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◇
雫たちが任務を言い渡された次の日
マーベルの研究室にて
「あの……」
ソフィアが不安そうな声を出しながらおずおずと挙手した。
「どうした?」
マーベルがコンピューターのような機械を操作しながらソフィアに聞き返す。
「私の『これ』……。というか、私のだけおかしくないですか!?」
ソフィアがマーベルに詰め寄る。だが、マーベルは特に気にした様子も無く機械の操作を続ける。
ソフィアが『これ』と言った物。それはソフィアが今着ている『服装』のことだった。
「私のだけ明らかに皆さんのと違いますよねぇ!? なんかどう見ても適当にそこら辺に落ちてた金属張り付けただけなんですが!!」
そう言ってソフィアは大きく両手を広げて自分の身体を見せるようなポーズをとる。
ソフィアの服装はどう見ても異様なものだった。
頭部以外の全身を黒いラバースーツのようなものを纏っており、その上から動きの邪魔にならない箇所を一目で堅そうとわかる金属のような物で覆っていた。
「しょうがないじゃん。昨日の今日でいきなり準備出来ないって」
同じようなスーツを身に纏った雫が、唇を尖らせながらそう言った。
よく見るとソフィアのスーツは金属のパーツが左右非対称でサイズもバラバラであった。それと比べて雫のスーツは戦隊モノに出てもおかしくないくらい整った、キレイなデザインをしていた。
「じゃあ交換してくださいよ!」
「サイズが違うじゃん。……まあそう怒んないでよソフィアさん。見た目はともかく、性能はコッチのとそんなに差はないから」
「ほ、本当ですよね……!? な、なんか明らかにゲームで言うところの初期装備と最終装備くらいの差があるように見えるんですが……」
ソフィアは改めて自分の着ているスーツを見回す。やはり雫の着ている立派なスーツと比べるのが恥ずかしい見た目であった。
「文句言うなよヴェジネ。なかなか似合ってるぜ?」
横から現れたカービーが意地悪そうにニヤリと笑う。そして手に持っていた分厚い板のような物を顔に近づける。すると駆動音と共に上下左右に板が広がり、カービーの頭部を包み込んでいく。
「嫌味ですかッ!! ……というかそれですよそれ!! そのカッコいいヘルメット、私にもくださいよ!」
「ソフィアさんにもあげたじゃん」
雫は机の上を指差す。
「こんなのただのオートバイのヘルメットじゃないですか!!」
「失礼な。時間無くて可動式じゃなくなっちゃったけど、ちゃんとイチから造ったやつなんだよ?」
「私もあのウィーンウィーンって動くカッコイイやつがいいです!!」
「ダメだって。あのヘルメットはスーツとワンセットなんだから。予備のやつ付けたってスーツとドッキングできないよ」
「ウググググ……。が、我慢するしかないんですか……」
「今回は我慢してくれって。ちゃんとソフィアさん用のヤツも造ってるからさ」
「はい……。……というかこのスーツ、黒川君が造ったんですか?」
「そうだよ。マーベルにも手伝ってもらってるけどね」
「今はもうほとんどお前ひとりでやってるだろう」
ようやく機械から顔を上げたマーベルが会話に参加する。
「そんなことないと思うんだけど」
ちょっと照れたような、でもどこか得意げに雫がそう言った。
「ソフィア・ヴェジネ。このスーツもそうだが、彼らの使っている神機も雫が造ったものだよ」
「えっ!? そうなんですか?」
「ああ。最初こそ私が神機工学の基礎を教えたけどね。その後は凄まじいスピードで知識を吸収、応用していった」
「よせよ。褒めんなって」
雫が威張るように胸を張っている。
「神機工学……。また知らない単語が……」
「ああ、すまない。ようは神機を作るための方法だよ。それに関しては雫は天才と言ってもいい」
「……」
予想以上に褒められて困り出したのか、雫の目がせわしなく動き出した。
「……もっともその才能のうち少しでも戦闘力に振り分けてくれればよかったんだが」
「……持ち上げといてそれかよ」
不貞腐れた雫はそっぽを向くと、そのままカービーたち男三人が集まっている場所に行ってしまった。
「えーっと。この私のヴァルハニーロも黒川君が?」
「いや、それは違う。そのヴァルハニーロは神具というものでね」
マーベルが壁に立てかけていたヴァルハニーロを手に持った。