Act7.日常2
「え、お熱・・・!大丈夫なのでしょうか・・・??」
今日も騎士団への訓練、その後の王城への登城準備をしていたところ、侍女のジゼルが王城からの書状を片手に部屋へやってきました。
書状の内容は、ルイ様がお熱をだされたという内容のものでした。
「夏風邪だというふうに記されておりますので、ご心配には及ばないかと思いますが。」
ジゼルは淡々と答えてくれます。
夏風邪ですか。苦しいですね。
私も去年夏に風邪をひいてしまい、恥ずかしいことに体調が悪いことに気づかず悪化させてしまって2週間寝込んだ記憶があります。
侮ってはいけません。ここはお見舞いに行って差し上げたいところです。
「そうですか・・・あまり酷くないようならお見舞いにお顔を出したいのですが・・・
どう思われるでしょう・・・?」
私のその言葉を聞き、容体と訪問について、ジゼルがルイ様の執事アンサーさんに聞いてくださることになりました。
返答が来るまでとりあえず騎士団の訓練場に出向き、訓練に集中しようと思います。
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騎士団訓練場にて。
月華騎士団のお姉様方に混ざり、剣の素振りを行なっていた時、ジゼルがやってきました。
「ルーナ様。ルイ殿下の執事アンサーより返答がございました。」
ジゼルの声かけに一度素振りを中断して、休憩がてらジゼルの話を聞くことにします。
「アンサーさんからはなんと?」
「はい。ルイ様の熱はまだ下がりきっておらず、安心とは言い難いようでございますが、ルイ様自身がルーナ様のお顔をみたいと仰っていたそうなので、差し支えないようであれば訪問をお待ちしておりますとのことです。」
お熱が下がりきっていないというのに、大丈夫なのでしょうか・・・。
私の顔をみたいというほどでございますし、きっとベッドに一人で寂しい思いをされているのでしょう。
「そうでしたか、ありがとうございます。」
「大概、お見舞いに行かれる際は何かお見舞いの品をお持ちするのがマナーとなっております。
本日の訓練が終了致しましたら一度屋敷へ戻りまして、お見舞い品を調達してから登城するのがいいかと思われますが、いかがなさいましょうか。」
ジゼルの提案に了承して、私は再び訓練へ戻ります。
ルイ様のことが心配ですが、今は剣技に集中です。
「おかえりルーナちゃん!なんか真剣そうにお話ししてたけど、何かあったの?」
騎士団のお姉様方が剣を振りながら話しかけてきてくれます。
「はい。ルイ・・・えっと、お友達が熱を夏風邪にかかってしまったそうで、
あまり容体がよくないのでお見舞いに行くことになったのです!」
「へえ、そうなんだね〜!お見舞いの品は何持って行くの?」
お姉様方は話しながらも体の軸は一切乱れません。
「それが、何を持って行ったらいいのかわからなくて・・・
何かおすすめなものなどはあるのでしょうか?」
「うーん。基本はフルーツとかお菓子とかを持って行くことが多いけど・・・
あ、ねえそのお友達って、女の子?」
お姉様方の声は楽しそうに答えてくれます。
「いえ、男の子です。」
「男の子!?へえ〜〜ルーナちゃんたらやるじゃない!!」
お姉様方、なんだか急に弾んだように声のトーンが高くなりました。
「男の子だったら・・・早く風邪が治るおまじないをしてあげるといいわよ♪」
「おまじない・・・・ですか・・・・」
お姉様方の一人がそういうと、その方がおまじないをどのようにするのか教えてくれました。
これは・・・!
ちょっと恥ずかしいですが、治りが早くなるおまじないなら、実践あるのみですね。
やってみましょう!!!
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無事に午前の訓練も終了。
屋敷にも寄ってお見舞い品を調達し、今はジゼルと一緒にルイ様の部屋の前です。
案内をしてくださった王城の使用人さんが、中にいるであろうアンサーさんにコンタクトをとってくださり、私とジゼルは部屋の中へ入りました。
何時もであれば、にこやかに迎えてくださるルイ様の姿はすぐには見当たらず、
中の扉からしか行くことのできない、ルイ様の寝室へと案内されました。
天蓋付きの大きなベットが目に入ってきました。
その天蓋はカーテンが閉ざされており、中の様子はここからでは伺うことはできませんでした。
「ルイ様は明るいと寝られない方なので、今はカーテンを閉めているんですよ。」
アンサーさんはそう言って私をルイ様のベッドの方へ案内してくださいました。
ジゼルは扉の横で待っていてくれるようです。
アンサーさんが天蓋のカーテンを少し開け、私がきたことをルイ様に伝えました。
「ルーナ様だけ、カーテンのへとのことですので、どうぞお入りください。」
アンサーさんは優しくそう言ってくださり、カーテンを少し開けてくださいました。
いつもと違う面会の仕方なのでちょっと緊張します。
先ほど家に寄って調達してきた果物と、我が家の庭師自慢の向日葵の花を握り、中へ入ります。
カーテンは閉ざされて、天蓋の中に、私とルイ様の二人になりました。
ベッドの上に苦しそうに寝転ぶルイ様。
いつもの元気なルイ様からは想像ができない姿に、私はどうしていいか分からずにキョロキョロとしてしまいます。
すると、そんな私に気づいたのか、隣に座って、とルイ様が声をかけてくださいました。
見ると、ベッドサイドには丸い椅子が置いてあります。
そこに腰掛けて、苦しそうなルイ様を見つめました。
「やだなぁ、そんなに見つめないでよ。」
すると、いつもの茶目っ気ある感じでルイ様は私に話しかけてくださいます。
辛そうで、いきも上がって、顔も赤いです。
「む、無理してお話しされなくても大丈夫ですよ・・・」
みている私の方が辛くなってきました・・・。
「いや、せっかくルーナがきてくれたんだから・・・
少しだけ話をしようよ。」
辛いであろうに、ルイ様は起き上がってそう言ってくださいました。
「ダメです!寝ていてください!寝ながらでもお話はできますから!」
そう言って私はルイ様の肩をグイと推し、再びベッドに寝かせます。
「おっと・・・さすがルーナ。鍛えているだけあって力が強いな・・・」
「それ、褒めてくださってます?」
「ふふ、褒めているよ。」
先ほどまで緊張していましたが、ようやくほぐれていつものような会話ができるようになってきました。
「ルイ様、私お見舞いの品を持ってきたんです!ルイ様のお好きなオレンジ!
それから、元気が出るようにうちに咲いていた向日葵のお花も持ってきたのです!
アンサーさんに渡しておきますので、後で召し上がってくださいね。」
そう言って手に持っていた鞄から向日葵とオレンジを取り出してルイ様にみせます。
「向日葵とオレンジか・・・ルーナらしいね。」
「私らしいですか?うちのシェフが、オレンジは風邪によく効くし、庭師が、向日葵はみているだけで元気がでる!って言っていたので・・・」
「ありがとう。」
そう言ってルイ様は、向日葵の花を手に取り、匂いを嗅がれています。
「うん・・・鼻が詰まっていて香りが分からないや・・・」
それは残念です。
「早く治るように、向日葵もサイドテーブルに飾ってもらうことにするよ。」
向日葵を持ちながらニッコリ笑ったルイ様。
お風邪を召されていてもなんとも絵になる神々しさです!!
それから少しの間、他愛もない話をしていましたが、アンサーさんから、そろそろお身体に障りますのでとお声がけがあり、お暇させていただくことになりました。
「ルイ様。お顔が見れて安心いたしました。
早く元気になってくださいね。」
私がそういうと、ちょっと寂しげにルイ様は、頑張ると言ってくださいました。
そして椅子からたちあがり、帰ろうとした時、私は思い出したのです。
『早く風邪を治すおまじない・・・それは・・・・』
騎士団のお姉様方から教えていただいたおまじないのことです。
「ルイ様、今日騎士団で風邪を早く治すおまじないを教えていただいたのです。」
天蓋内から出ようとしていたところを止めて私が再びルイ様の方へ振り返ったので、ルイ様は何事かと首を傾げました。
そして私は、お姉様方に教わったようにルイ様のベッドに近づき、汗ばんだルイ様の前髪の上からルイ様のおでこにキスを落としました。
「早く治りますように。」
そして手を振って今度こそ外へ出ます。
オレンジと向日葵をアンサーさんに手渡し、私とジゼルはお部屋を後にしました。
「ルイ様、大丈夫そうでしたか?」
ジゼルが心配そうに聞いてくれました。
「分かりませんが、いつものように楽しくお話をしました。
きっとご無理をされていたでしょうから、しっかりお休みになってほしいです。
あ、でも月華騎士団のお姉様方から教わったおまじないをしっかりをしてきたので、きっと早く治ると思います!」
「へえ・・・おまじないですか。どんなおまじないですか?」
「えっとねー・・・おでこにちゅってキスするの!」
私がそれを言った瞬間、いつも無表情なジゼルの表情が一瞬凍りついたように見えました。
でもすぐにいつもの無表情に戻ったみたいです。
「そうでございましたか。そうですか。
早く治られると良いですね。」
むしろジゼルは安堵の表情を浮かべているようです。
そんなに効果のあるおまじないなのでしょうか。
そして迎えの馬車に乗り込み、王城を後にしました。
「ルーナ様、一つ申し上げておきますが、そのおまじないはとても近しい仲の方にしか効果がないものでございます。
どこ誰とも分からない者に軽々しくしてはなりませんよ。」
車内では謎の注意を受けました。
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ルーナ嬢が去った後。
私は換気の為にも天蓋のカーテンを1度全て開けました。
そこには、おでこを押さえたまま真っ赤になっている我が主が。
これは・・・何かあったな・・・。
小さき主人たちの今後がより一層楽しみになってきましたね。