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聖女なんかじゃありません!  作者: はる乃
本編第二章
17/33

【セナリス・クロード】



深夜。王宮にある花の部屋から帰ったセナは、王都にあるアルスター伯爵家の屋敷へと戻っていた。


アルスター伯爵家当主のレミアス・アルスターが、セナに「セナリス様、おかえりなさいませ」と声をかける。セナは視線も向けずにスタスタと自室へ向かいながら「着替える」とだけ返した。



「後程、お茶をお持ちします」



執事のように恭しく礼をして、レミアスがその場を後にした。まるでセナが己の主人であるかのように。

自室に着いたセナは黒装束を脱いだ後、奥にあるバスルームでシャワーを浴び、寝間着ではなくグレーのシャツと黒のトラウザーズといった、スッキリとした普段着を身に纏う。



「……先に報告だな」



そう言うと、セナは美しい細工の施されたライティングビューローに向かい、レターセットにサラサラとペンを走らせた。

書き終えると、その報告書を封筒に入れて封蝋で閉じ、魔法をかける。



「この報告書をゼノ様に」



窓を開ければ、にょきっと封筒に羽根が生えて、風に乗ってふわりと飛んでいく。

ゼノ――隣国イルナリア帝国の皇子の元へ。



「ゼノ様。……貴方の願いが、叶わなければいいのに」



セナの瞳が、悲しげに揺れた。



* * *




セナリス・クロード。

彼はイルナリア帝国にて伯爵位を賜る貴族でありながら、表舞台ではジュレード王国のレミアス・アルスターを名乗っていた。


クロード家は古くからイルナリア帝国皇族の影として生きてきた一族だ。いくつもの国々に潜入し、密偵として帝国に情報を流す。そして必要とあらば暗殺も厭わない、イルナリア帝国の暗部。


クロード家の主君はイルナリア帝国の国王である、ゼガル・イルナリアだ。けれど、セナはその皇子であるゼノ・イルナリアを主君としていた。


数日前、密偵として聖女復活をゼノに報告したセナは、ある命令を受けていた。



『聖女をイルナリア帝国に連れて来い。どんな方法でも構わん。だが、もしもそれが叶わない時は――殺せ』



命令だから接触した。

そして、連れ帰るにしても死にそうな奴を連れ帰ったのでは意味がない。だからこそ自ら魔力入りの飴玉を用意し、聖女の回復を待っているのだ。


全ては主君であるゼノ様の為。


だが………



「セナリス様、お茶をお持ち致しました」



セナが思考の渦に沈んでいると、ノックと共にレミアスが声をかけてきた。



「ああ。入れ」


「失礼致します」



テーブルにお茶と焼き菓子を置いた後、レミアスはセナに視線を向けた。

レミアスは20代半ばの青年だ。セナと同じく藍色の髪をしているが、その瞳はワインレッドではなく橙色。

アルスター伯爵家は三代前の当主が帝国出身の優れた軍人で、身分を偽り平民としてジュレード王国へ移住し、騎士団に入団。何故か偶然王都郊外の森に現れた災害級の魔物討伐を指揮した功績によって当時のジュレード国王から伯爵の爵位を賜った。

その頃より繋がり続け、アルスター家はジュレード王国内における帝国の密偵筆頭であり、揺るぎない忠誠心を帝国の暗部クロード家へ捧げているのだ。



「セナリス様、どうかなさいましたか?だいぶお疲れのご様子ですが」


「いや……大丈夫だ。特に問題はない」


「それならばいいのですが。どうか御身、ご自愛くださいませ」


「ああ。……レミアス。お前も、もう休むといい。下がれ」


「はい、ありがとうございます。おやすみなさいませ」



レミアスが退室し、セナは淹れてくれた紅茶を手に取った。コクリと一口飲んで、先程考えていた花の事を思い出す。



「……何故、目覚めてしまったのか。ハナ。帝国にとっては僥倖になるやもしれんが、俺は……」



―――馬鹿みたいだ。


素直で、こんなに怪しい俺を簡単に信じてしまうなんて。でも、本当に馬鹿なのは……


きっと俺だ。



あの方の悲願も、ハナの運命も


俺には、変える事が出来ないから。



「せめて、俺が守ってやる。俺には、それしか出来ないから」



もうじき、空が白んできて、夜がだんだんと消えていく。それをほんの少し寂しく感じながら、セナはソファーで仮眠を取るべく、瞼を閉じた。




* * *



ストック無くなりました(早っ)更新ちょこちょこ遅くなるかもです(>_<)

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