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前略 南山三太様へ
私は理恵の父です。理恵から南山さんの事は聞いていましたので今手紙を書いています。
率直に書かせていただきます。理恵は白血病で5月29日に死にました。理恵には黙っていましたが医者からは白血病とは聞いていましたし長くは無いと言われていましたので覚悟はしていましたが今はただ時間が悲しみを消してくれるものと思っています。
孫の幸恵の事ですが、大変失礼ではありますが幸恵の為にも社会復帰後は一切の関わりを絶って欲しく手紙を書いております。
貴方も娘の事を本当に大事に思うのなら会わないで下さい。
大変失礼な話で申し訳ないのですが幸恵の本当の幸せを願うのであれば社会復帰後も一切関係を断ち切ってください。私と私の家内が必ず責任を持って幸恵を育てますのでお願いいたします。
急にこのような手紙を書くのは大変失礼だとは思いましたが理解してください。
どうぞご理解の程をよろしくお願いします。
平成7年6月1日
若いせいなのか白血病は一気に広まりあっという間に亡くなった。
三太が捕まり2年6月の時間が過ぎていた。
車に乗りながら何分くらい黙り込んでいたのだろう。
向かいから制服を着た女の子が歩いてくる。こういう時、親というものは不思議なものだ、生まれて一度も見た事が無いのに何処にでもいる女子中学生が娘だと分かるのだ。
「健二、あの子が幸恵だ」
「えっ!兄貴、娘を見た事あるんですか?」
健二は驚いた。どこにでもいる女子学生を見てこれが娘だというのだ。
「俺の娘だ」
三太は会わないと言った約束を破り軽トラから桔梗を持って降りた。
「あ、兄貴」
健二は止めても無駄だと思い黙り込んだ。気持ちが分からない訳では無い。
三太は初めて見るに幸恵に近づき言った。
「幸恵か?」
女の子は驚きながらそう言った。
「えっ?はい、そうですが」
三太は大きな声で言った。
「石川幸恵なのか?」
「えっ、そうですがおじさん誰ですか?」
知らないオヤジが急に話しかけて来たので幸恵は驚きながら少し怖がっている。
三太も混乱した。なんと言えばいいのだろうか?
「あ、その・・・おじさんは・・・」
沈黙の後、三太は頭の中が真っ白になり訳の分からない事を言ってしまった。
「・・・おじさんはサンタクロースだよ」
幸恵は驚きながら笑った。
「ええ!サンタって今は7月ですよ。おじさん」
三太の頭の中は真っ白になった。
「いや、その、おじさんは幸恵ちゃんのお母さんの昔の友達なんだ。・・・いきなりで悪いんだけど・・・お母さんの仏壇にこの花を飾ってくれないかお母さんが生前に好きだった花なんだが」
急にそんな事を言われても幸恵も困ってしまう。
「幸恵ちゃん、お母さんが好きだった花なんだ。・・・おじさんサンタクロースだから今から外国の子供達にプレゼント渡す為に遠いい国に行っちゃうんだ。・・・頼んだよ」
三太はそう言うとさっき買った桔梗の花を幸恵に渡した。
三太は桔梗の花を渡すと健二の待つ軽トラに向かい走った。
そして軽トラに乗り込んだ。
「健二もういい出せ!」
三太は叫んだ。
7月なので夕方なのに夕日がまだ強くまぶしい。
軽トラは来た道をゆっくりと帰りだした。
「健二やっぱりお父さんだって言えなかったよ」
「兄貴、それで良いんですよ」
「あの桔梗の花、ちゃんと理恵の仏壇に飾ってくれるかな?」
「大丈夫ですよ兄貴の子供じゃないですか信じましょうよ」
「健二もう娘のところには二度と行かねぇからな。顔見れたから満足だよ」
「そうですよ。それが親心ですよ」
「幸恵の顔、理恵に顔そっくりだったな。オレに似なくて良かったな」
「そうですね。兄貴に顔が似なくて良かったですね」
「そこは否定しろよ」
「健二、桔梗の花言葉知ってるか?」
「何ですか?」
「秘密だ」
「兄貴、教えてくださいよ」
軽トラの中で三太はボロボロになった理恵から来た最後の手紙を読んだ。
もう一度会いたいです
思い出をありがとう
愛してます
理恵
手紙の消印はちょうど理恵が亡くなった日付だった。おそらくは理恵の親父さんが出してくれたのだろう。
苦しい中で一生懸命に書いたのだろう。ミミズがはいつくばった汚い字だった。
苦しい中で一生懸命に書いてくれたのだろう・・・
「健二、桔梗の花言葉知ってるか?」
「何ですか?」
「秘密だ」
「兄貴、教えてくださいよ」
変わらぬ愛
三太は心で桔梗の花言葉つぶやき窓から外の景色を眺めた。
(完)
雑ですいません。良かったら感想ください。