繁殖
「オレとその女は無関係だ・・・・、勝手にするといい・・・・。」
堂本は持ち前の素っ気無さで答えた。
「子孫だか、繁殖だか知らんが、俺には関係の無いことだ!」
「ううう・・・・・・。」
沙耶香の瞳孔は開ききり、唇はたちまち土のように変色した。
雨脚がいっそう強くなり、スコールが本格的になってきた。
佐山は苦虫をつぶしたような顔をしていたが、思いついたように船底のキャビンから中年理科教師の新田を引きずり出してきた。
佐山の蹴りにより顔面が半分ほど崩壊していた。
「おっさん!この子と一発やりな!」
スコールにより沙耶香の胸部が切り裂かれたTシャツは、体の線を浮き彫りにしていた。
もはや何も着用していないのと同じ状態であった・・・・。
「これを飲りな。」
新田の前にウイスキーの小瓶を転がした。
震える手で小瓶を捕らえると、もがくようにして咽喉に流し込んだ。
むせこんで負傷している口内から、真っ赤なウイスキーを吐き出した。
そして今度は気持ちを落ち着けるようにして、ゆっくりと時間を掛けながら飲み干した。
新田は変態教師だ。
その筋の事件で何回となく、学校の査問会に掛けられている。
しかし資産家である新田家からの多額の学園への寄付金により、彼は懲戒免職を免れている。
寄付金というよりは保釈金といったところだ。
その変態中年理科教師の新田は、出っ張った腹を下にしてハゲタカのような頭を向け、沙耶香目がけて匍匐前進でジリジリと迫っていった。
「きゃあああっ!!ああああっ・・・・・」
「よかったじゃねえかよ、新田。あんたがストーカーにまでなって追いかけた女だぜ。オレに感謝品しな!」
新田は佐山たちが在学中に、沙耶香のストーカー行為で厳重に戒告処分とされていた。
「やめるんだ、新田!」
堂本はうなるような声で制した。
「何だ堂本、沙耶香が喰われるのを見るのが辛いのか?」
ラリっている佐山は、ケタケタと奇怪な声で笑っている。
「・・・・・・・。」
「新田先生よ・・・・、早いとこやっちまいな!あんたの念願だろう?あんっ?」
新田は沙耶香の1m手前までやってくると、フラつきながらも立ち上がった。
ゾンビのような執念だ。
そして雨でぐしょぬれのTシャツをもがきながら脱ぐと、ヒョウタンのように出っ張った醜い腹がドロンと飛び出した。
漆黒の胸毛と腹毛がとぐろを巻いていた。
ベルトを外し、汚いだぶだぶのジーンズも脱ぎ去った。
ブリーフもはいていなかったらしく、発射を今か今かと心待ちにしている、〇朝鮮のミサイルのように、新田の男は爆発寸前であった。
「ううう・・・・ううう・・・・。」
沙耶香の全身もスコールでびしょぬれだ。
雨で体温がみるみる奪われていく・・・・。
この世のものとは思えない、醜悪な人間を目前にして気が遠くなりかけていた。
新田はその姿でついに沙耶香のゆで卵のような顔に、息がかかる距離まで接近した。
獲物を捕らえた獣が、よだれの出るようなごちそうの匂いを嗅ぎまわっているかのようだ。
「むうううっ!」
突如として新田は落雷に打たれたように全身を痙攣させた・・・・。
そしてあっけなく果てた。
その証拠がスコールによって流され、あっという間に空しくも消えていった。