復讐鬼
沙耶香は無我夢中で身だしなみを取り繕うと、その場にしゃがんだきり固まっていた・・・・。
「だ、大丈夫か・・・・・?」
「・・・・・・・。」
新田は完全に気絶している。
「うううう・・・・」
泣き崩れるようにして左足にしがみついてきた沙耶香を、佐山はやさしく抱きかかえると、バッグからタオルを出して手足やセーラー服の汚れを拭き取った。
「黙っているから、忘れよう・・・・・」
沙耶香は涙を床に落としながら、静かに1回うなずいた・・・・。
がに股歩きの被害者を自転車に乗せて、金星が輝き始めている夕暮れの帰路を急いだ。
新田は自宅の屋根から落ちて大ケガをして入院した、ということになった。
「当然の報いだ、新田・・・・。」
スコールが収まり、薄日が差してきた。
手錠で後ろ手に括りつけられている堂本は、ただ見ているだけであった。
胸くその悪い光景だ、とヘドの出る思いであった。
「た、助けて!」
救いを求めた沙耶香は、迷彩服にガンを握った佐山に駆け寄った。
そしてその胸元にすがりつくようにして飛び込んだ。
だが次の瞬間その救済懇願も空しく、大男の右張り手の一撃を喰らい、堂本の目前に仰向けにしてぶっ倒された・・・・。
か弱いカモシカは力を失い、倒れたまま身じろぎひとつしない・・・・。
「調子に乗るんじゃねえ!沙耶香!」
くわっと目をむき出しにして吼えた。
「もうお前の常套手段は通用しねえんだよ!いつもいつもなめやがって・・・・・。オレがいつまでも同じ手でやられるとでも思っていやがるのか!!」
倒れた女の太ももを見ながら、再び大麻タバコをくわえて熱心に吸引をはじめた。
その長さが残り1/3程になったとき、佐山がこれから始まる復讐劇のあらすじをゆっくりと二人に向かって語り始めた。
頭上には再び灼熱の太陽が姿を現し、無人島沖に停泊する船中の三人を焦がすように照らし始めた・・・・。
「オレはこの島で沙耶香とともに永住する予定だ。そしてもちろんオレの子孫も残す。変態の新田は死んだ・・・・。要するに子孫を残す資格を失った、ということだ。雌カマキリに喰われたのだから仕方ないだろう・・・・。ただ残る障害は堂本亮一、君という存在だけなのだよ。藤川沙耶香はもうオレの手中に陥落した。後はオレとこの島に同居させることにより、完全に屈服させた後でオレは種付けにとりかかる予定だ。ただ・・・・、君とははっきり白黒を付けさせてもらうつもりだ!その結果を我々三人がまぎれも無く認識し、そして堂本亮一がこの世から消えたときに、初めてオレと沙耶香二人だけの世界がこの灼熱の無人島に完成するのだ!そうしていくつもの艱難辛苦を乗り越えてきたオレの鍛え上げられたDNAが、完全屈服した沙耶香の体内に根付き新たな進化形としてのオレが誕生するのだ。そしてこれをもってオレの復讐劇が終焉となるのだ!!」
顔中に珠のような汗を噴出しながら、ひとしきり演説し終えると恍惚とした表情で沙耶香との永住の地となる灼熱の無人島を眺めていた・・・・。
「だから堂本君!君を正々堂々と倒してオレのDNAに最後の力強い息吹を吹き込むためにもこれからオレと戦ってもらう必要があるのだ!」
つづく・・・・