【魔王の復活】
ずっとずっと、お前だけを愛してる
例え全てが壊れても
誰に何を言われようとも
お前だけを
だから
だから
だから
『邪魔をしないで。私が止めを刺します』
『駄目だ!分かっているだろう?君の魔力はもう限界なんだぞ?!』
『……っ!大丈夫。だから、手を出さないで!!』
『しかし、これ以上は君が―――……!!』
はは。
あんなに苛ついて……
つくづく可愛い奴だ。
ああ、早く早く手に入れたい。
だから
早く、『 』―――……
* * *
深い深い森の奥。
そこに、昔は立派だったと思われる古びた城が聳えている。その城の最上階にある部屋では、混沌とした魔力が渦巻いていた。
中心にある寝台の周りには、4人の魔族達が歓喜に打ち震えている。
「嗚呼、嗚呼!ようやくこの時がやって来たのだ!!」
「魔王様が復活なされる!!」
「魔王様!!」
寝台の上には、辛うじて人の形をした者が横たわっている。見た目はまるで腐りかけの死体のようで、僅かに残る肌は土気色だ。そのあまりにもおぞましい身体が、渦巻く魔力によって綺麗に再生していく。
青白く光を発しながら、骨も、臓器も、筋肉も、肌も、髪も、全て美しく再生し、土気色だった肌は白く、そして肌は滑らかに。
薄っすらと瞳を開けると、その色は一点の曇りもない漆黒で。上半身を起こすと、伸びた髪がサラリと揺れた。
「……ここは、どこだ?」
蘇った男がそう疑問を口にすると、周りにいた魔族達は一斉に膝をついて頭を垂れた。彼等の瞳には涙が滲んでいる。
「よくぞ、よくぞ蘇って下さりました!この時をどれだけ待ち望んだことか!!」
「魔王様!!千年ぶりでございます!!わ、私を覚えていらっしゃいますか?アダマインでございます!!」
「……っ!お前達、嬉しいのは分かるが落ち着け。魔王様は復活されたばかりなのだぞ」
「あ、ああ。そうだな!すまない、リーシェ」
「魔王様、ここはかつて魔王様が拠点にしておられた城のひとつでございます。魔王様が封印されてしまった後、私達が此方へお運び致しました」
「どれだけ私達が魔力を注いでも封印に阻まれ、お身体が少しずつ朽ちていくのを止められず……!申し訳ありませんでした!」
「…………」
魔族達が涙で頬を濡らしつつ、そう寝台の男に説明する中。寝台の男――魔王様と呼ばれる当の男は、表情ひとつ変えず、説明を受けながらも全く何も理解出来ていなかった。
(何言ってんだ、こいつら。魔王?魔王……。俺って魔王だったっけ?)
何ひとつ思い出せない。
男は少し考えてから、すぐに思い出す事を諦め、「悪いが何も思い出せん」と素直にそう告げた。
「なんと!!記憶を無くしてしまわれたのですか?!」
「くそっ……千年もの間、封印されていたせいか?忌ま忌ましい人間共め!」
「魔王様、何も不安に思う事はございません。魔王様の魔力は完全にお戻りになったご様子。記憶もじきに思い出すことでしょう」
「そうか」
「はい。……ああ、なるほど。もしかすると、記憶を無くしてしまったから魔王様のお顔が変わってしまったのかもしれませんね。多少魔力のお色も変わられていらっしゃいますし。ですが、この気配は間違いなく魔王様のもの。今のお顔も大変見目麗しく魅力的でございます……!」
「……そうか」
魔族達はどうやら盲信的に魔王を敬愛しているようだ。男に見た目が魅力的だと言われても、正直嬉しくも何ともない。むしろ複雑な心境だったが、あまり波風を立てない方がいいだろうと判断し、特に深くは突っ込まなかった。
魔王がしばし考えを巡らせていると、魔族達は自分達を忘れてしまった主の為に、自己紹介をすることにしたようだ。魔王からよく見えるように、立ち上がって横一列に並ぶと、向かって右の魔族から話始める。
「私はアダマインと申します!属性は水。今までもこれからも、未来永劫魔王様に忠誠を捧げます!!」
「私はローゼでございます!属性は火。……魔王様にお仕え出来るとは、夢のようでございます!!」
「カラトスです、魔王様。憎っくき人間共に裁きの雷を下し、根絶やしにするならば、是非とも指揮は私にお任せを!」
「逸るな、カラトス。奴等への裁きならばジワジワいこう。―――魔王様、私はリーシェでございます。先代の頃より、永く永くお仕えして参りました。お許しくださるのならば、これからも魔王様にお仕えしたく存じます。……千年前は魔王様のお力になれず、申し訳ありませんでした」
彼等魔族の容姿は皆一様に美しく妖艶で、黒髪に血のような紅色の瞳をしている。それぞれ違う点は、アダマインは腰まで届く程に髪が長く、瞳は切れ長。ローゼはこの中で1番若く、瞳が大きい。ふわふわとした髪の長さは首の辺りまである。カラトスは一人だけ肌の色が浅黒く、短髪で髪がピンピンと立っている。この中で一番の古株だというリーシェは少し長い髪を紐でひとつに縛り片側に流していた。綺麗な紅色の瞳は、長い前髪で片方隠れてしまっている。
そんな彼等を眺めつつ、魔王はゆっくりと寝台から降りた。蘇ったばかりな為に、逞しくも滑らかな彼の身体は何も身につけておらず、裸であった。
しかし、彼がほんの少し身体に魔力を籠めてイメージすると、瞬く間に黒い衣服が彼の身を包んでいく。その服は魔王が身に纏うにしては豪華さの欠片もないシンプルなものだったが、彼の従者であるリーシェ達は、彼のそんな装いさえも尊いものを見るようにうっとりと瞳を細めて感嘆の溜め息を零した。
色は真っ黒で、上はボリュームネックパーカー、下はデニムである。
そうして彼―――魔王は告げた。
何故か自然と口をついて出た、己の名を。
「俺のことは魔王ではなく、『カオル』と呼べ。いいな?」
「はっ!!カオル様!!」と、4人が揃って返事をした。
先程リーシェが言った、以前の魔王とは異なる、今の魔王の見た目。
髪だけは長くなっているが、その姿は生前の……
『花咲 薫』の姿そのものだった。
* * *
お兄様登場!私的にシスコン大好物です(笑)




