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聖女なんかじゃありません!  作者: はる乃
本編第一章
10/33

【魔力切れなんです】



そこには、ずっとずっと焦がれ続けていた彼女が居た。クリスタル越しなんかじゃない。いつでも触れる事の出来る距離で、ちゃんと目を開けてて、ちゃんと動いてて、ちゃんと生きている。


初めて目にした彼女の愛らしい瞳は眩い蜂蜜色で、紡がれる声音はとても可愛らしく耳に心地好くて、ずっとずっと聞いていたいくらい。


ああ、本当の本当の本当に、彼女は目を覚ましたんだ。


それなのに―――……




「ルイ。どういう事か説明してもらえる?」



こめかみの青筋ビキリ。



(私よりも先に彼女に名前を呼んで貰うとか、神が許しても聖女様がお許しになっても、絶 対 許 せん)



という具合に、クラウスは怒り狂っていた。まるで親の仇のように、腸が煮えくり返るぐらい、ルイに対して並々ならぬ怒りを燃やしていた。表面上はおくびにもその様子を出していないが、禍々しい魔力が渦巻いて、見るものが見ればあまりに恐ろしい光景に卒倒しそうな程だ。



「~~っ」



ルイはまるで断罪前の罪人のように真っ青だ。いつもの冷静な顔はどこへやら。クラウスのマジ切れだけは本気で苦手らしい。

何故かアークまでジト目でルイを見ている。イマイチ状況が掴めない佳乃だけは、「あの……?」と声をかけた。


すると、その声に反応したクラウスが一歩前へ進み出て、我先にと嬉々として自己紹介を始める。



「失礼。騒がしくして申し訳ありません。私はこのジュレード王国第一王子、クラウス・ジュレードと申します。クラウスとお呼びください、聖女様」


「えっ?お、王子様?」


「ふふ、そうです。ちなみに私の許可なく先に貴女のお耳汚しをしたのが、私の側近を務めるルイです」


「お、お耳汚し……」


「……殿下。一応申し訳ないとは思ってますが、刷り込み効果なんて期待するだけむ」


「黙れ♡」


「………」



「無駄ですよ」と言おうとしたルイの言葉に被さり、クラウスの黒い笑みが炸裂する。もはやルイは何も言うことが出来ず、青い顔のまま口を真一文字に引き結んだ。

そんなやり取りを横になったまま見ていた佳乃は、相変わらず状況は掴めていないが、少しだけホッとしていた。



(悪い人達じゃないみたい。それに……)



佳乃はチラリとアークに視線を向ける。この中で唯一、アークだけは見覚えがあったからだ。


話し掛けてみようか。そう思い、佳乃が口を開きかけるが……

後方に追いやられていた黒髪長髪のロロエルが、「そろそろいいか?」とクラウスに問い掛けた。



「俺は聖女殿の魔力について話がしたい。政治的な話は後にしてくれないか」


「ロロ。私は政治的な話をしに来た訳では――」


「そう!私、魔力切れなんです!」



クラウスがロロエルに言い返そうとした時、佳乃は思わずその会話に割って入ってしまった。ロロエルに「魔力について」と言われて、今の自分にとって一番大事な事を思い出したからだ。


そして「魔力切れ」という言葉を聞いて、彼等の顔色も変わった。

魔力切れは最悪の場合、死に直結するからだ。ルイやアーク、先程までにこやかだったクラウスさえも焦燥を浮かべて凍りつく。



「聖女殿。魔力切れとは本当か?」



そう切り出したのはロロエルだった。彼だけは一瞬眉根を寄せたものの、青褪めることなく冷静なままだ。



「はい、本当です。えーと、今は、生命活動を維持させることしか出来なくて。このままだと、私……」


「悪いが、少し額に触れさせてもらう」


「えっ」



問答無用で額に触れるロロエルに驚いて、佳乃はビクリと肩を揺らした。けれど、怪我や病気を医者に診て貰うのと同じで、魔力についてのことは、魔法使いに診て貰った方がいいと思い、特に抵抗はしなかった。ロロエルが魔法使いかどうかはまだ知らないが、彼の見た目は明らかに魔法使いといった体であるし、佳乃は前世での漫画やゲームの影響で、【ローブ=魔法使い】と思い込んでいた。


実際、その通りでロロエルは魔法使いなのだが。


しばらくそのままの状態でいると、ロロエルが小さく息をついて、静かに額から手を離した。



「本当に魔力切れだ。それも、軽度ではなく重度の。ずっと寝たままなのでおかしいとは思っていたが、起き上がることが出来なかったのだな」


「はい。……夜中に一度目が覚めた時は、起き上がれたんですけど」


「なるほど。そしてその時から全く回復出来ていない、と。……自己回復機能が著しく低下しているのか。このままでは……」


「「…………っ!」」



ロロエルは優秀な魔術師だ。今現在も王宮魔術師団副団長の地位に就いていて、次期団長は彼で間違いないと周囲から認識されている。

現状、魔術師としてはロロエルがジュレード王国のナンバー2なのだ。


そんな彼の診断に間違いは無い。

だからこそ、佳乃以外の他のメンバーは言葉を無くした。

重度の魔力切れ状態で自己回復機能も正常に働いてないとなると、待ち受けているのは【死】のみだ。


流石のロロエルも苦い顔をして口を噤むが―――……



【神】は、時として奇跡をもたらす。

その相手が聖女なのだから、これはもう必然だったのかもしれない。


黙り込む男達に、佳乃は「大丈夫」と告げる。



「私、特殊体質で外から魔力を取り込むことが出来るんです。なので、魔力を練り混ぜた食べ物をいただけませんか?」


「「「「……え?」」」」



四人は思いがけず、返事がついハモってしまった。

仲良しさん。



* * *



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