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眩しさは忘れない

作者: にわか

感動させようとする小説によく見る設定や展開に乗っ取って、書いてみました。

設定とか、しっかりと調べたり詰めたりしてはいないですが、良かったらお読みください。



 

 1





 僕は揺れる船の甲板で、眩しい朝日に照らされながら、潮風を浴びていた。今日は月曜だから、いつもならちょうど、重い足取りで高校へ向かっている時間だ。甲板には、僕の他には誰もいなかった

 僕を乗せた大型客船は、そこまでスピードがでないのか、ゆっくりと海の上を走っている。つい、もっとスピードがでないものかと、はやる気持ちになるが、そう思っても船は僕の焦りによって早くなったりはしない。僕は気持ちを落ち着かせるため、こうして海の上まで来た理由を、そしてこの旅の目的を再確認しようと、思い返してみるのだった。




 2




 霧島香住と出会ったのは、都内の病院の病室でだった。

 三か月ほど前のゴールデンウィークのことだ。僕は自転車で隣の県まで旅行しに行き、その帰りに段差にタイヤをとられ派手に転び、足の骨を折った。その骨の折れ方が悪かったため、僕は一週間ほど入院することになった。

 その時に、同室に入院していたのが彼女、霧島香住だった。茶色がかった明るいショートヘアにくりっとした目と長いまつ毛。僕と同年代に見える彼女は、どう見てもスクールカーストの上位にいるような風貌だった。

 男女で同室になるのはおかしいだろうと思ったが、その時は入院患者が多かったらしい。しかし、僕は基本的に他人との関りを避けるタイプであるし、彼女みたいな、僕と正反対の位置にいるような女子ならなおさらだ。そんな自分を僕は何とも思ってなかったし、あちらもわざわざ僕に話しかけてはこないだろうと思っていた。

 だが、彼女は違った。彼女は同じ部屋に同年代の僕が入院したのが珍しかったのか、それとも元来そういう遠慮の知らない性格なのか、僕に積極的に話しかけてきた。

「初めまして! 私、霧島香住って言います! え、高校生ですか? 高二? やば! 同い年じゃん! 」

「名前なんていうの? 結城裕也? ふーん。じゃあ、ユウね! よろしく!」

「ねーねー。それ、いっつもなに書いてんの? いーじゃんいーじゃん、見せてって……え? 小説? うわー、なんか、ぽいね。」

 話しかけられたら無視をするわけにもいかないので、僕はそっけなくではあるが返事をしていたら、彼女はいままで持て余していた暇を埋めるように、僕に次々と話しかけてきた。


 僕の趣味は旅と、その旅の小説を書くことだった。

 旅はもっぱら一人旅だった。僕は昔から、誰かと一緒に行動していると、必要以上に他人のことを気にかけ、遠慮してしまう性格だった。他人に自分の意見を押し通す労力がとてつもなく強大に感じた。だから、僕はだんだんと他人と関わらない人間になっていった。だから一人旅なのだ。自分で場所を選び、自分の体力がもつだけ歩き回り、自分だけが感じた感動を、自分だけで飲み込み、独占する。一人旅をしていると、この先の将来、自分一人の力でたくましく生きていけるという確信を得ることができた。

 だから、僕の小説の登場人物はいつも一人だった。主人公の僕以外、誰も出てこない小説だ。僕が感じた世界を、僕の言葉で綴っていく。旅先で撮った写真を眺めたり、記憶の中の風景を思い出したりして、空想の中でもう一度旅をしながら小説を書く時間は、何物にも代えられない時間だった。


 彼女が僕の小説を読ませてと言ってきたとき、僕が断るのは当然のことだった。誰だって、自分が書いた小説とか、歌とか、絵とか、それらを張り切って他人に見せるのは、相当自分に自信があるやつか、羞恥心が存在しないバカのどちらかだろう。僕はそのどちらでもないし、他人との関りを最小限に抑えてきたのだから、わざわざ見せるわけがなかった。

 しかし、彼女の押しは相当強かった。僕が何回か遠回しに拒絶の反応を示しても、「ちょっとだけだから!」とか、「一瞬だけでいいから!」とか、「先っぽだけだから!」とか、頭の悪そうなことを言いながら、僕の腕を引っ張りながら執拗に見ようとしてきた。今思えば、そこまで僕の小説が読みたいと思っていた訳ではなくて、このようなやり取りが、彼女なりのコミュニケーションだったのだろう。

 最初にも言ったが、僕は他人に自分の意見を通すのが苦手だ。だから、彼女の押しに負けてしまったのも、当然のことだった。僕は病室のベッドの上で彼女にまとわりつかれる恥ずかしさに耐えきれず、いつも小説を書いているノートパソコンを渡した。受け取った彼女は満足そうにそれを受け取ると、自分のベッドに戻って読み始めた。このときばかりは、自分の性格と女子への免疫のなさを呪った。

 僕が書く小説は、自分でも他人受けするようなものではないと思っていた。ただ僕が見て、感じたことを書いただけのものだったから。だから読み終わった彼女が、笑顔で「おもしろい!」と言ってきたのは、素直に驚いてしまった。僕は間の抜けた声で「へ?」と言うしかなかった。

「だーかーらー! 面白かったって! ちょっと背伸びしてるというか、クサイとこもあるけど! けど、情景とか、キミが感じたこととか、ちゃんと書けててすごい! わたし、びっくりしちゃった!」

 それは、僕にとって、初めて自分の小説の感想を、しかも好意的な感想をもらった瞬間だった。僕はその時、恥ずかしさとか嬉しさとか、なんかそういうムズムズした感情が全部一つになったような、こそばゆくて言い表せない感覚を覚えた。

「そ、そっか。まあ、ありがとう」

 と、僕は素っ気なく返事をした。口角が勝手に上がるのを、僕は必死で抑えていた。


 そのあと僕が退院するまで、僕はこれまで書いてきた他の小説も彼女に見せた。一回褒められただけなのに、我ながらちょろいな、と思う。だけど、僕の小説を読む彼女の、整った横顔を見てしまうと、まあいいかと、僕のプライドなんて崩れ去ってしまうのだった。

 彼女も旅行が好きだったらしく、それも僕の小説を評価してくれた理由だった。彼女のベッド脇のテーブルには、いつも風景写真集が置いてあって、彼女が暇なときは、僕をおちょくってくるか、その写真集を眺めるかだった。

 彼女がくれた感想の中で、今でも鮮明に覚えている言葉がある。

「写真とかだと、そこは自分とは別の世界に感じちゃうけど、ユウの小説を読むと、実際にそこに行ったような感じがするから、好きだな」




 3




 僕は退院した後も、たまに彼女の見舞いに行った。それは決まって、どこかに小旅行に行って、小説を書いた後だった。僕の書く小説は、やはり登場人物が一人で、一人旅の私小説だった。

 彼女は僕が持ってくる小説を目の前ですぐに読んでくれた。その、小説を読む彼女を眺めていると、僕の心はなにかやわらかいもので満たされていくのを感じた。病室の中は、いつも少しだけ暑く感じた。

 小説のこと以外にも、彼女とはいろんな話をした。普段のこととか、趣味とか、そんなことだ。時々僕をからかいながらも、コロコロと表情を変え、いつも楽しそうに自分のことを話してくる彼女に釣られて、僕も自分のことをたくさん話した。こんなに他人に自分のことを打ち明けたのは家族以外では初めてだったかもしれない。いや、ここ何年かで考えれば、家族よりも自分のことを話していただろう。それくらい、彼女の持つ不思議な魅力に、僕は惹かれていった。


 彼女は腎臓の病気らしかった。去年の冬ごろにそれが発見され、最初の内は学校に通いながらの通院だったらしいが、病気が進行するにつれ入院の回数が増えていき、そのときは一か月以上入院が続いていたらしい。出会ってすぐのときは、彼女は別に具合が悪そうだったり、痛がる姿を見せなかったりはしなかったので、僕は彼女の病気についてはあまり気にしてはいなかった。


 ひと月前くらいからだろうか。僕はその時には、小説を書いていなくても、しょっちゅう彼女の見舞いに行くようになっていた。彼女は相変わらず明るい笑顔で、手を振って僕を迎えてくれた。しかし、少しだけ変わったこともあった。

 まず、病室が変わった。前より上の階の病室で、個室だった。そこでもいつも通り、僕は少し斜に構えながら、彼女はそんな僕をからかいながら、時が経つのも忘れて会話をしていた。しかし、しばしばその途中で彼女は、何か痛みに耐えるような苦悶の表情を見せることがあった。大丈夫かと僕が問うと、彼女は決まって焦ったように笑いながら、「あはは……大丈夫、大丈夫だよ!」と、言った。そうして、自分の元気さを証明するかのように、傍らに置いてある写真集を勢いよくパラパラとめくるのだった。

 彼女の顔を隠すように持ち上げられたその本の表紙が見えた。それは、伊豆諸島の海と自然についての写真集らしかった。




 4




 つい昨日のことだ。僕はいつものように彼女の見舞いに行き、彼女がいる病室の扉を開けた。いつもはすぐに聞こえてくる明るい声が、その日は聞こえてこなかった。ベッドに目を向けると、俯いた彼女の目は赤く腫れていて、どうやら泣いていた様子だった。ベッドのそばまで近づくと、机から落ちたであろう写真集が、ぐちゃっとなって床に落ちていた。

 いつだって、会話の初めは彼女からだったから、僕はどう話し始めればいいか分からず、無言の間を埋めるように、落ちていた写真集を拾い上げた。

「手術が必要なんだって」

 彼女はかすれた声でポソリと言った。「成功するかは、分からないの」

 彼女は多くは語らなかった。いつもの明るい彼女の面影はなく、ただか弱い少女が、ベッドの上で膝を抱えて座っていた。

 僕は、僕が何か言葉で言っても、彼女の助けにはならないような気がして、何も言うことができなかった。手持ち無沙汰に、拾った写真集をパラパラといじっていると、付箋の貼られたページに目が留まった。

「常春の島。新島……」

 僕はそこに書かれていた文字を思わず口にだしていた。透き通った水色の海にや、おかしなモアイ像のような石像の写真が載せられていて、日本ではないような雰囲気がするその写真たちに、僕は目を奪われた。

「いつか行きたいと思ってたけど、もう行けないかもね……」

 それ以上、彼女と僕との会話はなかった。僕の胸の中ではいろんな感情がぐるぐると回っていたが、どれもはっきりとした形にできず、ただベッドの横で立っているしかなかった。

 病室を出ていく僕の背中に、彼女の声が聞こえた。

「今まで、ありがとね、ユウ……」

 彼女の声は震えていた。閉めた病室の扉越しに、小さく彼女が泣く声が聞こえてきた。

 僕は、叫びたい衝動を抑えるために、病院の中でも、走りださずにはいられなかった。


 家に帰ってベッドに倒れこみ、枕を自分の顔に押し付ける。そのまま思いっきり息を吐くと、少し落ち着いた。

 彼女は今まで、僕にいろんなものをくれた。自分のことを相手に伝える嬉しさ。それを誰かが受け入れてくれる嬉しさ。閉じた自分の世界を無理やり開き、彩をくれた。彼女の笑顔の眩しさは、忘れることができなかった。

 僕は何か彼女に与えられただろうか。ただ僕は、僕という素人が書いた小説を、読ませていただけだ。

 僕の小説。最初はただ自分のためだけに書いていただけだった。誰かに見せようなんて考えずに、自己満足のために書いていた。だけど、そういえば最近の僕は、彼女のことを思いながら小説を書いていた。彼女はこの表現を気に入ってくれるだろうかとか、これはおおげさだと笑われるだろうなとか。そして、早く彼女にそれを読んで欲しかった。読んで、ちょっとバカにされて、笑って感想を言って欲しかった。

 そうだ。僕が彼女にしてやれることは、小説を書くことしかない。彼女があんな

 状態でも、図々しく小説をもっていくなんてどうかとも思えるが、それでも何かしてやりたかった。それが、ただの自己満足としても。

 僕の小説で、彼女に旅をプレゼントする。

 行先はもう、決まっていた。




 5




「まもなく、新島に到着いたします。着岸の際には、船が大きく揺れることがございますので、お気を付けください。本日のご乗船、誠にありがとうございました。」

 船内に響くアナウンスが、僕を現実に引き戻した。どうやら、もうすぐ目的地に到着するらしい。

 甲板から船の先を見ると、海の上に小さな島が二つ見えた。あれが新島と、その隣の式根島らしい。僕は降りる準備をするために、さっきより少し高くなった陽を浴びながら、座席に戻った。


 船を降りて少し行ったところに観光案内所があり、僕はそこで自転車を借りて、新島を周った。小説のために、その場所で感じたことをメモにとっていく。


 羽伏浦海岸。濃い水色の海に白い波が合わさった高い波は壮観だった。

 シークレットビーチ。薄暗い森を抜けた場所に静かにある砂浜は、子供の頃の秘密基地のようなワクワクした気持ちと、神聖な場所を歩く厳かな気持ちとを感じられた。

 水平線に沈む夕日を眺める丘。名前がそのまますぎて面白かった。夕日に海が照らされて、海の上に、夕日まで続くオレンジ色の道ができて、美しかった。

 夜。空を立体的に覆う星空は、まさに星降る夜と呼べるものだった。


 島を周っているとき、僕は気づけば彼女のことを考えていた。彼女と並んでここを歩けたら、彼女と一緒にこの景色を眺められたら、それはどんなに楽しいことか。

 前の僕が、今の僕を見たらどう思うだろう。孤独でも、強く生きていく力を望んでいた僕。きっと、今の僕のことを軟弱だと侮蔑するだろう。今の僕にも、心の奥にはそんな感情があることが分かる。だけど、そんな軟弱な今の自分も……、

「悪くない、かな」

 ぽつりとつぶやいたその言葉は、島の静かな空気に消えていく。彼女がここにいたとしたら、「ユウのそういうところが、キザというか、クサイんだよ!」とか言って、僕のことをからかってくるに違いない。

 こうやってまた彼女のことを考えている自分に気づいて、僕は一人で笑ってしまった。


 なにせ急に来たものだったから、泊まる宿なんかとっていなかった。でも、元から寝ないで小説を書き上げるつもりだったから、特に問題はなかった。

 僕は海がすぐそこの公園のベンチに座り、ノートパソコンを開いた。予備のバッテリーも持ってきているから、今夜くらいは持つだろう。

 暗闇の中で、小説を書き始める。それは思ったよりすらすらと書くことができた。それくらい、この島の景色は良かったし、感じることも多かったからだ。彼女がずっと行きたがっていただけのことはあった。

 2時間半ほどで、一通り書くことができた。僕は一回伸びをして、推敲をしようと今書いた小説を読み直す。その小説は、新島という素材がいいからか、いつもよりうまく書けていると、自分でも思った。

 でも、何か足りない感じがした。

 昔の僕だったらこの完成度に満足しただろう。それくらい、この小説はちゃんと書けていると思った。だけど、何かがもの足りないのだ。今日、僕が本当に感じてきたものが、書かれていない気がした。

 もしかして、と思うものがある。今日僕が、島を周りながらずっと考えていたもの。いや、それは島に来る前からずっと頭の中心にあるものだ。でも、それを小説に書くと、今までの僕をきっぱりと否定することになるのではないだろうか。

 だがこれは、僕のためでない、彼女のための小説だ。彼女に元気になって欲しい。そのためなら、僕は過去を捨てることだって、できる気がした。


 僕はせっかく書いた小説のデータを全部消した。そうして、また初めから書き始める。

 さっきの小説とは違うこと。それは、登場人物が二人いることだ。主人公の男子と、一緒に旅をする女子だ。今日の旅で感じたことを、二人の旅として書いていく。

 書けば書くほど、さっきまで足りなかったピースがぴったりとはまっていく感覚が分かる。僕は今日、彼女と旅をしていたのだ。隣に彼女がいなくても、彼女を想って、何もかもを感じていた。

 僕の小説だと、実際にそこへ行ったように思える。彼女は前に、そう言ってくれた。その時のように、彼女にもこの新島の旅を味あわせてあげたい。そして、いつかここに行きたいと言って欲しい! 

 小説を書く僕の手は休むことをしらず、気づけば水平線には白い朝日が昇りかけていた。




 6




 高速船で東京に戻り、家には帰らずそのまま彼女がいる病院へ向かった。手術の日程も聞いてなかったし、早く彼女に読んでもらいたかった。病院内では、はやる気持ちを抑えて歩くのに精いっぱいだった。


 僕がノックして病室に入ると、彼女は驚いた顔をした。

「ユウくん……?」

 彼女は、どうしてここにと言いたげに、こちらを見てきた。

「もう、こないかと思ってたよ」

 僕はいちいち受け答えするのが面倒で、ノートパソコンを彼女に突き出した。

「小説、また書いてきたんだ。新島、行ってきてさ。だから、読んでよ。」 

 彼女は、僕が何をいっているのか分からないというようだった。

「小説って……今更……。 ていうかユウ、この前来たの、二日前の日曜日だし、学校休んで行ってきたの? あれ、そもそも今日も学校じゃ……」

 そんなことを言う彼女に、僕はだんだんイライラしてきた。新たな自分の小説を書き上げたのと、あまり寝ていないのとで、この時の僕は熱くなっていた。

「いいから! 読んでくれよ、香住!」

「は、はい」

 彼女はなんだか分からないと困惑しながら、僕の小説を読み始めた。


 彼女は小説を読み終わると、少し戸惑った風にこう言ってきた。

「ユウ……これって、私への告白?」

「は?」

「いや、これに出てくるのって、ユウと私だよね? で、この主人公、女の子のことが好きだって、誰でもわかるよ? いくらなんでも、小説を書いて告白ってのは、ちょっとアレだと思うよ……?」

「はあぁぁ⁉」

 思わず、普段出さないであろう大声を出してしまった。一体、僕はあの小説にどんなことを書いたんだったか。そうだ、深夜のテンションと非日常のテンションが混ざって一心不乱に書いていたが、よくよく振り返ってみると、彼女に元気になってもらおうと、彼女を想いながら歩いた旅のことを、彼女を想いながら書いた小説だった。つまり、ほぼ告白のような内容になっていてもおかしくはない。

「ち、違うんだ。いや、違くはないかも知んないけど、そういう意味で書いたんじゃなくて、僕はただ君に元気を出してもらおうと……」

 視線をあちこちにさまよわせながら、言い訳がましく言葉を羅列していると、彼女の方から、くっくっくっという音が聞こえてきた。どうやら、彼女は笑いを抑えているらしかった。でも、それも耐えきれなかったのか、数秒後には声を出して彼女は笑った。

「あははは! いや、ホントにユウは気持ち悪いなー! らしいと言えばらしいけど、それにしたって……あははは!」

 思いっきり僕をバカにしてくる彼女に流石にムカッっときて、何か言い返そうと思って彼女の顔をみた。

 そこには、以前の彼女の眩しさがあった。明るい笑顔で、僕を孤独の世界を照らして、連れ出してくれた彼女だった。刹那、彼女の目から、水滴がつぅと流れた。

「……ありがとね、ユウ。なんか、元気もらっちゃった。絶対、ユウと一緒に、この物語の舞台に行ってみたい……そう思っちゃった。」

 手の甲で涙を拭った彼女の顔には、もう余計なものはない、明るい笑顔が浮かんでいた。

「きっと手術も成功するんだって、なんか確信しちゃった! 手術が終わったら、絶対に一緒に新島行こうね! 約束だよ!」




 7




 僕は揺れる船の甲板で、眩しい朝日に照らされながら、潮風を浴びていた。今日は月曜だから、いつもならちょうど、重い足取りで高校へ向かっている時間だ。甲板には、僕の他にもう一人、女の子がいた。僕は彼女に声をかける。

「なあ、わざわざ平日に来なくたっても、良かったんじゃないか」

「だって、前にユウが来た時とできるだけ一緒がいいじゃん! ロマンチストなユウならわかるでしょ!」

 彼女の笑顔はとても眩しくて、僕はおもわず顔をそむけた。

「ちょっとー、何で目をそらしたの? あ、そっか。まだユウは、女の子の顔も見れないようなウブ男の子だもんねー」

「……別に。海に朝日が反射して、ちょっと眩しかっただけだよ。」


僕は一人旅が好きです。そしてこうしてたまに小説を書いています。

つまり、この主人公のモデルは僕! 恥ずかしっ!!!


香住みたいな女の子とは、当然出会っていません。

本当に一人で旅するのが好きなので、何も問題はないです。そのはずです。



……お読みくださりありがとうございました。


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