【月の色は赤紫色】
少し短め?
花がアッシュと夢で出逢っていた頃―――
魔王達は自分達の居城へと戻っていた。
カラトスが王宮で見た事を、その場にいなかったアダマインとリーシェに話せば、2人も庭園でのカラトス同様、顔色を変えて怒りを露にした。
「そんな!!リリーがまた人間共に利用されているだなんて!!」
「なんて事でしょう……!早くリリーを助けださなければ!!」
「そうですよ!リーシェの言う通りです!!カラトス!!何故その場で奴等を殺し、リリーを助けなかったのです?!今の人間共なんてゴミ同然だというのに!!」
アダマインが声を荒げてカラトスを責めると、魔王であるカオルがスッと片手を上げてソレを制した。
「アダマイン、一旦引けと命じたのは俺だ。カラトスのせいではない」
「な、カオル様?!」
「だからそう責めてくれるな。悪かった。あの女がそんなに大事だとは知らなかったからな」
「か、カオル様!!こんな私奴にそのようなお言葉、恐れ多うございます!!……ですが、失念しておりました。カオル様は蘇る前の記憶を、未だ思い出せていらっしゃらないのですね」
「ああ」
アダマインの言葉を聞いて、カオルの胸の奥が疼いた。
『未だ思い出せない記憶』
ソレを思い出せたなら、この違和感は無くなるのだろうか。そして、その思い出せない記憶とは、リリーという女の事なのか?
カオルは側近達を見て視線を巡らせながら、しばし逡巡した。
「……リリーという女と何があったのか気にはなるが、自力で思い出してみたい。故に過去の事は、今は話すな」
「!」
「そんな!……では、リリーは?!」
「逸るな。何もしないとは言っていない。……とりあえず、助けた方がいいんだな?」
「はい!!」
「カオル様!!それでは……!!」
アダマイン、カラトス、リーシェが嬉しそうに紅色の瞳を輝かせる。リリーに怪我を負わされたローゼだけが、頭上に?マークを浮かべて腑に落ちないといった顔をしていた。
「ねぇ、俺にはさーっぱり分かんないんだけど」
ローゼの声を聞いて、リーシェが忘れていたと言わんばかりの顔で、懐から回復薬を取り出した。それをポイッとローゼに向けて放り、「まぁ、ローゼはまだ生まれていませんでしたからね」と答える。
「カオル様、ローゼには話してもよろしいでしょうか?」
「ああ。ローゼは知っておいた方がいいだろう。リーシェ、頼めるか?」
「はっ!承知致しました」
リーシェはそう返事をしてカオルに礼を取ると、ローゼと共に別室へと消えていった。カオルは残ったメンバーにリリー救出を任せ、一人でバルコニーへと移動する。
空には星が瞬いていた。けれど、知っている星座は無いし、何より月の色が自分の知っているものとは違っていた。
―――『違っている』と、何故そう思うのか。
「月の色が……赤紫色?それに、今って何月…………何月??なんだ?何かが……」
何かが違う。
しかし、その『何か』が分からない。
「俺は本当に思い出せるのか?……それに、あのリリーとかいう女……」
ローゼの怪我を見た時、俺は面白くなくて苛ついて、あの女を睨んだ。
だが、あの女があまりにも―――ショックを受けた顔をするから、俺は焦った。
何故胸が痛んだのか。
しかも、その痛みは今も消えずに残っている。
どうしたら、この痛みは消える?
「……あの女が……リリーが俺の傍に居たなら、この痛みの原因も分かるだろうか」
そうしてカオルは月を仰いだ。
リリーと呼ばれる少女が、自分の傍らに居ることを想像するだけで、自分が驚くほど穏やかな表情をしていることになど、全く気付きもせずに。
* * *




