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「一人五万ルードずつ、前払いで渡すわ。任務が成功出来たらもう五万ルードずつ渡す。早い話がお給料ってことね」
「合計十万円分……」
「それだけありゃあ……」
「欲しかったものが……」
「いくらでも買えちゃう!?」
男四人はそれぞれ驚いたり興奮したり感嘆したりと様々な反応を見せている。
「あわわわわ……。じゅ、十万円なんて……。どうしたら……」
ソフィアは顔だけでなく身体全体をせわしなく動かしながら慌てている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 神具を見つけてくるだけで十万!?」
ハッとした雫が慌ててユノに訊ねる。
「なに? 足りないっていうの? 学生が持つには十分過ぎる金額だと思うけど」
「いや、違う!! 足りないって話じゃない! 探し物するだけでなんでそんな大金を……」
「なんで、って。簡単な話じゃない」
ユノが目を細めてグイッと身を乗り出してくる。その迫力に気圧されて雫が少し身体を引く。
「おつかいはおつかいでも子供のじゃないの。これは軍人として正式に私からあなた達に与えた任務なのよ。大人の世界のね。そこには責任が生まれて、それに見合う対価も生まれてくる」
「そ、それはわかった……! ただオレが言いたいのは────」
「軍人としてなのにどうして探し物をするだけなんだ、ってことかしら?」
再び雫の言葉を遮り、ネスが喋り出した。
「戦いに駆り出されるわけでもなく、ただ探し物をするだけでお給料を貰ってもいいのか、ってこともあるのかしらね」
「あ、ああ。まあそうだな」
言いたかった事を言われてしまい、完全に勢いが無くなった雫。どうもネスといると調子が狂う。
「確かにあなたの言いたいことはもっともではあるわね」
そう言うとユノが立ち上がった。自分の座っていたソファの後ろに回り込むと、背中で手を組み、部屋の端から端まで行ったり来たりしだした。
「軍属の兵士は戦ってこそ兵士。一般人にはそう思われていることが多いわね。……でもね。それだけが軍人の仕事じゃないのよ」
何回かの往復の後、ユノは自分のデスクの上に置いてあったファイルを一冊手に取った。それを持ってテーブルまで戻ってくる。
「人命救助や障害物の撤去、物資支援の運搬だけをしている部隊だってあるのよ」
ユノはファイルを開いてテーブルに広げた。
「「「「「……?」」」」」
雫たちはそれを覗き込む。そこには写真がフォルダリングされていた。
「これって……」
ソフィアが注目した一枚の写真。それは軍服を着た兵士が炊き出しをしている写真であった。
「軍属と言ってもいろいろある。戦うだけが兵士じゃないってことね」
「……そうか」
雫もファイルの中に収められている写真を順番に見ていく。武器を持って戦っている兵士の姿はどこにも映っていなかった。
「……で。オレたちは何の神具を探してくればいい?」
「ようやく本題に入れるわね」
ユノがスムーズな動作でソファに座りなおす。雫たちもファイルから視線を外し、ユノに注目する。
「あなた達に見つけてきて欲しいのは、これ」
そう言いながらユノは『パンッ』と手を叩いた。するとどこからかテーブルの中央に立体ホログラムのようなものが映し出された。
「……こんなハイテクなシステムあるんなら現像する写真なんて使わないでいいだろ」
「私はね。写真が好きなのよ。……ってこの話はどうでもいいの」
どことなく不機嫌そうな雫の言葉を受け流して、ユノは目の前のホログラムに手をかざす。
「見た目はこれと『ほぼ』同じはずよ。大きさは多分……、三十センチから五十センチくらいかしらね」
ユノが手を動かすとテーブルの上の空間に大量の文字が現れた。
「……」
興味本位からか、ソフィアは猫じゃらしにじゃれる猫のように、空中に浮かぶ文字を手で追いかける。だがソフィアが触れても文字は反応しない。
「なんじゃこりゃ……」
雫の目の前にあるそのホログラムで出来たモノは何やら妙な形をしていた。
形的には縦長の水筒のような、戦車の砲弾のようにも見えるものだった。