1.最強への転生
前略、俺はとあるゲームの不遇師匠キャラ――レイに生まれ変わった。
なぜかはさっぱりわからないけど、それが事実なのだ。
「やっぱりどれだけ考えてもわっかんないなー。まぁ、そんなのは後でいっか。前向きポジティブ!」
とりあえずアイアンドラゴンが街を襲っている。
困っている人は見過ごせない。アレをなんとかするのが先だ。
空を飛ぶのは鉄色に輝く巨体、ゲームの中そのままのアイアンドラゴン。
歴戦の魔法騎士もひとひねりにする、凶悪なAランク竜種である。
それが俺に向かって急降下攻撃をしてくる。
周囲にいた魔法騎士が逃げ惑いながら、叫ぶ。
「逃げるんだ、君! 狙われてるぞ!」
うーん、実は怖くはないんだけどね。
その動きはゲームと同じ動き。すでに見切っている。
「ギイアアアアアッ!!」
この世界では神から与えられた奇跡の力――『魔法』がある。
魔法は一人一種類。俺の力は単純明快だ。魔力を集中させて解き放つ。
「≪パープル・コスモス≫!!」
紫のコスモスがわっと空中に現れ、アイアンドラゴンの体にまとわりついた。
それだけ、たったそれだけだが――アイアンドラゴンの動きが完全に止まる。
俺の魔法は【花】。デバフ特化の魔法で評価も低いけど、実は最強である。
このパープル・コスモスも魔神竜にさえ効くデバフ魔法だ。
『一定時間の行動阻害、スキル発動の阻止』
さすが師匠キャラ、とんでもないチート魔法だ。
こうなるとデカくて強いと言っても、アイアンドラゴンに突破する手はもうない。
あとはさっくりとどめを差すだけ。
「……≪ブラック・ローズ≫」
今度は黒薔薇でできた剣が手の中に現れる。
俺の代名詞と言っていい、唯一の攻撃手段だ。
『身体能力を極限まで上昇、あらゆる防御と魔法を効果を切り裂く』
身も蓋もない能力。どんな伝説の武器よりも強いんだから、これ。
シリーズ作品を通して最強格なだけはある。
「――ッ!!? ギイイアアアアアッッ!!」
本能で危険を察知したアイアンドラゴンが暴れはじめた。
俺は息を軽く吐いて跳躍すると、そのままアイアンドラゴンに無造作を斬りかかる。
鋼鉄の鱗を持ち、小さな町なら1時間で滅ぼすアイアンドラゴン。
1つの騎士団が総がかりで討伐すべきと言われる強敵。
そのアイアンドラゴンの頭部を、俺はただの一振りで両断する。
切り捨てられたアイアンドラゴンはそのまま、灰になって消えた。
うん、楽勝。さすが師匠キャラ、能力が極まっている。
周囲を見ると、あっという間の攻防に魔法騎士たちがぽかんとしている。
「次元が違いすぎる! 【花の魔法】は最弱Eランクの魔法のはずじゃないのか!?」
「これが新世代の魔王……? 人間とは思えない力だ……」
おっと、注目を集め過ぎた。
助けるのは全然いいとしても、俺の名前が目立つのは不本意だ。
俺の記憶だけ消させてもらおう。
これも世界を救うため、今の段階で余計なフラグを立てないためだ。
「ごめんね! ≪イエロー・パンジー≫!」
淡い黄色の花びらがひらひらと四方八方へと広がっていく。
『使用者に関する広範囲の記憶を操作』
うーむ、改めて見るけどこれもヒドイ魔法。
悪用したら世界が終りそう……。するつもりなんてないけどさ。
魔法の効果でぼーっとなる魔法騎士たちに、俺は新しい記憶を刷り込んでいく。
「えーと、魔法騎士の皆さん! 俺――花の魔法使いレイ・ミールストなんて見てないし、この場には全く無関係! オッケイ? 重要だよ、ここ」
「「……うぇーい」」
「ナイスな返事だ! 最近話題の謎のS級冒険者『フローシア』が速攻でアイアンドラゴンを倒した、それが真実! いいかな?」
「「うぇうぇーい」」
「よし、それじゃお疲れ様でした! 解散! さよーならー!!」
「「うぇーい!!」」
というわけで、俺は即座にその場を後にする。
ケガ人もいないし、後片付けは任せても大丈夫だろう。
この世界では一定の条件を満たすと、魔法に目覚めるようになる。
俺は王子として生まれて、赤ん坊の頃に儀式を受けて【花の魔法】を得た。
だけど――それはミールスト王家では全く受け入れられなかった。
理由は簡単、ミールスト王国が成立する際に滅ぼしたのが、【花の魔法】を極めた魔王だったからだ。
前の王家を思い出させる【花の魔法】は、どんな形であれ認められない。
俺は魔王の生まれ変わりとして父である王に嫌われた。というわけで生まれてすぐ追放されたのだ。
……振り返るとマジで不遇ですね。
まぁしかし、それは過去のことだ。生まれ変わった俺にはどうしようもない。
もっと大きな問題は先にある。
俺はいずれ、真に強大な敵と戦うことになる。
そしてその戦いの最中、俺はゲームの主人公である後輩を庇って取り返しのつかないダメージを受けるのだ。
レイの物語はそこで終わり。後はエンディングまでずっと意識不明だ。
これが不遇師匠キャラ、レイに与えられたストーリー。
もちろん、俺はそんな宿命に従う気はない。
ゲーム的にもDLCで救済されるし。……人気が出たから後付けで救われたっぽいけど。
とはいえせっかく最強の力を持って、好きだったキャラクターに生まれ変わったのだ。
――俺は前向きに、打ち勝ってみせる。
幸い俺はこのキャラにもゲームにも死ぬほど詳しい。RTA記録も持ってたほどだ。
要は強くなりまくって、その運命の戦いに勝てばいいのだ。
異世界まで来て、寝たきりになるなんて願い下げ。
世界を救うことにも繋がるんだし、俺は用意されたストーリーに抗う。
幸い、プラン的にはかなり楽勝だ。今もかなり楽しく生活できている。
うまく運命の戦いを乗り越えれば、真のハッピーライフだ。
俺が前世の記憶に目覚めたのは、つい1ヶ月前のこと。
今のところはものすごく順調だ。
やってやるさ。
これが俺の二回目の人生だ。
♢
師匠キャラは実に不遇だ。
特にゲームでは序盤に退場することがほとんどだ。チュートリアルだけの仲間キャラだったり、ストーリー上の都合で永久にいなくなったり。
もちろん仕方ない面もある。主人公を教え導くのが師匠キャラの役割で、ずっとお守をしているわけにもいかない。
どこかで主人公は師匠キャラを超えて、飛び立たなくてはいけないのだから。
物語には必要だけど最後まで活躍はできない。それが師匠キャラの不遇さだ。
俺の愛しているゲームに『フレイムサーガ』というシュミレーションRRGがある。
大人気でシリーズ化しているが、その中でも抜群に人気があり、俺も一番好きなのは『フレイムサーガ・魔法英雄』だ。
魔法学院という魔法を学ぶ学校を舞台にしたゲームで、シリーズでも特大のヒットを飛ばした。
西洋風ファンタジーと学園ドラマの素晴らしい合わせ技。奥深い戦闘システムに大ボリュームのストーリー。アニメ化もされたくらいだ。
俺も当時高校生ながらゲームライターのひとりとして、攻略記事を書きまくった。RTA記録を塗り替えるほどやり込んだ。
この紋章英雄にも、師匠キャラは存在する。祖国から追放された王子で、かわいい系少年レイ・ミールスト。
俺が生まれ変わったキャラクターである。
ひたすらポジティブ、底抜けに明るい性格。絶望的な状況でも楽天的。
まぁ、俺もそういう性格――というか俺がそういう考えになったのもレイの影響だ。
【花の魔法】という作中設定でも最強の力を持ち、魔王と称されたキャラだ。
そしてゲームスタートから序盤まで、主人公の良き師匠として活躍する。
彼の初登場は、主人公の入学試験の時だ。そのときに主人公の潜在的才能を見抜き、指導役を買って出る。その後も学院生活がスムーズにいくよう、チュートリアルも兼ねて色々教えてくれるのだ。
だけど序盤の山場イベントでレイは竜王と闘い、後輩の主人公を庇って瀕死の重傷を負ってしまう。なんとか一命はとりとめたが、以後はベッドで意識不明なままになる。
残念だけど、エンディングまで行ってもレイの意識は戻らない。エンディング中にワンカット、指先がぴくりと動いて終わりなのだ。
いや、一応あんまりな最後なので、DLCで救済はされた。クリア後の追加ダンジョンで入手するアイテムを使えば、ちゃんと意識を取り戻して仲間になるのだ。
……正式にプレイアブルキャラクターになるのがゲームクリア後とあって、性能はぶっちゃけ完全に壊れている。
近接火力と防御力は全キャラ中トップ。そのチート性能たるや、レイなしに最高難度ダンジョンに挑むのは苦行、真性マゾと言われるレベルだ。
その後もシリーズ作品にちょいちょいゲスト出演し、フレイムサーガのソシャゲでも最高ランクの評価が与えられている。
まぁ……レイの【花の魔法】は最弱のEランクだけど、あるやり方で超速度で強くなれる。
仲間になるのが遅いゆえの救済措置というわけだ。
そしてある程度まで育つとSランクの魔法を超える、魔王の域に達するのだ。
さらにレイ自身もゆるふわかわいい銀髪少年であり、男女問わず人気がある。色んな姿のレイがソシャゲで実装されるたび、セルラン1位になるくらいだ。
……生まれ変わるなら、レイみたいな人間になりたいよな。
カッコいいし、弱気を助けて強気を挫くとか憧れる。容姿も並外れてるし、色んな才能もある。
再起不能のバッドイベントだけは勘弁だけどな。
まぁ、これも後になってフレイムサーガのソシャゲで回避ルートが示されたんだが。
今、俺がチャレンジしているのはこの回避ルートだ。これさえできれば、再起不能を回避できる。やるっきゃない!
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