【魔王復活記念祭④】
前半、佳乃と薫の過去話。短め。
『お兄ちゃん……』
『大丈夫だ、佳乃。お兄ちゃんが守ってやるから』
子供の時は、兄さんがいつも私を守ってくれた。私が小学2年生、薫兄さんが小学6年生の時に、私のお母さんと薫兄さんのお父さんが再婚。
私達は兄妹になった。
最初は両親も幸せそうだったのに、それは徐々におかしくなっていって、私が3年生になる頃には、両親は喧嘩ばかりしていた。
父さんはまだ良かった。普段は仕事に行っているし、生活費はちゃんとくれた。その他は何もしてくれなかったけど、何もしてこなかったから。家事は私と兄さんとで分担してやった。
……問題は、お母さんの方だった。
彼女はお酒が入ると人が変わってしまい、私に対して怒鳴り散らしたり、暴力を振るったりした。いくらお酒を止めてと言っても、家に誰も居ない時に飲んでしまうから無駄だった。しかし、兄さんに対しては嫌味を言うだけに留まっていた。彼女の中では、好き勝手していいのは実の子である私だけだったのだろう。
集中的にやられる私を、兄さんはいつも守ってくれた。お母さんは間に兄さんが入ると、少しだけ正気に戻るようで、大体そこで引き下がったから。『私が悪いんじゃない!!』と言いながら。
そんな両親が、何故いつまでも離婚せずに居たのかは分からない。
私が高校生になった時に、そんな最悪の状態の両親は、珍しく一緒に出かけて行って事故に遭い、2人ともそのまま逝ってしまった。
――私は心底安心した。
こんな風に思うのは間違っているのかもしれない。相手がどんな人間だろうと、死んでしまった事に対して安心するだなんて。けれどあの人達が……お母さんが居なくなって、私は初めて息が出来るようになった気がした。
その頃には、兄さんももう就職していたし、私もバイトをしたりして、2人で生活するのに何の支障もなかった。やっと訪れた平穏。まだ時折、悪夢に魘されたりもしたけど、そんな時は兄さんが傍に居てくれたから。
『また怖い夢を見たのか?』
『……ごめ……、兄さん……』
『謝るな。大丈夫、お前はずっとずっと俺が守ってやるから』
『……私、いつも守ってもらってばかり。これからは、1人でも何とか頑張るから』
『何言ってんだ。佳乃、俺はな、俺は、お前が居てくれたから……』
優しい表情、優しい声音。
いつもいつも、惜しみ無い愛情を注いでくれた人。薫兄さんが居なかったら、花咲佳乃は生きていけなかっただろう。
大好き。
薫兄さんが居てくれて、本当に良かった。
なのに―――
「魔物達を一掃したのはお前か?」
……どうして?
「見たところ、普通の人間に見えるが……」
そっちは敵側なんじゃないの?
「ローゼ、本当にコイツがやったのか?」
「……っ!!」
―――なんて冷たい目。
兄さんは、あんな目で私を見たりなんかしない。
だけど……
だけど、分かる。
あの顔も声も、兄さんのもの。
あの人の魂は……
私の大好きな、薫兄さんだ。
* * *