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聖女なんかじゃありません!  作者: はる乃
本編第二章
15/33

【薫の記憶】



あの日あの時。

俺はいつも通り、いつもと同じバスに乗っていた。

妹と一緒に。


いつもの風景。いつもの会話。


最近、妹が少し痩せたように思う。本人は喜んでいるみたいだが、俺としては痩せる前の状態でも十分だったと思う。特に太っていた訳でもないし、何より好きなものを我慢する辛そうな顔を見るより、好きなものを食べてにっこりしている顔の方が可愛くて好きだ。


友人にはシスコンだと言われている。しかし俺は気にしない。シスコンばっち来いだ。可愛い妹を可愛いと愛でて何が悪い。

妹離れのきっかけに妹を紹介しろという奴は皆死ねばいいと本気で思う。実際、高等部の時にそうふざけて言ってきた同級生は■■■して■■■■してやった。


とりあえず俺達の街にはもう居ない。



そんな感じで、その日も平和だった。

平和だと思ってた。なのに……



駅に向かうバスの中で妹と会話しながら、もう少しで十字路だなと思っていた時、『ソレ』は起きた。



『―――え?』



最初に気付いたのは妹だった。

妹が窓の外を見て、目を見開いている。次いで俺も窓の外を見た。


目に飛び込んできたのは、赤信号なのに速度を落とさず突っ込んでくる大型トラック。



―――ふざけんな。



ずっとずっと守ってきたんだ。

これからだって、そのつもりなんだ。

こんなところで終わらせない。


こんなところで―――



俺は持っていた鞄を放って、必死に手を伸ばし、妹を抱き締めた。


絶対守る。

絶対助ける。


妹は、佳乃は、俺の大事な―――――



…………………………


…………



『……よ……しの……』



焼けつくような喉の痛みに血反吐を吐きながら、やっと絞り出せた一言。腕の中に居た筈の佳乃は、俺から少し離れた場所で倒れていた。


佳乃の口が、微かに動いた気がした。


早く、早く佳乃を助けたいのに、俺の身体はまるで焼けるように熱くて。でも凍えるように寒くて。



佳乃


俺の大事な宝物。


お前が居てくれたから



だから、俺は―――…………




………………………………


…………



そうして『俺』は死んだ。

意識が深く深く沈みこんでいく中、何かをずっと掴んでいた気がする。


温かく、細い、帯のような何か。

まるで一筋の光のような『ソレ』は、ある所まで行ってから消えてしまった。




* * *




深い深い森の奥に聳える古城。

そこの最上階にある一室で、魔王―――カオルは、美しい彫刻の施された椅子に座った状態でゆっくりと目を開けた。


目を閉じていたのは、ほんの数秒の間。その間に、カオルは夢を見ていたようだ。



(……白昼夢?内容は思い出せないが)



何故だか胸が苦しい。

カオルは胸の辺りを服の上からくしゃりと押さえ、僅かに眉根を寄せた。

側に控えていたリーシェが、カオルの様子に気付いて声をかける。



「カオル様、お疲れですか?まだ復活されて間もないですし、少し横になってお休みになられては?」


「いや、大丈夫だ。疲れてなどいない。ただ……」


「?」


「記憶が無いせいか?……妙な違和感が消えない。記憶を思い出せば、この違和感は消えるのか?」


「違和感、ですか」



カオルの言葉に、リーシェが考え込むように自身の口元へ片手を当てていると、突然目の前の空間が歪んだ。そしてカオルとリーシェの前に、その歪んだ空間からローゼが現れる。



「カオル様!それならば、憂さ晴らしに人間を襲撃しましょう!魔王様復活記念祭!!」


「ローゼ、貴方という人は……。いくらカオル様の役に立ちたいからといって、盗み聞きはいけません」


「リーシェ、固いこと言うなよ!お前ばっかりカオル様の側にいてずるいぞ!!」


「200歳くらいの小童が何言ってるんです。見た目が青年期になったからって調子に乗ってますね?吊るしますよ」


「何だとぉ?!リーシェは復活記念祭したくないの?!」


「………………コホン。いえ、誰もしたくないとは言ってませんし」


「ブフッ!」


「「?!」」



リーシェとローゼのやり取りに、思わず吹いてしまったのは魔王であるカオルだ。表情はそれほど崩れていないが、口元を片手で覆い、僅かに肩を震わせている。

そんなカオルを見て、リーシェとローゼは驚き、ぽかんとした顔になる。



「お前等、仲が良いな。……お前等を見ていたら気分が良くなった。いいぞ。復活祭、だったか?それをやろう」


「カオル様?!」


「やった!カオル様、話わっかるぅ!!……じゃなくて!!ありがとうございます、カオル様!!」


「ああ」


「ローゼはカオル様への言葉遣いを教育し直さなければいけませんね。というか、カオル様。本当に……よろしいのですか?」



冷静なリーシェの口元が、無邪気なローゼの口元が、弧を描くように大きく歪んでいく。隠しようのない人間への憎悪。


カオルが美しい冷笑を浮かべて、リーシェの質問に答えた。



「ああ。この俺が許可しよう。……派手に殺れ!」


「「はっ!!」」



紅色の瞳が妖艶に輝いた瞬間、リーシェとローゼは音もなく消えていた。魔王復活の狼煙を上げる為に。


彼等が狙うは、魔王封印の原因となったジュレード王国。そこで彼等は知る事になる。


復活したのが、魔王だけではないという事を。




* * *



ブックマークに入れて下さった方々、ありがとうございます!!長編の予定なので先は長いですが、無事に完結までいけるように頑張ります!(^-^)

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