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聖女なんかじゃありません!  作者: はる乃
本編第二章
22/33

【魔王復活記念祭 終】



ゲートからジュレード王国へやって来たカオルとカラトス。王都上空を飛んで、魔物の被害に遭った街並みを見ていく。



「あーあ。大群引き連れて行った割りに、半分も壊せてねーなァ。リーシェは何処に行ったんだ?」


「カラトス」


「カオル様?どうかしましたか?」


「前にも思ったが、お前とローゼは俺の前でだけ口調を変えてるだろ」


「そうですね。ローゼはついこの間までガキんちょでしたし」


「別に変えなくていいぞ。普通にしゃべれ」


「……有り難い申し出ですけど、それはリーシェに言って下さい。カオル様への礼節を弁えろって口煩いのはリーシェなんで」


「そうか。分かった」


「カオル様、蘇って少し感じが変わりましたよね。前も身内には優しかったっすけど」


「よく分からんな」


「まぁ記憶が無いっすもんね。……リリーが全部持ってってくれたのかもな」


「見えたぞ。あれが王宮だな?ところで、リリーとは誰だ?」


「なんでもないです。ええ、あれが王宮ですよ。ローゼは……庭園か?」


「行こう」



カオルとカラトスが王宮の上空で停止し、庭園を確認してからフワリと地に降り立つ。庭園に咲き誇っていた花々は魔物に踏み荒らされて目茶苦茶になっていたが、花が魔力を解き放った後、僅かだが踏み荒らされた場所に再び緑が芽吹き始めていた。


カオル達から少し離れた位置にローゼが居た。深くはないが怪我を負ったらしく、片膝を地面につけて屈んでいる。ローゼは目を見開いて、真っ直ぐに花を見つめながら、呆然と口を開いた。



「……何なんだよ、お前。こんなの、聞いてないぞ。こんな…………この俺が、こんな……っ!!」



ローゼが悔しそうに眉間に皺を寄せて口元を震わせていると、遠くから沢山の足音が聞こえてきた。恐らく出陣要請を受けた魔術師団の者達だろう。アークもクラウスも態勢を建て直し、花を庇うように前に出る。


しかし、僅かに生まれた余裕はすぐに消えてしまう。カオルとカラトスの存在に気付いたからだ。

アークが「新手かっ!」と顔色を険しくし、クラウスが「今日はなんて日だ!」と悪態をつく。


そんな中、花は言葉を失っていた。


どう見たって現れたその人は、花が捜そうと決めていた、兄である薫その人だったから―――



「魔物達を一掃したのはお前か?」


「……っ」


「見たところ、普通の人間に見えるが……ローゼ、本当にコイツがやったのか?」



カオルはそう言いながら、花へ冷たい視線を向けた。すると花は、凍りついたように固まり、酷くショックを受けた顔になる。その顔を見て、胸がチクリと痛むものだから、カオルは訳が分からないまま首を傾げた。



(何だ?この女。……何処かで……)



カオルが前にも感じた違和感を思い出していると、傍に居たカラトスが明らかに狼狽えた様子で「嘘だろ」と言った。驚愕に染まるカラトスの顔色に、カオルの思考が中断する。



「まさか……リリー?」


「……え?」


「カラトス、どうしたんだ?まさかこの女、知り合いなのか?」



リリーと呼ばれて、花が戸惑っていると、魔術師団の者達が到着した。第二王子のリアムと、副団長のロロエルを筆頭に、花やクラウス達に結界を張って攻撃態勢に入る。



「聖女様、クラウス殿下、お下がり下さい!!お2人とも、お怪我はございませんか?!」



魔術師の1人が花達の安否確認に声をかけると、聖女という単語を聞いて、カラトスの顔色が今度は激しい怒りに染まっていく。

そしてギリッと奥歯を噛み締め、クラウスや魔術師達を睨み付けた。



「貴様ら、また繰り返すつもりなのか?!また、リリーをっ!!」



カラトスの怒り狂う理由が、カオルには分からなかった。怪我と悔しさで俯くローゼに肩を貸して立ち上がらせ、カオルが再びゲートを開く。

今度は勿論、自分たちの居城に繋がるゲートだ。



「カラトス、一旦引け。祭りは終いだ。行くぞ」


「……はっ。」


「あれ?!カオル様、いつここに?!」


「…………」



やっとカオルとカラトスの存在に気付いたローゼに、やや疲れた溜め息を零しつつ、先にカオルがローゼと共にゲートを潜る。そして、カラトスもゲートに手をかけて潜りながら、花に向かって呟いた。



「リリー、絶対に迎えに行くから。必ず。だから―――」



最後の言葉は、よく聞き取れなかった。

けれど、花には、確かに聞こえた気がした。



『待ってろよ』




その後、一気に大量の魔力を消費した花は、休息の為にと部屋へ戻された。どうやってお風呂に入り、いつネグリジェを着たのか、まるで覚えていない。侍女のマリーが側に居たことだけは覚えているが。


早々に横になって、ぼんやりとした意識のまま、先程のことを考える。



(―――一体どういうこと?)



カラトスと呼ばれていた魔族は、リリーのことを知っていた。リリーと彼等は一体どんな関係なのだろうか?


それに……



「ローゼって魔族が、あの人をカオル様って呼んでた」



やっぱり、あの人は薫兄さんなんだ。もしかして、私と違って記憶が無いとか?でも、それなら名前自体覚えてないよね?それとも。



「名前だけは覚えてた、とか?」



私は聖女で、薫兄さんが魔王。

それって絶対敵同士って思っちゃったけど。



「迎えに行くって、言ってたよね。なら……」



また逢える?

私達は、敵同士ではない?




花が思考を巡らせていると、コンコンとノックの音が聞こえた。花が「どうぞ」と答えると、クラウスとリアムが部屋の中へ入ってくる。



「ハナ、休んでいる時にごめんね。少しいいかな?」


「大丈夫ですけど……何かご用ですか?」


「用って程でもないんだけどさ」


「?」



クラウスはそう言って、室内の閉じた扉に凭れ掛かるようにして立ったまま動かない。まるで退路を断つかのように。反対にリアムは、何故か花の寝ている天蓋付きベッドの近くまで歩み寄って来た。何やら様子がおかしい。不穏な気配を感じ取って、花は上体を起こして身構える。



「……本当に、何のご用ですか?」


「そんなに警戒しないで。実は、ジュレード王国には王族のみに伝えられ続けている伝聞があるんだ」


「伝聞?」


「ああ。……あの魔族が言っていたこと、貴女には何も分からなかっただろう?」


「え?……その伝聞を聞けば、分かるのですか?」


「そうなんだ。だから……」


「?!」



リアムの掌に、突如浮かび上がった魔法陣。それを額に押し付けられた瞬間、花は意識を失ってしまった。



「……悪いが、私達は貴女を失う訳にはいかない。あれだけの魔物を瞬時に滅してしまう程の力を持った貴女を」



既に花には聞こえていないが、リアムは少しだけ悲しげに、その瞳を揺らした。



「魔物達を消した後、やって来た2人の魔族のことは記憶から消去。書き換え。貴女は魔力の使い過ぎで、再び魔力切れとなり倒れた」



リアムの言葉が、花の記憶に上書きされていく。クラウスはその光景を扉の前でじっと見つめながら、「他のことは刷り込むなよ」と釘をさした。



「……例えば?」


「自分が婚約者だとか」


「成程。それは妙案だ」


「……おい、コラ。リアム」


「はは、冗談だ。でも……」


「?!」



リアムは寝ている花の唇に、そっと自身の唇を重ねた。クラウスがそれを見て、素早くリアムの側までやって来て、リアムの胸ぐらをグイっと掴んだ。



「……リアム、今のは何の真似だ」


「本当に魔力切れ寸前だったから、私の魔力を与えただけだ。意識のない人間に、飴玉はあげられないだろう?」


「……次やったら許さない。ハナの婚約者には、私がなるのだから」


「それはどうだろうな」



クラウスとリアムが言い争っている中、意識を失ってしまった花は、また夢を見ていた。


目覚めたら、きっと忘れてしまうだろう、その夢は……幸せな夢だった。

花の閉じた瞳から、涙が零れ落ちていく。意識はない筈なのに、花は必死に抗っていた。



この幸せな夢を忘れないように。


強く強く、抗い願いながら―――……




* * *



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