拳闘
佐山は突然くるりと踵を返すと、雇った舵取りに向けて躊躇なく発砲した。
電子レンジのなかのものが鈍くは裂するような音がしたのと同時に、頭部が吹き飛んだ。
頭部のない体が、両腕だけはいまだにしっかりと舵を握っていた。
「みるな!」
堂本はうづくまっている藤川に向かって怒声を投げかけた。
同時に頸部の気管が丸見えになったのを見て、膝まづき胃がひっくり返るほど吐き続けた。
自分の吐出物を見つめながら、佐山猛との高校時代を思い出した・・・・。
堂本亮一がボクシング部の扉を叩いたのは、校庭の銀杏が黄色く色づき始めた頃であった。
誠心学園はお坊ちゃん、お嬢ちゃん学校として知られているが、このボクシング部だけは別扱いであった。
学校をあげてボクシングを奨励しており、校長と亮一の父はボクシングを通して親交があった。監督やコーチも、かつてのプロや名だたる戦績のものを集めていた。インターハイや全国大会では上位入賞の常連校であった。
そのボクシング部を率いる主将が佐山猛であった。
サンドバックに左右の強烈な腰の入ったボディーブローを食い込ませている。
おかげでサンドバックは腰がくびれた女のようになっていた。
一心不乱に連打するその後姿は、ジャングルの王者、マウンテンゴリラそのものだ。
「あれがうちのホープ、佐山だ。」
監督の徳富は誇らしげにほくそ笑み指をさした。
「君も話ではできるらしいじゃないか。どうだい佐山とスパーリングでも?」
口元は笑ってはいたが、監督の眼底には意地の悪い目論見が見え隠れしていた。
その話を聞いた佐山は、さらにも増して激しくボディーブローを繰り出した。
燃えている。
佐山はインターハイなどでは得ることのできない、自分でも理解不能な興奮を抑えることができなくなっていた。
気化したアドレナリンが洞穴のような鼻孔から噴出していた。
ジム内の異変を察知した部員の注目が二人に集まった。