表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

襲来!巨大怪獣セミゼブラ

作者: 大天使 翔


時は三〇一八年一月某日。月が何者かの手によって破壊された。


 その瞬間を見た者は、挙って「突然、月を大きな光が貫いた」と証言した。


 その後、世界中では学者やメディア、宗教や政治家など様々な人の間で議論が交わさされるようになった。


 情報が錯綜する中、こんな説が囁かれるようになった。


「宇宙人説」である。ネット上では、そこに様々な情報が塗り重ねられた。


 そして一年後、太平洋沖に三センチ四方の小型隕石が落下した。隕石はそれから全世界に大小様々な大きさの隕石が落下していった。


 アメリカのある地政学を研究するチームが「月は地球上以外の兵器で壊された」と発表。それ以降、「宇宙人説」は決定的なものとなり、各国では宇宙人に対抗する協議が行われていった。


 


 三〇二〇年二月四日九時十二分 東シベリア海海上



 ここ、東シベリア海は極寒のため空気が澄み、様々な物がよく見える。


 東シベリア海第一輸送船の艦長、ハイベルトは艦艇の管制室の小さな丸窓から海を眺めていた。          


 精悍な顔立ちと曇りなき瞳に映るすべての自然は、その本性を隠すことなど出来なかった。


「ラルフ君、状況は?」


「異常ありません。」


「うむ。」


 管制官のラルフ二慰が言うと、ハイベルトは隅にあった椅子をラルフ二慰の隣まで持ってきて座った。


 ハイベルトはポケットから水筒を取り出すと、蓋を開けながら言った。


「妻が毎日庭で育てている三十二種類の自家製ハーブをブレンドした、題して、「特製ママのラブラブエキス」だ。わざわざ出航の日に、航海日数百十五日分、百十五種類のハーブをブレンドしてくれた百十五本の水筒から、ランダムに自分の部屋から持ってきている。


 蓋を開けると、顔を水筒に近づけながら言った。


「んーさすがママだ。航海中の任務で疲れているだろう私を気遣って、きちんと一年間保温用の水筒にしてくれているから、1か月経っていてもママの温もりを感じる。あー良い匂い。」


 艦長が立ちながら酔いしれていると、ラルフ二慰が言った。


「艦長、あなたは一応ここのトップなんですよ。きちんとしてもらわないと。まだトラブルは発生してないとは言え、ここは極寒の東シベリア海です。いつ何が起こるか分かりません」


「いやーいつも君は僕に厳しいねえ。ひょっとして僕のことが好きなのかな?」


 艦長が彼女を覗きながら言うと、そこには、シベリアの海も氷り返してしまうような冷徹な目があった。


「は、はは・・・ははははじょ、冗談だよ君。たとえ君が僕のことを好きでも、僕には愛する妻と子供がいるんでね。ちょっと無理かな・・は・ははははは」


「報告書のデータ、艦長のデスクに送っておいたので確認お願いします。じゃ、私はもう今日は上がらせてもらいますね。お疲れさまでした」


 彼女は立ち上がると、キビキビと管制室を出て行った。


「お、お疲れ・・・はぁ」


 後ろ姿が見えなくなると、艦長は彼女の席にゆっくりと座った。すると、彼女の隣の席のロバートが言った。


「彼女、この前の航海でいなかった時に彼氏が浮気しちゃってたらしいですよ。家に帰ると彼氏と浮気相手の女がベッドでいちゃついてて、彼氏の方をぶん殴って二人とも家から追い出したそうですけど、後になって彼氏が泣きついてきて許したそうです。今回も浮気しないかどうか気が気でないんでしょう。」


 艦長が体を向いて言った。


「ちぇ、あいつ男がいたのか。どうりで俺の誘いにも乗って来ないわけか。」


「でも艦長、奥さんと子供までいるんでしょう?」


「もちろん、あいつらも愛してる。だが、俺は出来るなら彼女も愛したい。愛に結婚も糞も無いのさ。」


「はぁ、言ってる意味がよくわかりませんが。」


「フッ。お前も時期にわかるさ。」


 艦長はゆっくりと立つと、高らかな笑いを上げながら管制室を出て行った。



 三〇二〇年2月五日午前2時0分 西シベリア低地上空・高度一六〇〇〇フィート



 月の明かりが消え、漆黒と化す空から一筋の光が現れた。人口衛星はその姿を捉えていた。


 全長1000メートルはあろうか、その鉄の塊は直視できないほどの高熱の光をまといながら超高速でシベリア大陸へと落下していた。


 何の因果があるのか分からないがその生物、いや、兵器はセミのような出で立ちをしていた。


 後に「セミゼブラ」と命名され、世界中の人々から恨まれることになるその兵器は、北半球の人々が寝静まっている頃、刻々と大地に現れんとしていた。高度5000フィート、4000フィート、3000フィート・・・。


 午前2時0分57秒、セミゼブラは下腹部の3つのブーストを使い、大気圏突入時の速度を相殺し、シベリア大陸へと降り立った。


 その時、ブーストのエネルギー噴射によりチェメニ油田が吹き飛んだ。



 三〇二〇年二月五日午前四時三八分・艦長室



 ドンドンドンと誰かが激しく扉を叩く音がした。


「艦長!艦長!起きてください!艦長!」


「何だよぉ、うるさいなぁ。もう朝か?」


 目を凝らしながら時計を見ると、針は四と五の間を指していた。


「なんだ・・・まだ四時じゃないか。もうちょっと寝かせろ。」


「艦長!一大事です!宇宙人が攻めてきました!」


「・・・宇宙人?宇宙人!」


 ハイベルトは飛び起きると、ドアを開けた。


「艦長、一大事です!全長一〇〇〇メートルの巨大兵器が西シベリア低地に上陸しました。上陸の際、ブーストから莫大なエネルギーを放出したもんで、チェメニ油田が吹き飛んだそうです。あと・・もう色々大変で・・・取り合えず来てください。」


「わ、分かった。すぐ行く。」


 ハイベルトは寝間着から制服に着替えると、艦長用の帽子を身に着け、管制室へと向かった。


 管制室に着くと、船員達が慌ただしく動き回っていた。


「ラルフ二慰、一体全体何があったんだ。」


 ヘッドホンを耳に当てながら、ラルフ二慰が言った。


「本部からの連絡によると地球以外の兵器がスルグト付近に着陸したそうです。その際、周囲二〇キロメートルの地形が球状にめくれたそうです。死者はスルグトの住人約4万人。チュメニ油田は再起不能です。」


「何?本部があるオムスクとほとんど離れてないじゃないか。本部からの指示は?」


「分かりません。」


「分からない?でも君、さっき本部からの連絡があったと言ったじゃないか。」


「連絡があったのは三〇分前です。さっきからずっと応答を待っているのですが、ノイズ音しかありません。」


 ハイベルトは顎に手を置いて思案しながら言った。


「うむ・・・当艦はアメリカへの軍事輸送船だ。太平洋戦争から一〇〇〇年以上経ち、しがらみが消えた両国だが、未だに絶大な力を持っている。何がどう作用して今の関係が崩れるかわからん。うむ、よし、ロバート!全艦隊に伝えろ。当艦は予定通りホープ岬へと向かい、物資を輸送する。」


「了解!」


 


 三〇二〇年二月四日午前四時一二分・対アメリカ輸送本部



「おい!なんだこいつは!」


「ひいー誰か助けてくれー」


 ピンク色で体長5メートルはある簡易型バイオ生物・モココが大の大人をどんどん飲み込んでいく。血は一滴も流さずに黙々と飲みこんでゆく。


 その生物は弾性力を使いながらジャンプし、移動していた。着地する度に地面に亀裂が入る。


 人口三十万人の都市・オムスクは土地の痩せた広大な平原が周りにあるため、小麦やイモなどが若干とれるたり、針葉樹での生態系を使った狩猟などが盛んなため、かなり田舎に位置する。


 また、ここにはアメリカとの貿易拠点がある。そのため、巨大な軍事基地が駐屯し、日々、目を光らせている場所でもあった。


 しかし、さすがの軍人達も五メートルもある、機関銃もビーム光線も効かない宇宙生物など、手も足も出なかった。



 同時刻・シベリア大陸・スルグト



 セミゼブラは腹部に内蔵されていた約五〇〇〇匹のモココを放ち、人間の捕獲に向かわせた。何でも、人間を新しいバイオ生物の実験体にするようだった。


 セミゼブラは尚もブーストを発射し続け、地表を徐々にめくらせていった。


 モココの襲撃により、近くの軍事基地が機能を果たしていないため、ロシアの参謀本部は状況把握ができず、戦闘機の出撃ができずにいた。


 そんなこんなで、セミゼブラは新たな兵器の準備を始めていた。セミゼブラの肩にある、半径一〇〇メートルはある砲台らしきものに、エネルギーが充填されていった。


 そして、誰も気づかぬまま、世界中を恐怖に叩き落とす、スペースデストロイヤーが放たれたのである。


 


 同時刻・東シベリア海海上



 普段は平穏な東シベリア海。今、それが荒れ狂う海へと変貌を遂げていた。


「ラルフ二慰!何だこの激しい波は!」


 ハイベルトは長官用のデスクにしがみ付きながら言った。


「どうも大陸で何かあったようです!地殻変動が起きてます!」


「地殻変動?どこかの国が戦争でもおっぱじめやがったのか?」


「私に聞かれても困ります!ちょ、長官!海底から高熱の何かが上がってきます!これは・・・マグマです!海底火山が噴火しました!」


「何だって!真下なのか!」


「はい!あと五分弱で当艦にたどり着きます。たどり着けば、焼け焦げるどころじゃなくて全部がドロドロに溶けてしまいます。艦長、指示を!」


「うむ・・・。仕方あるまい。これより、我々は当艦を捨て、アメリカへの輸送用の戦闘機に乗り込み、脱出を図る。シャッターを開けた後、戦闘機を操縦出来る者は操縦席に乗り込み、後の者は後部座席に何とか入れ。これが私の最後の最後の命令となる!脱出した後は各自、自分の判断で生き延びよ!以上だ!かかれ!」


「了解!」


 船員達が急いで戦闘機へ向かう中、ハイベルトはゆっくりと艦長室へと向かっていた。


「艦長!何をしているんです!早く戦闘機へ!」


 ラルフ二慰がすれ違いざまに言うと、ハイベルトは決死の形相で言った。


「ラルフ君、私はこの船の艦長だ。艦長は必ず船を最後に降りんといかん。これは、私の宿命だ。いいからラルフ君、行きたまえ。」


「艦長・・・」


 その時、ラルフ二慰は初めて男の信念というものを見た。ラルフ二慰は、何も言えず、後ろ髪を引かれる思いで、戦闘機へと向かっていった。


 その後、艦長がどうなったかは定かではない。しかし、アメリカへの軍事輸送船は確かにマグマへと飲み込まれていった。


 


 同時刻・世界各地



 セミゼブラのスペースデストロイヤーにより、シベリア大陸が吹き飛んだ。その影響で、地殻変動が起き、津波やマグマが地表を覆った。


 セミゼブラはスペースデストロイヤー発射後、モココを数体回収し、多くのモココを残したまま、セミゼブラを作った宇宙人の下へ帰っていった。


 多くの生物が死に絶えていった。月の破壊から始まったこの一連の出来事は宇宙人の存在を肯定し、残された人類の大きな糧となった。


 それから一月余り経ち、宇宙へと脱出をしていた各国首脳は総合政府を設立。残された鉄屑を再利用し、宇宙人に対抗すべく、新たな兵器を製造していった。



 三〇二一年・旧東京



 宇宙が送り込んできた兵器・セミゼブラの襲撃から数か月。文明は荒廃し、生き残った人々はモココに見つからないように生活している。しかし、食料は限界になりつつあり、宇宙人に怯えながらの日常は次第に人々の心に深い傷を負わせるようになっていた。


 そんな時、総合政府は、「地球種移民計画」を発動した。それは、恒星間連合艦隊によって生存者達を、幸いにも、まだ大きな影響を受けていない火星基地へ避難させる計画である。




「地球種移民計画・・・か。」


 そう呟いたのは日本の戦艦の一つ、「丈翔」の長官である原田聡一だった。彼の下にも、今回の計画で、生存者たちを乗せて火星基地へ避難するように指令が届いていた。


「長官、我々が向かうのはどこの区域ですか?」


「関東地区だ。あそこの軍は全滅と聞いていたが、横浜第三基地の地下の存在はまだ気づかれていないようでな。兵は少ししかいないが、民間人がたくさん隠れて暮らしているようだ。」


 原田は乗組員の一人、黒崎天竜にそう答えた。その後、しばらく沈黙が続いたが、黒崎っが口を開いた。


「長官は、人類が生き残れると思いますか?」


 そんなことを聞かれ原田は驚いた。


「それは分からないが生き残れると信じて戦う。それが我らの役目ではないのか?」


「すいません、変なことを聞いて。」


 そう言うと、黒崎は去っていった。原田は、普段勢いがあって勇敢なパイロットである彼から初めて弱弱しさを感じた。


 そして、原田は艦内放送で乗組員全員に告いだ。


「これより当艦は、横浜第三基地へ向かう。」


 原田がそう言うと「丈翔」は出発したが、すぐに「丈翔」のレーダーが異常を示した。


「何事だ?」


「敵の反応あり、モココだと思われます。」


「モニターに映せ。」


「了解。」


 管制官の緑川鈴音は指示通りモニターに映した。すると、そこにはモココに捕まりそうになっている親子の姿があった。


「長官、俺があの二人を救出しに行きます。」


 パイロットの一人、赤葉晴が名乗り出た。


「よろしく頼むぞ!」


 赤葉は自分の戦闘機「ギャラクシーファルコン五号」に搭乗し、モココのところに向かった。


「くそっ、あの化物め、どこまで追ってくるんだよ!」


 親子二人は必死に逃げていたが、子供が躓いて転んでしまう。


「そ、蒼汰!」


 モココが子供に飛び掛かろうとした時、「ギャラクシーファルコン5号」の攻撃がモココを倒した。


「よかった。間に合った。」


 赤葉はすぐにその親子を乗せ、「丈翔」へ戻った。


「ありがとうございます。あなたは私たちの命の恩人です。」


「当然のことをしたまでですよ。」


 赤葉は何度も礼を言われた。しかし、助けた子供の方は、先程から恐怖に囚われ、大声でずっと泣いていた。


 「うえ~ん。怖かったよ~。」


「もう大丈夫だって、蒼汰。」


 父親はそう言うが子供は泣き止みそうになかった。


「無理もないですよ。こんなに幼いのにあんな経験をしたんですから。」


 赤葉はそう言うと同時に、早くこんな悲劇を終わらせなければと改めて決心し、「丈翔」のコックピットへ戻っていった。


「赤葉晴、帰還しました。」


「ご苦労だった、赤葉。お手柄だ。それでは今度こそ、横浜第三基地へ向かう。」


 横浜へ向かう途中、コックピットのメインモニターに映るのは、倒れたビル、崩壊した山など、正にこの世の終わりとも言うに相応しい風景だった。あんなにも発展していた東京も、高層ビル、さらにスカイツリーまでもが崩壊し、それを見ている乗組員達は宇宙人の恐ろしさを痛感することになる。


ー横浜第三基地地下F5ー


「到着しました。長官。」


 「丈翔」は基地の非常口から地下へ入った。そして、すぐに生存者達を乗せ始める。すると、一人の男がコックピットへ入ってきた。


「失礼します、原田長官。自分はこの基地を取り仕切っていた黄村明永と申します。」


「ここを取り仕切っていたのか。これまでよく非難してきた人々を守ってくださった。礼を言います。」


「礼なんてとんでもない。私も火星に行くまでの間、この船で世話になります。なので、長官。私と私の部下に何か役目を 頂けないでしょうか?」


 原田は、黄村の目の奥に、希望の炎が燃えているのが見えた。彼のやる気は絶大だ。


「ならば、まずはこの戦艦に乗る民間人をまとめてもらいたい。きっと不安で仕方がないだろうからな。」


「了解しました!」


 黄村は大きな声で返事をし、頭を深く下げてからコックピットを後にした。


「こちら、コックピットの原田だ。黄村君、この基地の生存者は全員乗ったか?」


 原田は内線を使って黄村に連絡した。すると、向こうからは大きな声が聞こえてきた。


「はい、確かに全員乗りました!」


「分かった。では、「丈翔」は明日、各国連合軍艦隊に合流し、火星へ向かうと、生存者たちに伝えてくれ。」


 原田は、そう言うと内線を切った。とても元気のいい黄村の声を聞いて、原田は昔の自分を思い出していた.自分も、若いころは、黄村ぐらい元気のいい青二才だったと懐かしがっていた。




 基地で一夜を過ごし、出発の時が近づいていた。


「これより丈翔は、この横浜第三基地を離れ、連合艦隊と合流し、火星へ向かう。」


 原田は艦内放送で全員に呼び掛けた。


「メインエンジン点火。システムオールグリーン。」


 緑川が言った。発進準備は整った。


「丈翔、発進!」


 原田の掛け声で「丈翔」は出発した。乗っている人全員が無事を祈った。しばらく時間がたち、大気圏を超えた。


「長官、間もなく連合艦隊に合流します。」


 緑傘がそう言った直後、艦内に警報音が鳴り響いた。


「何だ?どうした!」


「長官、…セミゼブラが現れました!」


「何だと!」


 ようやく連合艦隊に合流したと思った矢先にあの化物が再び姿を現したのだった。艦内はパニックに陥った。


「皆さん、大丈夫です。落ち着いてください!」


 黄村が必死にパニックを抑えようとするが、艦内の民間人たちのほとんどは、恐怖に囚われ、黄村の声が届くことはなかった。


「パパ~怖いよ~!」


「大丈夫だよ蒼汰、きっと…大丈夫だ…。」


 一方のコックピットでは原田に決断が迫られていた。戦うか、逃げるか・・・。


「長官、どうしますか?」


 赤葉が聞いた。しかし、原田が答える間もなく、再び警報音が鳴り響く。


「今度は何だ?」


「セミゼブラから高エネルギー反応あり!」


 乗組員の一人、青桜刃が答えた。


「まさか・・・。」


 原田の悪い予感は的中した。そう、シベリアを吹き飛ばしたあのスペースデストロイヤーが再び放たれようとしていた。


 いくら連合艦隊でもそんなものには手も足も出ない。


 今ここから逃げようとしてもスペースデストロイヤーの射程距離から脱出することはできない…。


ならば・・・。


「やむを得ん…。ワープを使う。」


 原田の決断はワープだった。宇宙戦艦の中でも最新型である「丈翔」はワープが使えるのだった。


「全員に告ぐ!これより丈翔はワープを使う。各自、をの衝撃に備えてください!」


 原田が艦内放送で言った。


「青桜、赤葉、緑川、黒崎!ワープ準備だ!」


 原田が指示を出す。


「超次元ホイール始動!サラマンダーエンジン全開!空間転移プログラム起動!ワープ開始!」 


 青桜、赤葉、緑川、黒崎がそれぞれそう言った瞬間、スペースデストロイヤーは放たれた。おそらく、ほかの戦艦は成す術なく撃ち落されただろう。正に、間一髪である。ギリギリのところでワープした「丈翔」は何とか回避できた。


 しかし、ワープしたその先は目的地の火星ではなかった。スペースデストロイヤーによって空間が歪んでしまい、丈翔のナビゲーションシステムにエラーが生じ、目的地と違うところにワープしてしまったのである。


 それだけでなく現在地の座標も分からなくなってしまった。


『スペースデストロイヤー…。これほどとは…。緑川、ナビゲーションシステムはどれくらいで直せるか?」


「分かりません…。かなりシステムエラーが激しいので…。」


 緑川の答えに原田は焦っていた。そもそも、初めからワープを使おうとしなったのは、ワープはかなりエンジンに負担がかかり、燃料も大量に消費するためである。


「長官、ワープに失敗したこと、民間の人たちにも伝えるびきでは?」


 青桜が言った。


「そうだな・・・」


 原田が艦内放送で全員に言った。


「ナビゲーションシステムのエラーにより、丈翔はワープに失敗し、火星とは違う別の場所に来てしまいました。ですが、ご安心ください。必ず復旧し、皆さんを火星へ連れていきます。」


 艦内はセミゼブラから逃げられたという安心感があったが今の放送でそれは消え失せた。


「緑川、どれくらい燃料は持ちそうだ?」


「長くてもう三週間ですね・・・。」


 コックピットの全員が落胆していると、原田に内線連絡がかかってきた。


「こちら黄村です。長官、面会したいという民間人が一名いますが、どうなさいますか?」 


「分かった。ここに通してくれ。」


 その後、黄村がその人物をコックピットへ連れてきた。


「初めまして。私は白石正幸と申します。」


「あなたは・・・。」


 最初に反応したのは赤葉だった。そう、彼は先日赤葉に助けられた親子の父親である。


「赤羽さん、先日はお世話になりました。私、実は、システムエンジニアの国家資格を持っているんです。ナビゲーションシステムに異常が生じたと聞いたので、もしよければ、私にも復旧を手伝わせてもらえないでしょうか?」


 白石の申し出で落胆していたコックピットの雰囲気は変わった。


「もちろんだ。君の協力に感謝する。ここの職員だけでは復旧に時間がかかりそうだったからな。とてもありがたい。では、青桜、彼をシステム制御室へ案内してやってくれ。」


「了解しました。」


 原田の指示通り青桜は白石を案内した。



ー丈翔 システム制御室ー



「ここがシステム制御室ですか?」


「そうです。白石さん、今ここの職員が復旧作業をしているところです。力を合わせて一刻も早く直していただきたい。私からも頼みます。私からも頼みます。


「もちろんですよ。」


 白石は自信たっぷりな返事をして、そのままシステム制御室へ入っていった。それを見届けると青桜はコックピットへ戻った。


「戻ったか。青桜。」


「はい。白石さんは、かなり自信があるようなので期待できます。」


「そうか・・それは良かった。」


 しかし、原田にはまだ心配なことがあった。食料の問題である。今、かなりの人数が丈翔に乗っているため、足りなくなる可能性もあった。だが、それは早く火星に着ければ問題ない。やはり、ナビゲーションシステムの復旧を待つしかなかった。


「緑川、桃山君を呼んでくれ。」


「分かりました。」


 桃山光、彼女は情報解析の分野が得意な丈翔の乗組員の一人だ。


「失礼します。桃山です。長官、何か御用でしょうか?」


 桃山が指令を受けてすぐにコックピットに入ってきた。


「君に頼みたいことがある。セミゼブラについて調べてほしい。」


「セミゼブラ…ですか。」


「ああそうだ。以前総合政府から送られてきたセミゼブラのデータと、大気圏で奴に遭遇した時のデータを君のデスクへ送っておく。その情報をもとに、セミゼブラの弱点を見つけてほしい。」


 桃山はそういわれて驚いた。そして思った。あんな化物にそもそも弱点などあるのか。桃山はしばらく黙り込んでしまった。


「今の丈翔には再びワープするだけの燃料は残っていない。つまり、もしまたセミゼブラに遭遇したら、我々は戦うしかない。ワープなしではセミゼブラから逃げ切るのは無理だからな。戦って勝つには弱点を突くしかない。」


 原田にそう言われるが、桃山には自信がなかった。


「分かりました、長官。やってみます。」


 自信がなくてもやるしかないと桃山は自分に言い聞かせ、承諾した。


「頼んだぞ。」


 桃山はその後すぐに自室へ戻り分析を始めた。


「ところで緑川、通信システムはどうなっている?」


「通信システム自体に異常はありませんが、スペースデストロイヤーで空間が歪んでしまった影響で、現在はネットワークに接続できません。これに関しては元に戻るのを待つしかないかと…。」


 緑川の答えを聞いて原田はため息をついた。原田は最終手段として火星基地へ救援を要請するという考えがあったがそれも潰れてしまいそうだ。


 そして、宇宙人の追っ手に見つかるかもしれないという恐怖の中、丈翔に乗っている人々の生活は宇宙へ飛び出してからすでに三日目へ突入していた。


 そんなとき、原田は丈翔の乗組員の一部をミーテイングルームへ集めていた。


「では、これよりミーテイングを始める。今日は、それぞれの状況を報告してもらう。まず、ナビゲーションシステムの状況はどうなっている、水野。」


「白石さんの助けもあって順調に進んでいます。あと二日以内には完全に復旧できます。」


 システム制御室職員の一人、水野渉が言った。


「分かった。では、引き続き作業に当たってくれ。緑川、通信システムはどうなっている?」


「依然としてネットワークには接続できません。」


「そうか…分かった。次に黄村、民間の人たちはどんな様子だ?」


「パニックは収まってきていますが、ストレスや不安から体調不良を訴える人が十数名います。ですが、医務室の朱城先生に診てもらっているので大丈夫だと思われます。」


「なるほどな。よし、次に黒崎。丈翔の砲台のメンテナンスは終わったか?」


「はい。いつでも宇宙人を迎え撃てます。」


「分かった。それと黒崎。自分の戦闘機を使えるようにしておけ。このこと、青桜と赤葉にも伝えておいてくれ。」


「了解。」


「それでは、今日のミーテイングはここまでだ。各自、自分の持ち場に戻ってくれ。」


 原田はミーテイングを終えた後、すぐにもも桃山のところへ向かった。


「入るぞ、桃山。」


 原田が部屋に入ってみると、難しい顔でセミゼブラのデータを見ている桃山の姿があった。


「どうだ?順調か?」


 桃山はセミゼブラのデータ解析に気を取られていて、すぐには反応しなかった。原田がいることに気づいたときにはとても慌てていた。


「あ…ちょっ、長官!すいません。こっちに夢中になってて…。」


「いいんだよそんなこと。それよりデータの…」


「はい!セミゼブラのデータ解析は終わりました。奴の弱点はここです。こ温度が一番高くなっている部分。これが、スペースデストロイやーのエネルギー貯蔵庫だと思われます。ここを打ち抜けばきっと、セミゼブラを倒せます。」


 原田に頼まれたときは、自信が無さそうな桃山だったが、やはり彼女は優秀だった。しっかりとセミゼブラの弱点を見抜いていた。


「ただ、気になることがありまして、この二番目に温度が高くなっている部分。これが何なのかが分からなくてさっき悩んでいました。」


「なるほどな。その部分が何かは分からなかったわけか。まあでも、奴の弱点を見つけたんだ。大手柄だぞ桃山!本当によくやった!」


 原田に褒められて嬉しそうな桃山だったが、すぐにデータの解析を再開した。原田も部屋を後にし、コックピットへ戻った。


 


 そして宇宙へ飛び出してから五日目。コックピットへ内線連絡がかかってきた。システム制御室の水野だった。


「長官、たった今ナビゲーションシステムの復旧が終わりました!」


「本当か!でかしたぞ!」


 その朗報を聞いてコックピットの全員が喜んだ。緑川がすぐに復旧し終わったシステムで、現在の座標を把握する。


「長官、現在我々は太陽系の外にいるようです。」


 そんなに遠くまでワープしていたのかと驚く一同であった。


「残りの燃料で火星まで行けそうか?」 


「火星までは厳しいですが、木星のガニメデ基地までなら何とか行けそうです。」


 それを聞いて原田はほっとした。


「よし、ではすぐにガニメデ基地へ向かう。」


 希望が見え始めたその時、丈翔の艦内に警報音が鳴り響く。あの化物が再び現れたのである。


「長官・・・セミゼブラです!」


 しかし、誰も怯えてはいなかった。この状況を想定して作戦を立てていたからである。


「作戦通りに行くぞ。青桜、赤葉、黒崎!お前たちは戦闘機で出撃だ!」


 原田の指令で青桜、赤葉、黒崎の三人はそれぞれ自分の戦闘機「コズミックイーグル2号」、「ギャラクシーファルコン5号」、「コスモフェニックス1号」に搭乗し、出撃した。


「オペレーション・SEMIZEBURA・・・開始!」


 青桜、赤葉、黒崎がセミゼブラに攻撃する。しかし、体長千メートルの化物には戦闘機の攻撃では歯が立たなかった。だが、3人は囮だ。その隙に丈翔はセミゼブラの後ろに回り込む。


「あそこだ!あそこがセミゼブラの弱点、スペースデストロイヤーのエネルギー貯蔵だ!照準を合わせろ!」


「了解」


 緑川は原田の指示で照準をしっかり合わせ、ロックオンした。


「今だ!超重力干渉砲、発射!」


 戦艦の中でも屈指の破壊力を誇る丈翔の「超重力干渉砲」。


 それは確かに命中した。


「長官、目標へのダメージ、一切確認できません・・・。」


 艦内の全員が驚いた。セミゼブラはエネルギー貯蔵庫の周りにバリアを張っていたのだ。


「さすがは宇宙人の作った巨大兵器・・・。抜かり無く弱点を守ってやがる・・・。」


 皆が呆気に取られていると、セミゼブラの体内から大量のモココが飛び出し、丈翔に向かってきた。


「くそ、モココを迎撃する!撃てー!。」


 しかし、数があまりにも多く丈翔も対処しきれない。モココの攻撃で、どんどんダメージを負っていく。


「エナジーレーザー!」、「プラネットブラスター!」、「バーニングバースト!」


 青桜、赤葉、黒崎がそれぞれの戦闘機のビーム攻撃でモココを倒し、丈翔を助けた。だが、バリアがある限り、丈翔に勝ち目はなかった。


 誰もが諦めかけた時、コックピットに桃山からの通信が入った。


「長官、聞いて下さい。以前、セミゼブラの2番目に温度が高い部分が何か分からないと言いましたが、今ようやく分かりました。あの部分はセミゼブラのバリア発生装置です。その装置を壊すバリアは消えます。」


 しかし、その装置はセミゼブラの体内にある。どうやって破壊すれば良いのかが分からなかった。そんな時、黒崎が言った。


「俺がこのコスモフェニックス1号でセミゼブラの体内に入って装置を破壊しに行きます!」


「だが、あまりにも危険だぞ!」


 原田がそう言った時、既に黒崎はセミゼブラに向かっていった。


「仕方がない。確かにそれしか方法はないな・・・。青桜、赤葉!黒崎を援護してくれ!」


「了解!」


 2人ともセミゼブラに向かった。黒崎は既にセミゼブラのモココの出入り口から体内に侵入していた。しかし、大量のモココに行く手を阻まれていた。


「こいつら、一体何匹いるんだよ!」


 そこに、青桜と赤葉が追いつく。


「モココは俺たちが倒す!」


「黒崎は先へ行け!」


 黒崎はモココを青桜と赤葉に任せて奥へ進んで行く。だが、そこにもモココが大量にいた。


「お前らの相手をしてる場合じゃねーんだよ!コスモフェニックス1号ウィングドライブモード発動!」


 ウィングドライブモード発動すると、通常の3倍のスピードで飛ぶことができる。その分、パイロットへの負担は並外れたものとなる。


「うおおお・・・・。」


 凄まじい勢いで飛び、モココをかわしてさらに奥へと進む。


 そして、黒崎の目にセミゼブラのバリア発生装置が見えた。


 だが、黒崎がスピードを落とす気配は無い。


「待ってろ・・・すぐ逝く。」


 黒崎は胸のポケットから、今は亡き妻と子供の写真を取り出して言った。


 その瞬間、コスモフェニックス1号はバリア発生装置に突撃した。コスモフェニックス1号は爆発を起こし、その反動でバリア発生装置やその他の電子回路やモココも巻き込み、次々と連鎖的に爆発を起こしていった。

「おい!奥でバカでかい爆発の音が聞こえるぞ!黒崎がやってくれたのか。よし、青桜!退くぞ!」


「待て!このモココの数だ。黒崎が無事に戻って来れるか心配だ。それに黒崎との連絡も取れない。もうちょっと待って、モココを倒しておこう。」


「そうだな・・・よし、弾が尽きるまで援護しよう。長官には俺から伝えとく。」


「ああ、頼む。」


 二人はそう言葉を交わすと、モココを次々と撃破していった。




ーコックピットー




「長官、バリアが解除されました。」


 桃山が言った。


「うむ。三人から連絡は?」


「赤葉隊員からの連絡です。黒崎隊員がバリア発生装置を壊しに行ったまま、戻らないそうです。二人は黒崎隊員が戻るまで帰還しないと言っています。」


 原田は考えていた。今、ここでセミゼブラを叩いておかなければいつ、スペースデストロイヤーが放たれるか分からない。かと言って、ここで勇敢に戦ってくれた二人を見放す訳にもいかない。


 三人の命を取るか、この丈翔とたくさんの乗客員を取るか。


 原田の心の内では、ほとんどすべてが決まっていたのかもしれない。


「やむを得ん。緑川、超重力干渉砲を用意しろ!」


「し、しかし中にはまだあの三人が・・・」


「仕方あるまい。早く倒さねば、いつスペースデストロイヤーが発射するか分からない。ここを乗り切れば、ガニメデ基地まで着くことができ、皆助かる。あの3人も、それが本望だろう。」


「わ、分かりました・・・。」


 緑川は手を震えさせながら、ハンドルを握った。


「ちょ、長官!出来ません。私にはそんなこと・・・」


 緑川は涙を流しながら拒んだ。


「ええい!どけ!俺がやる!」


「きゃあ!」


 原田は緑川を押しのけ、ハンドルを握った。


「超重力干渉砲、発射!」


 丈翔の戦艦からビーム砲が放たれ、セミゼブラのエネルギー貯蔵庫に命中した。


「よし・・・これで・・・」


 原田がそう言った瞬間、セミゼブラは目も当てられぬほどの閃光を放った。


「ぐ、ぐぅ・・・」


 艦内の全員が目をつぶった。


 その時、セミゼブラはエネルギー制御が効かなくなり、内部爆発を起こしたのだった。その威力は、かつて第二次世界大戦時に広島を襲った核爆発の一〇倍は軽く超えるほどのものだった。


 その衝撃で、丈翔は前頭部の機体が破損した。


「長官、だめです!操縦桿と重力不干渉装置がやられました!近くの小惑星へ引き寄せられていきます!」


「何!何とか出来んのか!」


「今やっていますが、どこもかしこも回路がめちゃくちゃです。サブシステムもやられてしまいました。」


「くそっ、セミゼブラめ・・・うわっ!」


 丈翔は次々と隕石の欠片に激突した。その衝撃で丈翔は小さな破損を繰り返していった。


 原田の判断が間違っていたのか。それとも、セミゼブラが強すぎたのか。それは誰にもわからない。


 原田は究極の選択を迫られていた。


 ただ一つ、言えること。それは、ここに出てきた者達、或いは私たち、この世界で生きている様々な人々がどんな物語を生み出そうとも、時は流れていくということだ。


 荒れた土地にも時が経てば自ずと芽は生えてくる。


 彼らもそのうちに分解され、新たなる生命体としてこの世界に降り立つだろう。


 そしてまた、時は延々と繰り返し、流れていく。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ