表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女なんかじゃありません!  作者: はる乃
本編第一章
5/33

【アークの初恋】



その日。アーク・ハワードは仕事の合間に、王宮にある神殿へ訪れていた。幼馴染である、ジェレミア・ローレンスと共に。


神殿は王宮の奥にある為、普段は誰もやって来ない。人が来るのは、週に一度ある祈りの日と、年に二回ある、一般公開の日のみ。


しかし、彼、アークは度々ここを訪れていた。理由は『彼女』に逢う為。


一緒に来たジェレミアが、アークに色々と話し掛ける中。初恋を拗らせてると言われて、若干の苛立ちを覚える。



(どうせ拗らせてるさ)



アークの初恋は、アークがまだ十歳にも満たない頃。父親に連れられて、初めて王宮へやってきた時だ。


他の貴族の子供達と中庭で遊んでいて、いつの間にか迷子になり、神殿へと迷いこんだアークは、聖女を見つけた。



クリスタルに覆われ、その身の時を止めてしまった聖女。


千年前の大戦で、彼女は魔王を封印し、その命を落としたと言われている。だから、ここにあるのは、彼女の器だけ。空っぽの器だけなのだ。


けれどアークには、空っぽの器だなんて思えなかった。神殿上部にあるステンドグラスから、虹色の光が差し込み、彼女が輝いて見える。


まるで今にも、その瞳が開きそうで。



『聖女、様……』



幼いアークの胸に広がる、じんわりと甘い、ほのかな恋情。

アークは自分の家族が大好きだ。けれど、ただひとつだけ悔しく思った。何故自分は、聖女と同じ時代に生まれなかったのかと。もし、聖女と同じ時代に生まれていたなら。そして自分が立派な騎士であったなら。

聖女であった彼女を、守れたかもしれないのに。



『貴女に、逢いたいな……』



彼女はそこに居るのに、そこに居ない。

アークにとって、それは甘くも苦い初恋になった。決して届くことのない想い。

こんなに近くに居るのに、彼女の魂は、ここには無い。


幼いアークは自分を捜しに来た友人達と、その場を後にした。

その後、アークは騎士になるまで、一度もこの場所を訪れなかった。いつまでも不毛な恋をしていても、仕方ないと分かっていたからだ。


しかし、騎士になってからは度々この場を訪れている。きっかけは、年に二回ある神殿の一般公開日だった。騎士になったアークは、一般公開日に警備の任に就いた。その際、数年ぶりに目にした聖女は、やはり思い出通りに美しく、あの日見たままに輝いていたのだ。



(我ながら、女々しいって分かってる)



けれど、今はまだ、想っていたい。

例え、彼女の瞳が開かずとも。


きっときっと、魂はそこにあると信じているから―――……


その日。

アークの宝石のような碧色の瞳の奥に、美しくも獰猛な熱が灯った。





そうして現在、アークは彼女の瞳の色を知る。


同じ時代に生まれたなら

自分が騎士であったなら




(―――嗚呼、神よ。だから、私は………!)




アークは静かに、歓喜に震えた。

熱く激しい想いを、ほんの少しさえも溢すまいと、必死にその身を抱き締めて。




* * *



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ