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聖女なんかじゃありません!  作者: はる乃
本編第一章
12/33

【聖女の名は】



「改めまして、私の名はアーク・ハワード。若輩ながら、騎士団長を務めております。聖女様、お許しいただけるのならば、聖女様の名を教えて下さいませんか?」



甘く蕩けるような瞳でそう乞われて、答えない乙女などいる筈もない。多分。


(中身20代でも乙女です、乙女。というか、その甘過ぎる声なんとかして……!)


俗に言う、耳が妊娠すると思う程の破壊力。佳乃は顔を真っ赤にしながら、アークから視線を逸らす。


(……とりあえず、名前だよね。一応は転生したって感じだし、名前は変えようかな?そうすると……)


佳乃が名前について考えていると、アークが遠慮がちに「駄目でしょうか?」と訊いてきた。

そんな子犬のような顔で卑怯だよ!!と、佳乃は叫びそうになるが、必死にそれを抑えて考えた名を口にした。



「いえ、駄目じゃないです。私の名は『花』です。聖女ではなく、花と呼んで下さい」



苗字の花咲から1文字取って、名を『花』とした。完全にカタカナな名前なんてすぐに思い付かないし、思い付いたとしても呼ばれた時に気付かないかもだし。なので、今この瞬間から―――


彼女は花咲 佳乃でも、聖女リリーでもない


【花】となった。



「ハナ様……!素敵なお名前ですね。お教えいただき、感謝致します。ですが、聖女様を呼び捨てには出来ません。ハナ様と、お呼びしても?」



幻覚だろうか。アークがキラキラと光って見える。佳乃、改め『花』は、「は、はひ……」と消え入りそうな声で了承の返事をし、更に耳まで真っ赤に染めて、こくこくと頷いた。


(なにコレ。見つめられてるだけで妊娠しそう……)


花がそんな事を考えていると、それまで黙っていたクラウスがアークを押し退けて、花の傍へと歩み寄る。

クラウスは牽制するようにアークを一瞥した後、柔らかな絨毯に片膝をついて跪いた。ゆっくりと、横になったままの花の右手を取る。



「聖女様。私も聖女様の名を呼ばせていただいても良いでしょうか?」


「はい、殿下。花と呼んで下さい」


「ありがとうございます。それと私のことは殿下ではなく、クラウスとお呼び下さい」


「え?でも、それって不敬にあたるのでは……」


「いえいえ!是非!クラウスと!!」


「え゛っ?!あ、では…………クラウス、殿下?」


「呼び捨てでお願いします。私も、ハナと呼ばせてもらいますから!」



クラウスは意図的にキラキラが出せるのだろうかと、疑問に思うほどに輝いている。後光が激しい。

そんなクラウスにずっと空気になっていたルイが、半眼ジト目で呆れた視線を向けていた。

ロロエルだけは今後の事で頭がいっぱいなのか、ブツブツ呟きながらずっと何か考え込んでいる。



「はぁ……分かりました。後で不敬罪だって言ってしょっぴかないで下さいね」


「しょっぴ……??」


「いえ、何でも……」


「?」



グイグイ来るクラウスへの対応に困りつつも、花は少しだけクラウスが可愛く思えた。


(クラウスは前世の私より年下だよね。王子様相手に失礼かもしれないけど、弟が居たらこんな感じなのかも?)


そう思って気持ちがほっこりするけれど、それと同時に胸の奥がチクンと痛んだ。

前世の兄である、薫を思い出したからだ。



(……兄さん)



早く、早く魔力を取り込んで、歩けるようにならなければ。



(また、兄さんに逢いたい。……いいよね?薫兄さん)



宝石のような雫が、花の瞳から一筋流れた。それを見たクラウスやアークが息を呑む音や、ロロエルが冷めた紅茶に口をつけようとするティーカップの微かな音。それらに花は気付かない。一滴涙が零れた後に、また眠ってしまったから。



深く深く沈む意識の中。

花は楽しくも悲しい、そして憎しみに染まった夢を見る。


この手を、幾千幾万の血で染め上げたとしても、決して譲れないものがある。



そう。だから、私は―――……




* * *




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