持ちいたしますね。」


そして僕の返事を聞かずにその場を離れて行った。

誰もいなくなったのを確認してから、僕は剣を振り始めた。

幾日もこうして剣を振っているため、お父上に用意してもらった木の的も傷だらけのボロボロになってしまった。

最近は僕の熱意に負けたのか、お父上も僕が武力の力を伸ばしたいという気持ちに応えてくれるようになり、ルーナの母上であるクレセントリア公爵夫人の束ねる騎士団の訓練場にて、騎士達に訓練を施してもらうことが多くなった。

もちろん、知力の力を開花させるための努力も怠らない、という条件付きで。

ただどうしても僕には、机に座って文字を読んで様々な知識を頭に叩き込んだり、頭の柔軟さを鍛えるよりも、こうして剣を握って振ったり、武術の型を覚えたりする方が何倍も楽しく感じた。

でも、お父上の期待には応えたい。

僕の目標はここ数ヶ月で、武力もあって知力もあるユーリ・ドロワを目指すことになったようだ。

競う相手がいることも武力の力を得たいことの一つだけれど。


僕が勝手にライバル視しているのはもちろんクレセントリア公爵夫人の娘であるルーナだ。

僕よりうんと早くから訓練をはじめ、僕よりも華奢なその体からは想像もできないほどの体力や技術が見られる。

武力の力の恩恵が非常に強いのだろう。そもそも僕なんて相手にもならないかもしれないが、いつかルーナの上をいくことがもう一つの目標となっている。


そんなルーナが、あの日涙した。

何のために訓練を、勉強をしているのか、と。

大切な友人一人守れないで何が力なのか、と。


驚くほどにその言葉は僕の心の中にストンと入ってきた。

同じくアリアもそうだっただろう。


物心つく前から特殊な訓練を受け続けてきたが、それはいつになったら活かせるのだろうか。

もちろん僕たちには大人になってからの役割が生まれた時から決められている。

その時に力を発揮するためだと言われればそうかもしれない。

でも最近は、ルーナもアリアも僕も、この国の王子であるルイを守れるようにと訓練を積んでいた部分もあった。

だけどいざ局面に来たらそんなことできるはずもない。

守るなんて、夢のまた夢だ。


「親友なのに、何もできないなんて」


僕の口からは僕の意思とは関係なく言葉が漏れ出す。


「何だよ呪いの魔法って・・・!」


それとともに剣を振る腕にも力が入り、木の的を強く打つ。


「僕たちじゃ何もできないなんて」


木の剣を打ち付けた的の箇所の木が削れ、木屑が舞う。


「僕はそうしてこんなに弱いんだ!!」


カン!と乾いた大きな音が立つ。

精一杯の力を込めて的を打つと、木の的は嗤うかのように僕の剣を跳ね返しグリップを強く握っていた左手に強い衝撃が走る。


「っ!!」


あまりの痛みに僕は握力を失い剣が手から落ちる。

そして手から全身へと走った衝撃に耐えられず、僕は後ろに後ずさりしてそのまま倒れこもうとした。

その時だった。


「ユーリ坊っちゃまは、弱くなんてありませんよ。」


地面に当たる衝撃に体を固めていたが、その衝撃は来ず、ふわりと誰かに背中を支えられた。


「トーマス・・・」


倒れこみそうになった僕をトーマスが支えてくれたようだ。


「力み過ぎです。そんな訓練をしていては、早いうちに体を壊して2度と剣を振れない体になってしまいますよ。」


僕をそっと近くにあるベンチまで運んでくれ、優しく座らせてくれた。

ずっと僕のことを見ていてくれたのだろうか。


「そろそろお飲み物をとお持ちしてみれば、危なっかしいことをされているもんですから、僕もヒヤヒヤしちゃいましたよ!

あまり無理をなさらないでくださいね!」


プリプリといつものように僕に注意をしてくれる。

にこりと笑ったトーマスに合わせ、緑色の柔らかそうな髪が遊ぶ。

でも、それ以上は言わない。

最近僕が悩んでいることにも気づいているし、今のように何かに当たっている姿を目の当たりにしても、トーマスは何も言わない。聞いて来ない。


「聞かないのか・・・」


僕は何だか悔しくなって、トーマスに聞いた。


「何をです??」


するとトーマスは意地悪な表情に変わる。

僕の苦手な表情だ。


「いや、最近の僕の行動について・・・」


僕が小さな声で話しづらそうにいうとトーマスは意地悪な笑みを深め、聞いて欲しかったんですかぁ?とケラケラ笑った。

僕はそれに対して首を左右に振り、黙った。


「ユーリ坊っちゃま、何となく貴方様の考えていることが私はわかっております。

でも、それをわざわざ、実際どうなんですかぁ?なんて聞くような無粋なことはいたしませんよ。

もし坊っちゃまがお話してくださるのなら、僕は喜んで聞きますが!!」


場の状況が読めないのかと突っ込まれんばかりにトーマスは楽しそうに話す。

僕は真剣に悩んでいたというのに。


「人はですね、言葉にしない方が良いこともあるんです。

自分の中で育てていく大切な思いは、ずっと秘めていた方が良いこともあるんです。

言葉にすると良い!なんて場合もあったりしますが、強い思いこそ心に秘めて大切に育ててください。

それはいつか、坊っちゃまの強さに変わります。」


トーマスの言葉に僕は顔を上げ、目を見開く。


「今はまだ未熟で、何の力もないと思っているのでしょう?

当たり前ですよ。だって坊っちゃまはこんなに小ちゃいですから!

すぐに何でもこなせて、すぐに欲しいものが手に入る人なんていませんから。

今坊っちゃまが感じている、悔しさだったり怒りだったり、そういうものは必ずいつか貴方様を強くしてくれます。

焦らずに、今は耐えてください。泣きたい時は、私がそばにおりますから。」


いつもふざけたようなトーマスが、真面目に話をしてくれている。

きっとトーマスも、僕と同じような経験をしたことがあるのだろう。とても悔しくて辛い経験をしたことがあるのだろう。

だからこそ今のトーマスがいるんだ。


トーマスの話を聞いて、僕は気持ちが軽くなった気がした。


「トーマス、ありがとう。」


僕は立ち上がり、トーマスの持ってきてくれた水を一気に口に含んだ。

隣で、おぉ・・・と感嘆の声をトーマスが漏らす。


「トーマス、訓練に付き合ってくれないか」


僕がそう言って剣を再び手に持つと、トーマスはニコニコしながらもちろんですと言って僕の後ろについてくる。


「坊っちゃま、良い顔になりましたね。」


僕の後ろでトーマスが何か言ったが、よく聞き取れなかったが、すごく優しく微笑んでくれていたのできっと悪いことではないだろう。


「何か言ったか?」

「いえいえ!さぁ!もうひと頑張りしましょうね♪」


この気持ちを力に込めて、僕は必ず強くなる。

小さいながらに小さく拳を握る姿を見て、トーマスは僕の頭を優しく撫でてくれた。

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