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2.寝る子は育つ(最強へ)

「そろそろ時間だ、起きないと……って、ええええええ! ここ、どこ!?」


 朝起きたら、知らない部屋で目が覚めていた。

 いや……待てよ。優しめの白で統一された内装、ふわふわののぬいぐるみ達。


 癒し力高めでコーディネイトされた、この部屋には見覚えがあるぞ!

 設定資料集で公開されていた、レイの部屋だ!


「……どういうことかな、これ? まさか――」


 ♢


 数十分後、認めざるを得なかった。

 俺はレイ・ミールストだ。そして今いるのは、フレイムサーガの世界だ……。


 むぅ、心臓が痛くて寝ていたら突然こんなことになるなんて。

 ……もしかしてあの後死んだのか? それでこんなことになったのか。


「考えてもしょうがないか……ポジティブに行くっきゃない!」


 人生、切り替えが重要だ。よくわかんないことを考えても仕方ない。

 前向きにやれることをやっていくしかない。

 とりあえず着替えて朝ごはん食べよう。お腹空いた。


「本日は早起きですね、レイ様。何か気になることがありましたでしょうか」

「んーん、特にないけど……」


 リビングに行くと、お付きメイドのミーシャが朝食を用意していた。

 金髪エルフでメイドのミーシャ。背は小さいけど、胸はそこそこ大きい。元冒険者で【門の魔法】使いでもある。今はこの家で、俺とミーシャの二人暮らしなのだ。


 ……てか、生きている……本当に動いている……。

 やばい、感動でちょっと泣きそうだ。


 魔法英雄ではちょい役だったけれど、彼女の忠誠心は本物。

 レイが意識不明になっても見捨てることなく、ずっと一途に尽くしてくれる。

 だからこそ俺も含めてファンは多い。


「そういえば、一週間後に魔法学院の入学試験ですよね。ご準備はいかがでしょうか?」

「よゆーよゆー」

「……普通なら油断されないように、と言うのでしょうが、レイ様には無用ですね。歴代最高の成績を取れるかどうか、そこだけですし」

「そうそう! なるべくいい成績を取るんだ」


 すらすらとレイの言葉が出てくる。

 元からレイというキャラクターが好きすぎて、自然に話せちゃうんだ。

 うん、この調子でやれば大丈夫そうだな。


 ふぅ……結構楽しいな、これ。

 ちょこちょこ目の前で動くミーシャ……マジ尊い。守りたくなる。


 窓から見える世界もフレイムサーガそのままだ。

 カレンダーを確認したが、今はゲーム本編開始の2年前になる。

 まだレイは本編舞台の魔法学院には入学さえしていない。これから入学試験を受けるのだ。


 そして今から2年3ヶ月後、運命の戦いがやってくる。

 その戦いで俺は再起不能、表舞台から消える……条件を満たさなければ。


 だけど時間は十分過ぎるほどある。悲壮感や絶望はまったくない。

 頭の中でルートを練ってみたけど、正直かなり時間が余ってしまう。適度にやりながら、観光でも挟もうかと思っているくらいだ。

 あの一枚絵とかムービーの場所とか、実際に行ってみたい……。


 と、テーブルに朝食のパンケーキが並べられる。

 ミーシャの料理スキルは作中でも最高クラスのはず。さて、実際の味はどうかな?


「うま……! マジでおいしい! ミーちゃんのパンケーキは最高だね」

「ありがとうございます、ふふ。喜んで頂けて私も嬉しいです」


 おいしい物を食べられる、それだけでも人は幸せになれる。

 というかミーシャの手作りってだけでもテンション上がっちゃう。

 憧れのキャラクターのお手製料理だよ? 嬉しくないはずがない!


 ……さて、朝食を取ったら次は魔法や能力の確認だ。

 手っ取り早く試したい強化方法もあるんだよね。


 ♢


 自室に戻った俺は、ベッドに寝ながらゲームの知識を思い出していた。

 どうやら俺はまだ最強ではない――使える魔法はひとつだけという自覚がある。


【花の魔法】は一般的に、外れ魔法あつかいされる。既知の魔法を網羅した図鑑でも最低最弱のEランク扱いだ。


 なぜか? それは遠距離火力が皆無だからだ。


 この世界のモンスターである竜種は、巨体と驚異的なタフさを持っている。ちょっと身体能力を強化したくらいでは歯が立たない。まして接近戦を挑むのは自殺行為だ。


 遠距離火力こそ、魔法で必要とされる第一要素。

 バリバリドカーン! が求められるのだ。


 しかし【花の魔法】には遠距離攻撃の手段がない。【花の魔法】はデバフ特化だ。

 攻撃魔法は唯一、ブラック・ローズがあるけれど強力だけど近寄る必要がある。だから評価が低いのだ。


 魔法使いは竜種にとどめを差した時、そのエッセンスを経験値として吸収する。

 ゲーム的にはこれでレベルが上がり、強くなれるわけだ。

 そして経験値が貯まるほど強くなるのだが、ブラック・ローズはかなり成長しないと覚えられない。


 攻撃手段がないと成長できないが、かなり成長しないと攻撃手段がない。堂々巡りなわけで、わかりやすく詰んでいるのだ。


「でも抜け道があるんだよね。――≪パープル・コスモス≫」


 紫色のコスモスでできた綺麗な鎖が現れる。【花の魔法】で一番最初から使える魔法だ。

 発動対象は――自分。コスモスの花びらに包まれる。ふわふわでいい匂いだ、思ったよりも悪くない。


『一定時間の行動阻害、スキル発動の阻止』


 パープル・コスモスは効果だけ見ると強そうだけど、実は大きな問題がある。抵抗するのが簡単で、かなり格下でないと効果が発動しないことだ。

 発動しないデバフなんて意味がない。最初の魔法がこんな具合なのも低評価の一因だ。


 パープル・コスモスも普通ならカス扱い。しかし【花の魔法】には、超強力な隠し効果がある。


 効果が発動している間、少しずつ経験値が貰えるのだ。

 しかも相手が竜種でなくてもだ。自分自身に使っても経験値を得られてしまう。

 つまり自動的に強くなれるのだ。こんな効果は他の魔法には存在しない。


 自分にパープル・コスモスを使って、後は寝ていればいい。

 それだけで経験値を得られて、強くなれる。

 しかも成長すると獲得経験値も増える。加速度的に強くなれるのだ。


 ゆえにこの世界での評価とは真逆に、プレイヤーからは【花の魔法】はチート、設定最強の魔法と言われる。俺も完全に同意見だ。


 ちなみにこの仕様は正確にはチートやバグではない。元からそういう仕様だ。

 レイもこの方法を使って強くなった――のも公式設定。

 だから俺が使うのは当然というか、歴史の流れをなぞるのに必須の行動なのだ。


「ふー、んじゃもうひと眠りしようかな。寝る子は育つ、これぞ本当の睡眠学習ってね……」


 ひと眠りして起きたら、昼食の時間になった。

【花の魔法】は消費魔力はとても少ない。これもこの強化方法をする上での大きな利点だ。

 何時間続けても魔力が尽きないし、疲れないのだ。


「んんー……頼むよー、≪パープル・コスモス≫!」


 魔法を発動させるとコスモスが出現する――けどさっきと明らかな違いがある。

 空中に舞う花びらの数が多くなっている。


「やったー! 成長してる!!」


 後はこれを繰り返して、強くなればいいだけだ!


 4日後。自分にデバフかけて寝る作戦は順調そのもの。

 使える魔法もだんだんと増えてきた。


 イエロー・パンジー。

 広範囲の記憶操作、精神系デバフだ。

 これも普通だと成功率が低すぎるので外れ扱いされている。でも最強のレイが使うとモブ相手にはかならず発動するようになる。

 ストーリー的に便利過ぎて、レイヤーからはひとりだけメン・イン・ブラッ○のアレができると言われた魔法だ。悪用禁止。


 そしてブラック・ローズ。

 黒薔薇の剣を出現させ、あらゆる物質と魔法をぶった切る。ちなみに発動している間は身体能力が大幅に強化される。


 ブラックローズまで使えるなら、Bランク竜種ともソロで戦える。

 あと重要なのは、ブラック・ローズは呪いや封印の魔法を斬るのにも使えること。


 よし、第一目標のブラック・ローズを習得したので次の段階に進もう。

 隠しダンジョンに行って、女神様を助けに行くか。

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