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邂逅

「堂本、沙耶香!あのときのことを覚えてるな・・・・。」

佐山はもの悲しげな表情になり、語り始めた。


「オレは確かにお前のカウンターを喰らって負けた。完敗だった・・・・。成績もお前には届かなかった。だがこれについてオレは納得していた・・・・。」

頭を吹っ飛ばされた舵取りが握っていた、シルバーの拳銃をおもむろに拾い上げてしげしげと眺めながら続けた・・・・。


「オレは負けたことには納得していたんだ・・・。ただ堂本!お前のやり方だけは絶対にゆるせんぞ!沙耶香あっ、お前もだ!」

佐山はいぶし銀に光る拳銃の安全装置を外すと、沙耶香の足元に向けて思わず一発ぶっ放した。

FRPの船体に穴が開き、海水が湧き出た。

「遠慮なく悲鳴を上げていいんだぜ。そのほうが盛り上がるってもんだ」

せせり笑いながら拳銃をもて遊んでいる。


「おっと、まずいね〜。熱くなりすぎて簡単に殺っちまうところだったぜ・・・・。オレもまだまだ甘いなあ〜フフフッ。」

船底のキャビンからはゾンビのようなうめき声が聞こえてくる。

中年理科教師の新田がうめいているのであろう。


「堂本君・・・・、さすがにあれはなかったぜ・・・。あれはお前のカウンターどころの効き目では済まなかったよ。わかってるのかい!ええっ!!」

佐山ははぐきをむき出しにして吠えた。

こめかみの青筋が膨張率100%を超え、全身の筋肉が小刻みに痙攣をしている。

「お前は自分のしたことがわかっているのかあっ!人道的にも絶対にゆるせん・・・・。」

見知らぬ異国人の頭を吹っ飛ばした非人間が、その道を説いている・・・・。

もはや正気の沙汰ではないようだ。


佐山は沙耶香と付き合っているものとすっかり考えていた。

しかし彼女の考えはまったく違った

気を持たせるようなコトバや態度でヘビー級チャンピオンを翻弄していただけであった。

「何でも強い猛くんのことが気になるの・・・・」


佐山は学業成績も学内ナンバーワン、ボクシングでは全国ナンバーワンだが、容姿の悪さでもナンバーワンという台詞が学内での陰口であった。

藤山沙耶香はいわゆる性悪な女であった。

そんな佐山を自分の番犬的な存在にして愉しみ、快楽に浸っていた。

そういう「性」なのだからどうしようもない・・・・。


プライドもいたずらに高かったので、佐山二人だけでいる姿を第三者に見られる、ということに対してはかなりの警戒心を働かせていた。

またあまり調子に乗られて引っ付かれるのもかなわない・・・・・、と考えていた。

そういった沙耶香の姿を「恥ずかしがっている、照れているのだ」と勘違いしていたのだから、これまたおめでたいとしか言いようが無い。

こと男と女の関係ということに対しては、きっと学内でも後ろから数えてナンバーワンであったのかもしれない。


惨敗を喫した佐山の心のよりどころは「沙耶香」だけであった。

学業、ボクシングにおけるチャンピオンから引きずり降ろされ、プライドにまでツバされた彼に残された救いの光は彼女の存在であった。


顔面が腫れ上がり、フランケンシュタインのようになった佐山は、沙耶香のコトバどおりの6時半にシャワールームの扉を開けた。

沙耶香が励まし、少しでも慰めの言葉を掛けてくれたらまた頑張れる、復活できる、そんな気がしていた。

だが扉を開けて、眼前の光景に愕然とした・・・・。


堂本亮一と藤川沙耶香が抱擁していたのだ!

しかもショートパンツの沙耶香は上半身裸で、自分から堂本の胸板にしがみついていたのだ。

白いきめ細かな背中には、かわいらしい肩甲骨が浮き出て、それを隠すかのように黒髪が掛かっていた。

床には彼女の白いTシャツとブラジャーが脱ぎ捨ててあった・・・・。


「ぬうおおっ!・・・・・」

雄たけびとも叫び声ともわからぬ声を肺腑から絞り出し、佐山は頭を掻きむしるようにして、走り去った。

この日この時から佐山猛は、私立誠心学園高校から姿を消したのであった・・・・。


「くっくっく・・・・」

右手に白銀の拳銃をぶら下げながら、自嘲気味の笑いを浮かべていた。

「あれだけ惨めにコケにされたことは、一生涯なかったぜ・・・・。確かにこんな顔と体のオレだ・・・・。小さい頃から女にはいいことなど何一つ言われたことなどなかったよ・・・・。」

突然両眼を飛び出すほど向きだしにして、「だからオレは努力したんだ!」と沙耶香に向かって罵声を発した。


「オレは小学校まで惨めだった・・・・。自信のかけらもない不細工な少年だった・・・・。」

佐山は昔話を始めた。

「まずい展開になってきた・・・・」堂本は感じた。

この話の終焉が何を意味するか・・・・、だが佐山の右手に握られている白銀の凶器のために手の施しようがなかった。

熱帯の炎天下にも関わらず、冷たく気持ちの悪い汗が両脇を湿らせていた・・・・。


「だがオレは親の勧めもあり、勉強してみると以外に出来る自分を発見した。そして名門の誠心学園中等部に合格した・・・・。」

佐山はシガーを胸ポケットから取り出すときに、拳銃を舵の前に置いた。

堂本は眼の端でそれを捕らえていた。

彼と拳銃までの距離は約3m・・・・。

深々と吸い込んで吐き出した煙の匂いが大麻であることを教えた。


「オレは強くなろう!と決心した・・・・。そして名門のボクシング部に入部した。徳富監督の指導をすべて受け入れ狂ったように練習もした・・・・。勉強も受験勉強以上に取り組んだ。がむしゃらに本も読み漁った。その結果わかったことが・・・・」

言いかけた佐山目がけて、堂本は捨て身のタックルを仕掛けた!


佐山は両足を救われ、背中から船底に叩きつけられた。

ここぞとばかりに舵の前にある拳銃を奪取しようとしたが、素早い反応の佐山に後ろから羽交い絞めにされた。

「うぐぐぐううっ・・・・」

丸太のような腕により裸締め(スリーパーホールド)に掛けられ、堂本はよだれを流し気を失いかけた・・・・。


手を緩めると、ケツを蹴飛ばされた堂本は座り込んでいる沙耶香に突っ込んだ。

真っ青に血の気を失った顔を見て、沙耶香は悲鳴をあげた。

「まだ話はおわってない!」

佐山は呼吸一つ乱さずに二人を睨みつけると、話の続きを始めた・・・・。


「じたばたしないことだ、堂本君。みっともない・・・・、君らしくも無いね、フフッ・・・・。」

あれから何年が経過したのであろうか、彼は確実にパワーアップしていた。

「・・・・その結果気づいたことは人間という生き物についてだ。我々はなぜ生きているのだろう?国語教師の君にぜひ聞いてみたいものだ。答えてくれるよね・・・・。」

意識が朦朧とし、灼熱の日差しのせいもあるのだろう、佐山の姿が混ぜた絵の具のようにゆがんだ。


「これは申し訳ない、死にかけの君たちには酷な質問だったよね、アハハハ!」

さも愉快そうに高笑いをした。

「簡単なことさ・・・・、自分の子孫を残す、つまり人間という生物繁栄のためだよ。何だかんだ言っても詰まるところはそこに行き着くんだよ。総理大臣結構、野球選手、ヤクザ、なんでも結構だ!国語教師の君などは本当に素晴らしい・・・・、簡単に殺してしまっては人間界繁栄のためにならないよね・・・・。」



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