3.女神との出会い
目指すのは南の果て、ユガラシア。
そこにある『知識のダンジョン』の最深部に知識の女神が封印されている。
「別作品からの輸入キャラなら、なにか知ってるかもだし……」
知識の女神アマネはいわゆるゲスト出演キャラだ。隠しダンジョンの奥にいて、助けるとちょっとした会話シーンがある。
一応、今後の道筋的にも彼女に会うのは意味がある。
スキル――フレイムサーガではパッシブ能力のことだ。わかりやすく言うと『状態異常耐性』とか『暗視』とか。
主人公が助けると未収得の超スキルからひとつ、会得させてくれるのだ。
スキルは魔法とは別個に習得できるので極めて重要。
封印されたままなのはかわいそうだし……1回は会いたいし、アマネはめっちゃ好きなキャラだし……(ごにょごにょ)
決して不要な寄り道じゃないんだからね。
とはいえルート的には必須スキルというものはない。あくまで助けに行くのが第一。
スキルは貰えたらラッキー程度だ。
さらに良いこと、知識のダンジョンでは敵とのエンカウントがない。
魔法で封印された扉もあるんだけど、ブラック・ローズで突破可能。
レイが仲間にいると、他の条件を満たさなくてもいいのだ。
あとはクイズやパズルがあるだけなので、今の俺でも楽勝でクリアできる。
なにせ問題の答えを全部暗記してるからね!
しかしユガラシアは遠い……片道1年はかかる。往復2年だ。
いくつもの山脈を越えて竜種がうようよいるエリアを縦断しなくてはいけないからだ。
あの山場イベントから逃げると世界が終わる。無策で行くと再起不能。
詰んだよー、詰んでるよー。
……なんてね。
ミーシャの魔法は転移に長けた【門の魔法】。一瞬でユガラシアに行けるのだ。
勝ち確ですね。
♢
というわけで、リビングで読書しているミーシャに転移を頼みに行く。
「ユガラシアへ行きたいです、ミーちゃん」
「……突然どうされたのですか、レイ様。数日間寝込んでいたと思いきや……。もしや、知識のダンジョンに挑まれるのですか? しかし、あそこは超高難度の封印を破れないと門前払いですよ」
「それなら大丈夫、ブラック・ローズ!!」
黒薔薇の剣が手の中に現れた。ミーシャは魔法の知識も豊富だ。
一目見れば、これがどういう魔法かわかってくれる……はず。
「……そ、そんなことが……」
「うん?」
「それは伝説の黒薔薇の剣ではありませんか? おとぎ話の魔王が使ったという……」
「…………」
「影ながら努力されているとは思っていましたが、まさかここまでとは……!」
「大した努力はしてないと思うけどー?」
「座学では常に優秀でしたでしょう。実技の魔法だけが恵まれなかっただけ。それがついに花開いた……!!」
どうやらブラック・ローズはミーシャ的には偉業らしい。
その辺りの感覚はまだよくわからないなぁ。でも喜んでくれているし、結果オーライだ。
「それでミーちゃん、門は開けてくれる?」
「もちろんです、冒険者時代に行きましたので繋げられます。ああ、しかし知識のダンジョンに挑まれるとは……大きくなりましたね、私はとても嬉しいです、よよよ……」
ミーシャは俺の成長というかチャレンジ精神が嬉しいらしい……よかった、すんなり認めてくれるのは。
手早く出発準備をして、ミーシャは魔法を発動させる。
「開け――≪白銀の門≫」
人ひとりがくぐれるミニサイズの門が現れる。その魔法の通り、門は綺麗な銀色に光っていた。門の向こう側には砂漠の街が広がっている。
「よし、じゃあ行こう!」
♢
ユガラシアについた俺とミーシャは適当にぶらぶらした後、知識のタンジョンへと向かって行った。
知識のダンジョンは一度に一人しか挑めないので、入るのは俺だけだ。
ユガラシア郊外、苔むした小さな森の中に知識のダンジョンは存在する。
おおー、ゲームで見たまま……。
遥か昔からユガラシアに存在する知識のダンジョンは、とても有名だ。
最深部に女神が封じられている――そんな噂もあるけれど知名度だけ高く、実際に訪れる人はまるでいない。
「ま、1000年も攻略できていないダンジョンに挑む人はいないよね」
実は非公式に5人は最深部まで行っているんだけどね。
しかし世間では1000年、実りのないダンジョンとしか知られていない。
さて――まず最初の試練は封印の扉だ。
バチバチと魔力が溢れた、そう簡単に開けない雰囲気の扉である。
ここでほとんどの挑戦者は脱落する。ハイレベルの解除魔法、もしくはブラック・ローズのようなルールブレイカーが必要だからだ。
「よいせっと、≪ブラック・ローズ≫!」
パリン! はい、クリア。奥に進むぞう。
ちなみに知識のダンジョンには時間制限がある。1時間で攻略できないと入口にワープさせられるのだ。
後はランダムに出題されるクイズに間違えても、入口へ戻される。さすが隠しダンジョン、考えてみるとかなりクリアさせる気がないよなぁ。
しかし俺のゲーム知識なら問題ない。
20分くらい歩きながらクイズを解いて、俺は最後の扉の前にやってきた。
ちなみに最初の扉とは比べ物にならない魔力で封印されている。
特定のアイテムがないと入れませんよと言わんばかりだ。まぁ、実際に超貴重な「オメガドラゴンの宝玉」がないと突破できないんだけどね。
とはいえブラック・ローズなら一撃なのだ。
「≪ブラック・ローズ≫!」
ばっさり封印を破り、俺は最深部へと到達した。
扉をくぐると、そこは黒曜石の広場だ。その中央に黒曜石の柱がある。
その柱の中に、知識の女神アマネが封印されているのだ。
……頭の中に凛とした声が響いてくる。これはアマネのテレパシーだ。
「おや挑戦者が来たと思うたら、あっという間にここまで来るたぁね。恐れ入ったよ、これまでの最年少、最短記録の更新だ」
これまた生アマネの声に感動しながら、俺はつかつかと黒曜石の柱へと歩いていく。
やっぱりここに1000年いるって拷問だよな。
さっさと助けてしまおうっと。
「今まで私の所に到達できたのは、1000年で5人だけ。3人は世界の支配を望み、2人は世界の破滅を願って私の元に来たんさね。――私の知識欲しさにさ」
「アマネの所に行くなら、そうなるよねー」
「そう、誰も彼もろくなことを考えちゃいないもんさ。さて――賞品てぇわけじゃないが、決まりごとだから聞いておこうか。あんたは何を望んでここまで来たんだい?」
決まってる。知識はもう足りてるんだ。
これまで来た全員、アマネから知識を得るとそのまま帰っていった。
俺は違う。世界がどうとか、割とどうでもいい。困っている人がいるのは放置できないのと、病院送りが嫌なだけだ。
「……君を助けに来ただけ、だよ」
「は? えっ――なにをする気だい?」
ブラック・ローズ。黒薔薇の剣が柱をバラバラに切り刻む。もちろん外側だけね。
俺の知識通り、封印は粉々になって消し飛んだ。
この辺りもゲーム知識通りだ。やったぜ。
「嘘だろ……? 竜王の仕掛けた封印だってのに。1000年、誰も破れなかったのが……」
「よし、これで君は自由だ」
うん、スッキリした。弱きを助けて強きを挫く。
やっぱりレイはこうじゃなくちゃね。
柱の中から現れたのは、セミロングの黒髪赤目の美しい少女だ。抜群のプロポーションに夜色の着物をきこなしている。
純白の肌と完璧な対称美。まさに神としか言いようのない、圧倒的な存在がそこにいた。
解放されたアマネは俺を見つめると、呆然と呟いた。
「お前様は――え? 異世界の魂を持っているのかい?」
面白い、もっと読みたい、続きが楽しみ。そのように思ってもらえたらお願いがございます!
執筆の励みとするため、ブックマークや評価ボタンより評価を頂けると大変うれしく思います……!
これは本当に大きな力になります……!
広告欄の下にありますので、ぜひともよろしくお願いいたします!